↓第48話 うまれかわっても、あにめがすき。(間章 仁紫室の場合)

 あれはいつだったか。

 確か小学生のころだ。

 仁紫室にしむろジュンヤは、大好きなアニメを観ていた。

 誰が見てもお金持ちの家と呼べるほどの大きな部屋で。

 ただぼーっと、画面の世界を見つめていた。

 そのころ別の部屋では、母親が新しい恋人と夜の時間をすごしている。

 これで何度目だろう。

 仁紫室の父親は、度々入れ替わっていた。

 とにかく恋人といる時間が幸せらしく、母親は毎日彼氏のもとですごした。

 愛というものはお金になるらしい。

 よくわからないが、幼いころの仁紫室はそんなふうに思った。

 どの父親も相当なお金持ちだった。

 そして母親が幸せそうだったので、「自分と一緒にいてほしい」とは言えなかった。

 母親の時間を奪ってはいけない。

 そんなふうに思っていたからだ。

 母親が愛を育む間、彼は広い部屋で一人、アニメを観賞し続ける。

 そこには現実と別の世界が広がっていたため、少しだけ心が逃げることができた。


 ――そんなある日。

 また父親が変わった。


 今度は今までの比にならないくらいの大金持ちだ。

 一生どころか、生まれ変わっても遊んで暮らせるんじゃないかと思うくらいに。

 物だけじゃなく、家だっていくつも持っていた。

 彼のもとに行った母親は、もう自分のところに帰ってこないんじゃないかと思った。

 そんなことを考えながら、膝を抱えてアニメを観る。

 電気のついていない部屋で、スクリーンの明かりだけが二紫室を照らす。


 ……そうだ。


 自分もお金持ちになればいい。

 彼はふと、そんなことを思いついた。

 お金持ちになれば、母親は自分のもとに帰ってくる。

 そうすれば二人で生活することができる。

 なにも難しいことじゃない。

 じゃあ、なにをしてお金持ちになろう?

 そこで仁紫室は、愛をお金にかえることを思いついた。

 彼は目の前に手を伸ばす。

 夢の世界が、現実になる。

 愛に包まれた世界が、現実に――。

 仁紫室は笑っていた。

 アニメは終わり、スクリーンにはエンディングが流れる。

 そして「END」の文字とともに、部屋の中は真っ暗になった。



       ☆       ☆       ☆



「――仁紫室様! 仁紫室様ッ!」


 ここは『テソロ』。

 屋上のプールだ。

 デッキチェアで寝落ちしていた仁紫室は、男の切迫した声で目が覚める。


「どうしたんだ?」とあくびをしながら尋ねると、筋骨隆々のSPがグラリと倒れた。

 床に伏せたまま動かなくなる巨体を揺すりながら、「おい!」と仁紫室が問うと、彼は力なくこう答えた。


「襲撃です……」


「は?」


「このホテルは……襲撃されています」


 それを聞いて、仁紫室は何かの冗談かと思った。


「ハハハなに言ってるの? こっちの戦力くらいキミが一番把握しているよね?」


「いいえ、相手はそれ以上……このままだと我々は全滅です!」


 信じられない話だった。

 外部からの脅威を排除するために、仁紫室は高い金を積んでSPを雇っている。

 それは『テソロ』で育まれる『愛』を守るための騎士たち。

 すべては『愛』のため。

 ――その先にいる、母のため。

『テソロ』という夢の国が破壊されることは、絶対にあってはならないのだ。


「どうなっている? 相手は? 軍隊でも攻めてきたのかな?」


「いいえ、違います……」


 SPは言う。


「少女です」


「――は?」


「『閃光の迷探偵』が……屋上に向かっていますッ!」





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

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