↓第46話 りゆうを、おしえてくれ。

「こんにちは、勝神かすかみさん」


 留置場を訪れたのは迷子だった。

 透明なアクリル板を隔てて、二人は椅子に座る。

 刑事ドラマなんかでよくある光景だ。


「実はさきほど右左津うさつさんや日鷹ひだかさんともお話ししたんです。事件のことでいろいろと確認したくて」


「確認? 俺の知ってることは話しただろ」


 勝神は疲れた目を向ける。

 自分の話すことは、もうないといった雰囲気だ。


「とりあえず本題に入りましょう。実は簡単な答え合わせをしたいだけなんです」


「答え合わせ?」


「これを見てください」


 迷子はポケットから、三枚の写真を取り出す。


「なんだそれは?」


「ここに事件の謎を解くカギが記されています。この写真を見て、わたしの質問に答えてください」


「……ああ」


「それではまず一枚目です。この顔に見覚えはありますか?」


 そこには岩礁で死んだ男性――『X』の顔が写っていた。

 鑑識の人が検死する際に撮影したのを借りてきたらしい。


「いきなりなにを出すかと思えば……」


「すみません。どうしても必要なことだったので」


「前にも言ったが、その男のことは知らない。会ったような気もするが、俺の気のせいだったようだ」


「……そうですか」


 迷子は写真を仕舞い、


「では、二枚目です」


 次の写真を取り出す。

 そこには某アニメの有名キャラクターの姿があった。

 迷子はXに似ていると言っていたが……


「……すまない、そっちの方面には詳しくないんだ」


「では一枚目の人物と、この人物を見間違えたという可能性は?」


「間違えるもなにも、知らない人物を比較するなんてムリだ」


「……そうですか」


 迷子は写真を仕舞う。


「では、最後の写真ですが――」


 そう言って三枚目の写真を取り出し、


「この顔に見覚えはありませんか?」


 そう尋ねてみる。

 そこには『とある男性』の姿が写っていた。


「悪いが死体の男を探すんだったら、他をあたってくれ。何度やっても俺は、あんなやつ見た覚えがな――」


 写真を目にした瞬間。

 勝神の顔色が変わる。


「こっ、これは……」


 そして思わず立ち上がり、アクリル板に張りつきながら写真を凝視した。


「こいつだ……こいつで間違いない……」


「この人物、知っているんですね?」


「もちろんだ。特にならな!」


「これが死体の男性の正体です」


 迷子がそう口にすると。

 勝神の表情に混乱が窺える。


「ち、ちょっと待て! どういうことだ!? たしかに死体の男はコイツだ! でも……だとすれば決定的な矛盾が生じるじゃあないかッ!」


「そのとおりです」


 迷子は冷静に頷きを返す。


「なぜなら『写真の人物は今も生きている』からです」


 勝神の口元は震えていた。

 まるで幽霊を見たかのように、全身の力が抜けていく。


「意味がわからない……写真の男は生きている。なのになんで死体は存在するんだ!? 顔が似ている別人じゃあないのか!?」


「いいえ、死体と写真の人物は同一です」


「おかしいだろッ!? そんなオカルトめいた話、あるワケないじゃないかッ!!」


 勝神は、わけがわからずに頭を抱え込んでしまった。

 迷子はその様子を見ると、納得したように顔を上げる。


「ありがとうございます。わたしからの質問は以上です」


「お、おい!」


 その場を去ろうとする迷子を引き留めるように、勝神はアクリル板に張りつく。


「説明しろ! 何が起きている!? ヤツは何者だ!? 俺は何を見たんだ!?」


 その言葉に迷子は立ち止まると、


「そうですね」


 混乱する勝神に振り返り、


「強いて言うなら――」


 凪のように穏やかな声で、こう答えた。


「星蓮海岸の呪いです」





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る