↓第44話 すると、そこには……。

 二人が宿の近くまで戻ってくると、3人の人影が見える。

 二十代くらいの男女が、大きなキャリーケースを持ってウロウロしていた。


「誰だろう? 予約は入ってないけど……」


「怪しいですね……行きましょう!」


 迷子は走って男女の元に向かう。

 星蓮荘の中を覗こうとしている男性を掴まえて、「なにしてるんですか?」と問い詰めた。


「ひゃっ!」


「ここは予約しないと泊まれませんよ」


「え? あ? もしかして……才城、さん?」


「? そうですけど」


「やっぱり! ウワサは本当だ!」


 男は興奮したように騒ぎだす。

 ほかの二人も顔を見合わせ、どういうわけか喜び出した。


「あ、すみません! ボクたち才城さんのファンなんです。偶然この宿で姿を見た人がSNSに投稿してて――」


 携帯端末の画面を見せる男性、そこになにげない呟きが投稿されていた。

 迷子を星蓮荘の近くで見かけたという情報だ。

 この一文を頼りに、この三人は立ち寄ったという。


「ちなみに今、旅行中なんです。この近くで宿をとってまして」


「そうでしたか。でも勝手に中を覗いちゃダメですよ。マナーは守らないとです!」


 ビシっと人差し指を立てて忠告する。

 ファンたちも「「「すみませんでした!」」」と謝って素直に反省した。


「才城さんと会えたことだし、ボクたちはそろそろ失礼します」


「楽しい旅を。せっかくですからわたしのサインをあげます。記念にしてください!」


「「「やたー!」」」


 どこに隠し持っていたのか、迷子は忍ばせていた色紙にサインを書いて三人に渡す。

 みんなとても喜んで、「ありがとうございました!」とお辞儀をしてこの場を去った。


「迷子ちゃん、人気だね」


「フフン。わたしも有名探偵の仲間入りですかね!」


「迷探偵のほうかもだけど……」


「さぁ、中に入りましょう! みおちゃんカギはあります?」


「あ、うん!」


 そして二人は扉を開け、食堂に入る。

 端末が見つかることを祈りながら――



       ☆       ☆       ☆



「え~っと、確かこのへんに……」


 澪はテーブルの下を隈なく探す。

 するとうららとぶつかった辺りに、見慣れた四角い物体が落ちているのに気がついた。


「――あった!」


「見つかりましたか?」


「これだよ迷子ちゃん! はぁ、やっぱりぶつかったときに落としちゃったんだ……」


 そこにはプライベート用と仕事用の二つの端末がある。


「無事でなによりです。もうなくしちゃダメですよ」


 迷子はそう言うと、再び星蓮荘を出ていこうとする。


「どこ行くの? お茶でも飲んでいけばいいのに」


「ありがとうございます。でも、少し気になることがありまして」


「事件のこと?」


 迷子は「はい」と頷く。

 こればかりは、無理に引きとめるわけにもいかないだろう。


「うん、わかった。じゃあ美味しいご飯を用意しとくね!」


 澪の言葉に、


「お願いします!」


 と返事をして、迷子は外へ出ていった。

 事件の真相を暴くため、彼女は最後の仕上げに取り掛かろうとしている。

 向かうは警察署。


 そこに留置されている、ある人物に会うために――





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

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