↓第43話 まじめな、はなし。
今日も海岸はたくさんの人で賑わっていた。
きらめく海と、どこまでも続く青い空。
しかし目を凝らしてみれば、白い砂浜のいたるところに散乱するペットボトルや割り箸などのゴミ。
その一つ一つを、澪と迷子は拾っていく。
「なかなか骨が折れますねぇ……」
「これだけの量だからね。そう簡単にはいかないよ」
背負ったカゴの中が、あっという間に埋まっていく。
掃除をはじめて一時間もすれば、迷子は汗だくで息を切らしていた。
「迷子ちゃん? すごい顔してるけど大丈夫?」
「ゼェ……ゼェ……だいじょうびゅでじゅ……」
「なんか語彙力ヤバイよ。休憩しよっか」
澪に言われると、フラフラとした足取りで日陰に腰を下ろす迷子。
そのとなりに澪も座り、重いカゴを下ろした。
「ゼェ……ゼェ……やっぱりみおちゃんはすごいですね」
「え?」
「こんなたいへんなことを毎日続けるなんて、それなりの意志がないとできません」
「ふふ、そんな大したことじゃないよ。ただの習慣だから」
そう言って澪は、遠く水平線を眺める。
「ねぇ、迷子ちゃん」
「はい?」
「なにかわたしに言いたいことがあるんじゃない?」
メガネの位置を正して、澪は問う。
その言葉を聞いた瞬間、迷子は動揺して携帯端末を取り出した。
「う、海がきれいですねぇ! どうですみおちゃん? せっかくなので、ど、動画に残しませんか!?」
「迷子ちゃん、すごいよ汗」
話をごまかそうとしているのがバレバレだ。
このまま引きずっても仕方がないので、迷子は観念して澪に向き直る。
「……実は、みおちゃんに大事な話があるんです」
「大事な?」
「昨日、仁紫室さんのことを調べていたんですが、わたしが思っている以上に危ない相手だということがわかりました。これから根城を叩くため、万全の準備が必要です」
「迷子ちゃん、繰り返しになるけど危ないことはダメだよ。みんなの身に危険が及ぶくらいなら、もう捜査は頼まない」
「いいえそうはいきません。一度引き受けた依頼ですから。それにうららんとゆららんは強いです。そう簡単にやられるニンジャじゃありません」
「でも……」
「しかし
「ひみつへいき?」
「そうです。そのためにはみおちゃんの協力が必要です。無理にとは言いませんが……どうか力を貸してくれませんか?」
迷子は真剣だ。
ここまで言われて断る気にもなれず、
「わかった。わたしでよければ」
澪は力強く承諾した。
「ところで迷子ちゃん、わたしはなにをすればいいの?」
「詳しいことは作戦の前日にお話しします。まずは情報を集めているゆららんの一報を待ち、後日あらためて連絡を」
そう言う迷子に、
「うん。わかった」
澪は相槌を返す。
ここまできたら、やれるだけのことはやろう。
緊張しながらも、澪はみんなの役に立とうと自分を鼓舞した。
「あっ! あれは――」
するとそのとき。
迷子がスッと立ち上がり、沖の向こうに手を振る。
そこには一隻の漁船があった。
「おーい! 迷子ぉ~! みおっち~!」
「え? あれは――」
澪は目を細める。
うららだった。
なぜか漁師の格好をしたうららが、こちらに向かって大漁旗を振っている。
「実はうららんに海の調査を頼んでいたんです」
そう話す迷子に「調査?」と澪は聞き返す。
「簡単な生物調査です。例の岩礁付近に珍しい生き物でもいれば、『X』さんが探していたかもしれないって思ったんです。そうすれば岩礁に出向く理由の説明になるかと思ったんですが……どうやら仮説は間違っていたようですね。その場合は大漁旗を振ることになっていたんです」
「そうだったんだ……」
「ちなみに水産科のバイトを手伝う代わりに、ああやって船を出してもらったんですよ」
「それでうららさん早朝にバタバタしてたんだね。海の仕事は朝が早いから」
階段でぶつかった光景を思い出して、澪は納得する。
「とにかくこれで岩礁に何もないことはわかりました。念のため調べて正解です」
迷子は安心したように背伸びをすると、「グゥ」とお腹が鳴る。
澪は小さく笑いながら、話しかけた。
「そろそろ帰ろっか。食材の買い出しもしないと――」
そう言ってポケットに手を入れるが、入れたはずの携帯端末が見つからない。
プライベート用と仕事用の二つともだ。
落としたのだろうか?
ゴミ拾いをしているときはポケットを閉じているので、家を出るときに入れ忘れたか、あるいは――
「もしかしてうららさんとぶつかったときに落としたのかも……」
「わかりました。いったん戻って探しましょう!」
迷子たちはカゴを背負い直し、宿に向かう。
端末が見つかることを祈る澪だったが。
そこで待っていたのは、星蓮荘の中を覗く怪しい人影だった――
――――――――――――
●お読みいただきありがとうございます。
次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。
それではまた(^^)
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