↓第36話 ばくたん! しょうかんでっす!

「申し訳ありませんが、お引き取りください」


 深々と頭を下げる女性スタッフを前に、迷子たちは立ち尽くす。

 時間がないことを理由に、仁紫室は聴取に応じなかった。

 おそらく探られるとマズい何かがあるのだろう。

 相手が拒否する以上、話し合うことができない。

 何度かお願いしても、スタッフからは同じ回答が返ってくるばかり。

 ついに面会が許されることは、なかった。


「む~……こうなったら」


 迷子はメイドたちに目配せする。

 ここはプランを変更して、攻めるしかない。


「ちなみにですがバイトを探してるんです。ここで女性スタッフを雇ってましたよね?」


 尋ねる迷子に、「清掃員のことでしょうか?」とスタッフは返す。


「そうです。すみませんが面接してほしいのですが――」


「申し訳ありませんが、こちらはすでに募集を締め切っております」


 スタッフは何事もなかったように淡々と告げた。

 フロアの案内用ディスプレイには、求人広告が流れていない。

 どうやら迷子たちの行動を先読みした仁紫室が、募集を打ち切るように指示したのだと思われた。


「お力になれず申し訳ございません。本日のところはお引き取りください」


「むむむ……そこをなんとか!」


「申し訳ございません」


「給料いりませんから!」


「申し訳ございません」


「給料あげますからっ!」


「申し訳ございません」


 問答を繰り返すが、スタッフの返事は変わらない。

 聞き込みもバイトも空振りに終わった。


「迷子、ここはいったん引こうぜ」


「そうねぇ。なんだかSPたちの視線もピリついてるしぃ」


 黒服たちの視線が、レーザーポインターのように三人を包囲する。

 メイドたちは、彼ら特有の殺気を感知していた。


「仕方ありません……本日のところは帰りましょう」


 迷子は一礼して、カウンターを去る。

 テソロの外に出て、不満のため息を吐いた。


「はぁ……最悪ですね。これじゃあ捜査がはかどりません!」


「まぁな。でもはっきりしたじゃん。仁紫室が黒に近いって」


「ええ、それがわかっただけでも収穫だわぁ」


 二人にほっぺをつつかれ、迷子はプルプルと子犬みたいに顔を振る。


「とーにーかーくっ! これでもう手加減する必要はありません! あっちがその気なら、こっちもその気でいかせてもらいましょう!」


 悪そうな笑みを浮かべる迷子。

 こういうとき彼女は、ろくなことを考えていない……。

 星蓮荘に帰った三人は、さっそく次の手に取り掛かる。


「フフフ、見てなさいです! 『エレナさん』を召喚でっすッ!」





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)


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