↓第35話 るいじした、がぞう。
迷子たちは人混みに身体をねじ込み、騒ぎの中心へと進んでいく。
そこで見た光景に、一瞬、目を疑った。
「そこまでだッ!」
屈強なライフセーバーが、暴れる男性を取り押さえていた。
砂浜にうつ伏せになったその人物を見て、迷子が口を開く。
「あれは……右左津さん?」
容疑者の一人である彼は、目の前に転がった自撮り棒と端末を拾おうと必死だった。
「はっ……はなせーーーッ! 俺の……俺のだぁぁああぁぁァァーーー!!」
しばらくすると警官がやってくる。
バンケットを捜査していた一人だろう。
周りの女性たちが、右左津に軽蔑するような眼差しを向けていた。
「やめろ……は、離せぇェェーーーッッ!!」
「君かい? ちょっとこれ、見せてもらうよ」
警察官は落ちている端末を拾い上げ、
指紋認証でロックを解除させると、保存されている映像データを一つ一つ確認していった。
「これは……」
そこに映っていたのは、海岸にやってきた女性たちの映像。
つまり『盗撮の記録』だった。
データを遡ると、かなり前から盗撮を続けていたことがわかる。
警察官は鋭い目つきで、うつ伏せになる右左津を睨んだ。
「さ、立ってもうらおうか!」
もう言い逃れできないと悟ったのか、暴れていた右左津はおとなしく立ち上がる。
虚ろな目で口を半開きにしたまま、警官に手を引かれてこの場を去っていった。
「…………」
野次馬がザワつく中、迷子は彼の背中を見つめる。
さっきの悲鳴は、盗撮がバレた瞬間だったようだ。
「現行犯ってやつですね。しかし右左津さんも警戒していたはず。なんで盗撮がバレたんでしょう?」
「ええ、その理由はこれだわぁ」
ゆららがひょこっと端末をかざし、例のグループチャットを起動する。
「なっ、マジか……!?」
うららは思わず声を出す。
そこには右左津が盗撮する後ろ姿が投稿されていたからだ。
「撮影されたのって、ついさっきじゃねーか!?」
「この動画を観た生徒たちが、瞬時に彼の居場所を特定したみたいねぇ。これだけの人だかりだし、すぐに居場所は割れるでしょう」
ゆららはあたりを見渡す。
星蓮学園の生徒たちが埋め尽くす海岸で、事を起こせば結果は火を見るよりも明らかだ。
「右左津さんが捕まったということは、日鷹さんを晒したのは彼じゃないんでしょうか?」
迷子は難しい顔をする。
こうなると残る容疑者は一人だ。
「そうねぇ、仁紫室さんがやったとしても不思議じゃないわぁ」
「やっぱ保身のために先手を打ったのか?」
うららとゆららも想像を巡らせる。
もう仁紫室を邪魔するものは誰ひとりとしていない。
こうなると会長のイスは、目の前だ。
「…………」
仁紫室のもとへ向かおうとしたメイドたち。
しかし迷子は立ち止まり、考えている。
「どうしたのぉメイちゃん?」
「いや、ちょっと気になることがありまして」
唸っていた迷子は、ゆららの端末を拝借して盗撮の動画を再生する。
「この動画、似ているんですよ」
「へ? なにがだ?」
「養殖場の盗難事件。あのときの動画と似ているんです」
「どういうことぉ?」
うららもゆららも首をかしげる。
迷子は画面を見ながら、
「ほら、ここ!」
指で映像の右端をさした。
「ん? なんか黒い影みたいなのがあるな」
「近づきすぎてわかんないけどぉ……」
「一見レンズに指でも重ねたのかと思いました。けどこれ、よく見ると木材のようにも見えるんです。同じようなものが魚の盗難動画にも映っていたんです。この正体が気になって……」
「木材っつっても、このあたりに木は生えてないぜ?」
「撮影者が持っていたのかしらぁ?」
メイド二人も頭をひねる。
この物体は撮影者とどのような関係があるのだろう?
「む~……やっぱり呪いの線は捨てきれませんねぇ。ほら、木の札に呪文を書いたりするヤツあるでしょ?」
「捨てろよ、その線」
「少なくとも女神は携帯持たないわぁ……」
呆れるうららとゆらら。
けっきょく木材らしきものの正体はわからなかった。
「とにかくできることからやろうぜ。残る容疑者は一人なんだし」
「そうねぇ。ちょうど目的地は目の前よぉ」
振り返れば超高層の建物が見える。
仁紫室が経営するホテル『テソロ』だ。
「ふぅ、迷ってる場合ではなさそうですね」
迷子は気を取り直す。
犯人の可能性がある彼を、今一度調べる必要があった。
もっとも、聴取に応じてくれるかはわからないが。
「いきましょう!」
三人はテソロへと向かう。
が、このあと微かに懐いていた懸念が、的中することとなった――
――――――――――――
●お読みいただきありがとうございます。
次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。
それではまた(^^)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます