↓第33話 うずきだした、こころ。 (間章 日鷹の場合)

 日鷹高志ひだかたかしは星蓮学園・高等部の生徒会副会長だ。

 両親はクラブハウスやパーティーイベントの運営が成功して、巨万の富を得る。

 彼が物心つくころにはすでに、両親は毎日多忙な日々を送っていた。

 ただ多忙とはいえ、仕事のほうが楽しくてしょうがないという印象を受けた。


 そんな親の姿を眺めながら、日鷹はなんとなく毎日を過ごす。

 幼いころからいい家に住み、いいものを食べ、いい服を着る。

 なに不自由ない生活を、あたりまえのように享受きょうじゅしていた。

 それに不満があったわけじゃあない。

 ただ、テストで100点を取ろうが、かけっこで一位になろうが、両親の関心が彼に向くことはなかった。

 そのことについては少しモヤモヤした感情が芽生えたが、変わらない日常に抵抗することもなく、日々は過ぎていく。


 ある日、学園祭で披露したDJライブが、ことのほかウケたことに日鷹は驚いた。

 会場を埋め尽くすオーディエンスの関心が、全て自分に向けられていたからだ。

 腕を振り上げながら、アツい声援が送られる。

 この場の空気を、人を、全てを掌握したような快感を得た。

 彼はこのとき、自分の音楽が持つ力を認識する。

 退屈しのぎに聴いていた音楽が、そしてなんとなくはじめて、なんとなく続けていたDJが、それが自分の武器だと気づいた。


 コイツで頂点を極めれば、いずれは両親の関心を向けることだって――。


 そんなことを思いながら、彼は音楽活動を続けていた。

 やがてその規模は大きくなり、ついには海の家『バンケット』を造るまでに至る。

 イベントを開けば会場は盛り上がり、ファンの数はうなぎのぼりに増えていった。


 しかし、それでも両親の目をくことはできなかった。


 夢見心地になっているのは、ここに集まるオーディエンスだけ。

 活動を続けるほどに、自分の意思とは反したところで評価は上がる。

 自分が振り向かせたい相手は、そこにはいないのだ。


 どうすればいい?


 もし生徒会長になったとしても、今と変わらない現実が待っていたとしたら……?


 そしていつしか。


 心の不安を埋めるように、日鷹は『あるもの』に手を出すようになっていった――





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

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