↓第27話 ーあ、これってもしかして……。
「なにもありませんねぇ……」
取引の現場は、とても静かなところだった。
聞こえるのは波の音と海鳥の声。
言われた通り舗装された道が一本通っていて、周りには大きな岩がゴツゴツと並んでいた。
「ほんと岩ばっかりですね。人の気配もありませんし、取引にはうってつけです」
「うん。逆にいえば隠し撮りするのにも好都合だね」
「ですね。ここでかくれんぼしたら、5年くらい逃げ切る自信あります」
迷子は謎の自信をチラつかせる。
とにかく岩場だらけで人目につかないこの場所が、勝神たちにとっては仇となったわけだ。
まさか撮影されているとは、思ってもいなかっただろう。
「とりあえず撮影したポイントが気になります。例の動画を――」
迷子は澪に頼んで、星蓮学園のグループチャットを閲覧する。
携帯端末で動画を観ながら、撮影ポイントを探った。
「もしかしたら、その場所に手掛かりを残しているかもしれません」
「投稿者がわかればいいんだけど……」
「そうですね。あとはその人物が『X』さんと繋がっているかどうかですが……」
事件の関連性はわからないが、今は探すしかない。
しばらく歩きながら、画面とにらめっこする迷子。
すると、ある地点で足がピタリと止まった。
「みおちゃん! ここ!」
「え?」
澪は迷子の位置に立ち、端末の映像と比較する。
景色の画角は同じ。
二人は撮影したポイントを見つけた。
「やったね迷子ちゃん!」
「フフフさすがわたしです。ついでに事件に繋がる証拠も見つけてあげましょう!」
ドヤ顔で調子にのる迷子。
……しかし。
それからいくら探しても、投稿者に繋がるような証拠を見つけることができなかった。
「ゼェ……ゼェ……な~んにもありませんっ!」
「どうしよう、このままじゃ日が暮れちゃう……」
日没までは時間が限られている。
歩き回って二人の体力もかなり消耗していた。
「む~、せめて本人の声とか入ってないですかねぇ?」
悪あがきをするように、迷子は動画をもう一度見返す。
しかし、声はおろかその姿さえ見つけることはできなかった。
「迷子ちゃん、ひとまず宿に帰ろう。うららさんやゆららさんに進展があるかも」
「…………」
「? 迷子……ちゃん?」
迷子は画面をじーっと見つめている。
巻き戻しと再生を繰り返し、とあるポイントで動画を停止した。
「みおちゃん、これを見てください」
「んん……?」
映っているのはトラックに魚が積み込まれる瞬間。
なにも変わったところはなさそうだが……。
「ここです! ここ! 画面の縁になにか映ってません?」
「え? 縁って――」
よく見るとなにか映っている。
ものすごく手前にあるのか、ピントが合っていないのでなにかわからない。
「岩? いや……木材?」
「おかしいですね、ここにはそんなもの落ちていません」
改めて周囲を見るが、やはりゴツゴツした岩しかない。
木材のようなものは、撮影した本人の私物だろうか?
「なんか気になりますねぇ……」
「もっとはっきり映っていたら……迷子ちゃんはなんだと思う?」
「…………」
「迷子ちゃん?」
「わかりましたよ」
「え?」
「これは女神による呪いです」
「――!?」
思わず二度見する澪。
いや、そんなことないだろとツッコミたい気持ちを抑えて、とりあえず言葉を返す。
「迷子ちゃん、いくらなんでもそれは……」
「冷静に考えてください。勝神さんたちは星蓮海岸で盗みを働きました。その行いを女神が見過ごすとは思えません!」
「た、たしかにそうかもしれないけど……じゃあこの木材っぽいのは?」
「それは、その……護摩木? 的な?」
「ぜったい違うと思うよ!」
ついにツッコんでしまったが、平静を保ちながら澪は迷推理からの離脱を試みる。
「迷子ちゃん、いったん呪いから離れよう。現実的に誰が犯人か推理しないと」
「う~女神じゃないんですかねぇ? 仕方ないです。ほかの線をあたってみましょう」
女神説を気にしながらも、迷子は別の視点から犯人を捜すことにする。
とりあえずカタルシス帳に、『めがみ、あやしい』と書き記した。
「じゃあ日が暮れる前にもう一カ所。みおちゃん、『星蓮岬』を案内してください!」
「岬?」
「あそこは『X』さんが野宿していた場所ですからね。なにか手掛かりがみつかるかもしれません!」
「うん、わかった!」
「フフフ、やってやりますよ。呪いの証拠をみつけてやります!」
「いや、だから呪いは……」
不敵な笑みを浮かべる迷子に不安を懐く澪。
任せたのは失敗かもと思いながらも、二人はこの場所を離れる。
次に向かうは『星蓮岬』。
そこは女神伝説の舞台になった場所だった――
――――――――――――
●お読みいただきありがとうございます。
次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。
それではまた(^^)
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