↓第26話 せいれんかいがんと、養殖場。

 星蓮荘に戻った三人は、勝神の一件を澪に話した。

 驚いた表情をする彼女に、迷子はさっそくお願いをする。


「みおちゃん、『養殖場』に案内してくれませんか?」


「え、あそこに?」


「はい。窃盗の取引はその付近で行われました。聞き込みをかねて、一度現場を見たいんです」


「うん、そういうことなら」


「ありがとうございます! わたしが養殖場に行っている間、うららんとゆららんは引き続き調査のほうをお願いします」


「おっけ~」


「わかったわぁ」


 一同は星蓮荘のカギを閉めて外に出る。

 迷子と澪は養殖場へ、うららとゆららは海岸方面へと向かった――



       ☆       ☆       ☆



 小高い丘から一望すると、目の前にはきらきら光る海が広がっている。

 コンクリートの階段をしばらく下りると、水産科が管理する養殖場があった。


「おっ? 澪ちゃんじゃない。どしたの? 魚買う?」


 生け簀を覗いていた水産科の生徒が、澪を見つけて声をかけた。

 その出で立ちは漁師の標準装備であるカッパと長靴、手袋を着用している。

 澪も顔見知りのようで、その生徒に親しく声をかけた。


「ごめんなさい、今日は買い物じゃないの」


「そうなの?」


「実は先日起きた事件のことを調べていて――」


 そう言うと、となりにいる迷子を紹介する。


「はじめまして、才城迷子と申します。少しお時間よろしいですか?」


 生徒は状況を察したようで「ああ、いいよ」と快く返事した。


「さっそくですが、さきほど生徒会の勝神さんが連行されました。こちらの生徒さんと繋がりがあったようですが、そのことについてお話を伺っても?」


「かまわないさ、おれもショックだよ。まさかウチの生徒が窃盗犯だったなんて……。あいつは搬送の担当だから、人目を盗んで伝票を偽装してたみたいだ。おまけに内部のことは熟知してる。監視カメラの映像も巧みに偽装してたわけだ」


「なるほど、それでしばらく捕まらなかったんですね」


「動画がなけりゃもっと被害が増えてただろうな。誰が投稿したか知らねぇけど、ひとまず犯人が捕まったのはよかったよ」


 生徒はそう言うが、仲間が捕まったことには複雑な心境のようだ。

 深いため息を吐いて、遠く海を見つめている。


「もうひとつお聞きしたいことがあります。例の取引が行われていた場所ですが、普段は人目につかないところなんですか?」


「そうだな。あそこはトラックで搬送するために舗装された道で、人が通るところじゃない。まわりはゴツくてデカい岩だらけだし、取引のために死角をつくるにはもってこいだろ」


「関係者以外は基本使用しないと?」


「ああ」


「となれば、動画を撮影したのは水産科の人間とは考えられませんか?」


「おれも最初はそう思ったさ。けれどその時間帯だと、みんな海に出ていたり生け簀の管理で手が離せないはずなんだ。動画を撮影して養殖場に戻ってくるヤツがいたら、誰か気づくと思うけどな」


 動画は日中に撮影され、且つ、内容は数分間に及んでいた。

 それだけ養殖場を離れていたら、目立つに違いない。


「わかりました。最後になりますが、取引が行われた現場の場所を教えていただけませんか?」


「それならあっちに――」


 生徒が指差すほうには、コンクリートで舗装された一本道が見える。

 しばらく歩くと、現場に着くらしい。


「ありがとうございます。ちょっと拝見させていただきますので」


「あっ、その前にちょっと!」


 手を伸ばして現場へ向かおうとした迷子と澪を呼び止めると、


「今、水産科ではバイトを募集してるんだ。逮捕者が出た分、人手が足りなくて……」


 生徒は気まずそうに頭を掻いた。

 近くの道具小屋の壁に、『バイト募集!』の貼り紙が見えた。

 急いで作ったようで、すぐにでも人手がほしいようだ。


「――わかりました。もし心当たりがあれば連絡します」


「サンキュ!」


 生徒に一礼して、二人は養殖場をあとにする。

 このあと迷子は、動画に残る『ある違和感』を見つけることになった――





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

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