↓第24話 めいすいり、さくれつ。

 秘密を隠している。

 それはいったい、誰のことを指しているのだろう?

 迷子は再び切り身を取ると、それを咀嚼そしゃくしながら話しはじめた。


「ずっと気になっていたんです。でも、これを食べて確信しました」


「ブリの切り身が事件と関係あるの?」


「そうですみおちゃん。この切り身……同じなんです」


「……え?」


「生徒会の勝神かすかみさんが『帝鯨ていげい』で魚を出してますよね? あれと味が一緒なんです」


 迷子は帝鯨で海鮮丼を注文した。

 そのとき食べた味や食感が、これと同じだという。


「ん? まてよ迷子、海で獲れたものはどれも同じだろ?」


「違うんですうららん。同じ魚でも環境が違えば別物になります」


 迷子は澪を見つめる。


「みおちゃん。このブリ、『養殖』ですよね?」


「えっ? なんでわかったの!?」


「ブリの旬は冬です。産卵に備えてたくさんエサを食べて、脂を蓄えるんです。ところが今は夏。このように生臭さがなく、充分に脂がのっているものは養殖以外にありません」


「よく知ってるね……たしかにこれは星蓮学園の『水産科』から買ったの。その学科ではいろんな魚介類を養殖して、一般の人でも買えるよ」


「やっぱり」


 納得する迷子。

 が、その横でうららが難しい顔をした。


「なぁ、勝神の店と味が同じだとして、それがなんの秘密に繋がるんだ?」


「うららん、勝神さんが言った言葉を覚えていますか?」


「言葉?」


「『ウチは近海で獲れた天然モノだけをお出ししているのでね』というやつです。店を訪れたわたしたちに、彼はそう言いました。実際お店には、天然の近海モノがメニューに並んでいます」


「そういえば、たくさん売り切れがあったな」


「つまり天然モノの供給が追いつかなくなったんです。おそらく勝神さんは、そのことを隠して養殖モノをお客に提供していたんですよ」


「でも迷子、それのどこに問題が? 天然も養殖もどっちもウマいだろ?」


「その通りです。問題なのは天然モノとうたいながら、養殖モノを出したところです。彼の親は飲食界のインフルエンサー。その息子が表示と異なる素材を提供していたら、どうなります?」


「なるほど。客がSNSに投稿すれば、悪評になって拡散するかもな」


「親の影響力を考えればあり得ます。あおり立てる文言で注目を集めようとする人がいてもおかしくありません」


 迷子は続ける。


「そしてもし、『X』さんが養殖モノの事実を知ったとしたらどうでしょう?」


 となりでゆららが静かに視線を上げる。


「その場合、トラブルを起こす火種にはなるかもしれないわねぇ……」


 仮説が展開される中。

 澪が否定するように声を上げた。


「ま、まって! つまりあの人が脅しをかけたっていうこと!? そんな人には見えないよ!」


「みおちゃん……」


「確かにどこの誰だかわからないし怪しいけど、でも、わたしの悩みを聞いてくれた人が……。仮に養殖の事実を知ったとして、それをネタに脅しをかけるなんて……」


 澪は瞳を伏せる。

 その姿を見て、三人は彼女をなだめた。


「落ち着けみおっち。あくまで仮の話だ」


「そうねぇ。とはいえ、澪ちゃんの前で配慮に欠けていたわぁ」


「すみませんみおちゃん。言葉を選ぶべきでした……」


 それを聞いて、澪は我に返る。


「あ、いや、その……ごめんなさい。わたしったら、つい……」


「ううん、みおちゃんは悪くないです。親身になって接してくれた『X』さんのことを思えばこそです。その気持ちを否定する気はありません」


 そう言うと、


「だからこそ、真相を確かめる必要があります。そんな人がなぜ死ななければならなかったのか? それを明らかにするのが、探偵の仕事です」


「迷子ちゃん……」


 澪は冷静になったようだ。


「……そうだね。そのためにも、迷子ちゃんたちを信じないと」


 そう言うと表情を改めて、場の空気を取りつくろった。


「あ、ご飯の途中だったね。さぁ、どんどん食べて!」


 今はいっぱい食べて、捜査のために英気を養うしかない。

 夕食が再開し、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 やがて夜もけ、みんなはぐっすりと眠りにつくのだが。

 星蓮海岸に、けたたましいサイレンの音が鳴り響いたのは、その翌日のことだった――





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)


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