↓第20話 のろわれた、海岸。

「…………」

「…………」

「…………え?」


 一瞬、三人の思考が止まる。

 右左津うさつは話しはじめた。


「才城迷子って言ったら『閃光の迷探偵』だろ? 閃くままに事件を捜査して迷推理を展開する。そのスタイルがウケて、一部のマニアからは絶大な人気だ」


「ちょっとマニアじゃなくてファンです! 人を珍獣みたいに言わないでください! それに迷ってるつもりもありませんから! 事件に対して真っ直ぐストレート解決ですっ!」


「まぁ、珍獣っぽいところはあるかもな」


「小動物的な可愛さはあるわねぇ」


 迷子の後ろで、うららとゆららが呟く。

 右左津は構わず続きを話した。


「おれは金持ちになりたいんだ。動画でバズればその夢も近づく。アンタが事件の裏側とかを話してくれたら、それこそ再生数爆上がり間違いなしだッ!」


 右左津は興奮した様子で詰め寄ると、


「だから頼むっ! おれの動画に出てくれっ!」


 必死になって頼み込んだ。


「あのー、わたしが出演したからといってチャンネル登録者数が増えたり、動画がバズるほど簡単なものじゃないと思いますけど……?」


「だな。それに撮影はマネージャーを通してもらわないと困るぜ」


 迷子の前に立ったうららが、指の関節をバキボキ鳴らしながら笑みを浮かべる。

 そして彼の自撮り棒を奪うと、素早く録画していた映像を消して、端末を突き返した。


「ああっ、なにすんだよぉ!?」


「それはこっちのセリフだぜ。テソロからずっと撮影してたくせに」


「そうねぇ、なんならストーカー被害で訴えようかしらぁ?」


「うぐっ!?」


 メイド二人の圧に、右左津は言葉を詰まらせる。

 迷子は彼に質問をぶつけた。


「右左津さん。今回あなたが死体を撮影したのも、再生数を稼ぐことが目的だったんですか?」


「ま、まぁな。生で死体現場に出くわすなんて、滅多にあるもんじゃないし……」


「一つ気になることがあります。あなたは亡くなった男性に殴られたと言っていたそうですね。二人の間でトラブルでもあったんですか?」


「うっ! それは……」


 右左津は急に視線を泳がせる。


「どうしました?」


「し、知らない。おれはあんなヤツ……知らないッ!」


「知らない? 初めて会う人が殴りかかるでしょうか? あなたは被害者と面識があったんじゃないですか?」


「しっ、知らないッ! 呪いなんだよ……あいつが死んだのは、全部呪いのせいなんだよぉッ!」


 右左津は錯乱さくらんしたように、自分の頭をガリガリきはじめる。


「星蓮海岸の女神が、アイツに天罰を下したんだッ! だから海に落ちて……そうだ……おれは……おれはなにも悪くないッ!」


「右左津さん? あなたは何を言って――」


 迷子が言葉をかけても、彼の膝はガタガタ震え、目の焦点は一向に定まる気配を見せなかった。


「ハハハ……みんな……みんな呪われてしまえばいいんだ……ッ!」


「オイてめぇ、さっきからなにを言って――」


 うららが興奮した彼の肩に手を伸ばすと、その手を乱暴に跳ね返して、右左津はよろよろとその場で尻餅しりもちをついた。


「い、いいからよく聞けぇッ! おれは……有名になって大量のカネを稼ぐんだッ! 生徒会のヤツらよりもVIPになって、おれはスゲェってところを見せつけてやるうぅぅッ!」


 そうやって声を荒げながら、発狂するように走り去ってしまった。

 迷子たちはポカンとした表情でその場に立ち尽くす。


「なんだアイツ、クスリでもやってんのか?」


「どうするぅメイちゃん? 追いかけるぅ?」


「いえ、どうもまともに会話できる様子ではなさそうです。しばらく放っておきましょう」


 砂浜の向こうを見つめながら、迷子は嘆息する。


「それより右左津さん、やけにお金に執着してましたね。豪遊でもするつもりなんでしょうか?」


「さぁな、大金持ちになりたいヤツなんて、この世にごまんといるだろ」


「彼の目標はさておき、なにかを隠していることは間違いなさそうねぇ」


「そうですね。あの動揺っぷり……ぜったいあやしいです!」


 迷子はカタルシス帳に『うさつ、あやしい』と書き記す。


「二人の間になにがあったんだ? よほどのことがないと殴らねぇだろ?」


「そうねぇ。被害者との関係や、午後三時前後のアリバイも確認しないとぉ」


「あとアレですね。シャーマン的な人を呼んで、現場をおはらいしてもらわないといけませんね!」


「「…………」」


 うららとゆららが主人に半眼を向ける。


「な、なんですか二人とも!?」


「迷子。やっぱりなんだかんだで呪いのこと信じてね?」


「メイちゃんオバケこわいのぉ?」


「べ、べつに怖くなんかないですよ! わたしはこ、こう見えてオトナですから! 夜中に一人でお手洗いに行けるくらいには――」


 その瞬間。

 灰色の空がピカッと瞬き、爆発したような雷鳴が大気を震わせた。


「うわぁぁぁーーー! の、のろいぃぃィィーーーーっッ!!」


 バケツをひっくり返したような豪雨が星蓮海岸に降り注ぐ。

 迷子は取り乱し、そこら中を走り回った。


「落ち着けって、ただの夕立だ!」


「とはいえ姉さん。このままでは私たちびしょ濡れにぃ……」


三人ともすでにズブ濡れだ。

このままでは風邪を引く。


「うぎゃー! 迷ってる場合じゃありません! とにかく『星蓮荘』にゴーです!」


 頭の上を手で覆い、三人は急いで宿のほうに走っていく。

 

 このあと迷子たちは、思わぬかたちで右左津の秘密を知ることになるのだが。


 それはもう少し、先の話――





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

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