↓第19話 この視線の、正体。
時刻は15時を回っていた。
ホテル『テソロ』を出た迷子たちは、灰色に染まった空を見上げる。
西から崩れてきた雲が、さらに天気を悪化させていた。
砂浜で
四人目の容疑者『
「このあたりに出没するんですか?」
「そうらしいぜ。よく自撮り棒をかざしている姿が目撃されてるってよ」
「おそらく今もどこかにいると思うわぁ」
とはいえここは観光地。
これだけたくさんの人混みから、たった一人を捜し出すのは難しい。
今日中に会えるのか不安に思いながらも、視線を巡らせる迷子。
――と、なにやら背後に強烈な気配を感じた。
「――?」
咄嗟に振り向いてみたが、しかしそこには誰もいない。
あるのは松の木と岩。
けれど確かな気配がそこにある。
「おかしいですね……スナイパーライフルで狙われているんでしょうか?」
「いいや迷子、どうやら熱烈なファンがいるようだぜ」
「フフフ、隠れてないで出てきたらどう?」
ゆららが太もものホルスターに手を伸ばす。
仕込んでいた『クナイ』を抜き出し、目にも留まらぬ速さで数十メートル先の岩肌に
「ひッ、ひぃぃィやあぁぁァァァっッ!!」
すると岩肌から情けない男性の声が聞こえてくる。
さっきまで岩の模様だった部分がペラリと剥がれ、そこから見たことのある人物が現れた。
「あっ、あなたは!」
思わず声を上げる迷子。
そこにいたのは『
4人目の容疑者が、ガクガク震えながら歯を鳴らしている。
「や、やめろぉ! おまえたちと争う気はない!」
彼は岩肌に張りついて、模様が似たシートをかぶっていたようだ。
まるで隠れ身の術。
しかし本職のニンジャには簡単に見破られてしまった。
「テメェなにが目的だァ?」
「私たちがテソロにいたときから尾行してたわねぇ?」
メイド二人はそんなことを言う。
どうやら彼の行動に、最初から気づいていたらしい。
「え、じゃあわたしがエレベーターで感じた視線は……」
「ああ、コイツで間違いねぇぜ」
震える右左津に、サメのように凶暴な視線を向けるうらら。
彼は再び短い悲鳴を上げ、恐怖を振り払うかのように首をブンブンと振る。
「や、やっぱり……アンタたち才城家の人間だな?」
怯えながらも自撮り棒をかざして、歩み寄ってきた。
「あァン? だったらなんだよ」と、うららがドスの効いた声で
「ヒィッ! そ、そんな睨むなよ! その『藍の葉の家紋』、間違いない。昨日は気づかなかったけど、野次馬の間でウワサになってたんだ。もしやと思って尾行してみればビンゴ。まさか本物に会えるなんて!」
右左津は迷子のブローチや、メイド二人のベレー帽に目をやる。
どうやら才城家の人間と確信したようだ。
「なるほど。つまりはわたしのサインがほしいんですね? いいでしょう、いいですとも! それならそうと言ってくれれば――」
「アンタに言いたいことは一つだけだ」
迷子の言葉を無視した右左津は、自撮り棒をかざす。
そして勢いよく頭を下げると、
「たのむ、おれの動画に出てくれ!」
そんなふうに、
――――――――――――
●お読みいただきありがとうございます。
次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。
それではまた(^^)
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