↓第13話 したいのおとこの、名前。
事件が起きたその日の夜。
うららが獲ってきた魚をつかって、豪華な食事がテーブルを飾った。
心ゆくまで海の幸を堪能した迷子たちは、旅の疲れもあってかぐっすりと眠りにつく。
――そして次の日。
昼過ぎになっても、迷子は爆睡していた。
「う~ん……もう食べれません~」
ニヤけた顔でベタな寝言を吐きながら、ずっと幸せな夢を見ている。
「おい、いつまで寝てんだよ」
ドスの効いた声に、迷子は反射的に目を開く。
そこにはサメみたいな眼光のうららと、微笑みながらキレているゆららの姿があった。
「わぎゃあぁぁあぁぁー--ッ!!」
「なんだよ、うるさいな……」
「ふふふ、女神のモーニングコールよぉ」
迷子は二人の前にジャンピング土下座をキメると、
「スミマセンデシタ……モウシマセン、今度カラ、ハヤオキシマス」
寝坊したことを謝罪する迷探偵。
そんな主人の姿にため息を吐いた二人は、気持ちを切り替えて本題に入った。
「とりあえず聞き込みに行くぞ。『容疑者が4人』浮上してる」
うららが喋るその横で、ゆららが迷子を着替えさせる。
寝ぼけた目を擦りながら、迷子はその話に耳を傾けた。
「もう容疑者が絞り込めたんですか?」
「簡単な聞き込みだけどな。ここ最近、死体の男と接触があったのはこの4人だ」
うららは
そこには容疑者となる4名の名前が記されていた。
●『
●『
●『
●『
「いずれもみおっちと同じ星蓮学園に通う生徒だぜ。このうち三名がリゾート施設を経営している生徒会役員だ」
「経営って、みおちゃんがいってたやつですよね?」
「そう。リゾート地は三つ巴状態だ。実質あそこは三人の縄張りだな」
迷子にベレー帽子を被せながら、ゆららが話しを補足する。
「ちなみに勝神さんの親は外食チェーン店を全国と海外に展開。日鷹さんの親はクラブハウスやパーティーイベントの運営で大儲け。仁紫室さんの親は富裕層向けの宿泊ビジネスが当たって会社が急成長。どの方もビジネス系インフルエンサーとして、かなり有名みたいだわぁ」
「なるほど。ちなみにその三名は死体の男性とどういう関係で?」
「施設に来た男を三人が追い返したそうだぜ。利用拒否だ。目撃者の情報だと、かなり揉めてたみたいだけどな」
「なにか悪いことでもしたんですか?」
「さぁ、単純に見た目の問題じゃね?」
「そうねぇ、たしかに人相は少し怖いかもぉ」
三人は死体の男の顔を思い出す。
凶暴な野生児を彷彿とさせるその姿は、なかなかに迫力があった。
「ちなみにこの3人には悪いウワサがあるぜ。票を集めるために裏でヤバイことしてるって話だ。そのあたりも深掘りする必要があるな」
「フムフム、わかりました。それではこの『右左津』という人は何者です?」
「え~と、この人は生徒会じゃないんだけどぉ……メイちゃんもすでに会ってる人よぉ?」と、ゆらら。
「え、わたしがですか?」
「ほらぁ、昼間に『星蓮荘』の食堂でコップを割った――」
迷子は自撮り棒を持った男を思い出す。
「ああ、あの人ですか! 死体現場で狂ったように撮影してた!」
「それな。コイツが何者かは、これを見るのが早いかも――」
そう言ってうららは、携帯端末を操作して動画を画面に表示させる。
「これはヤツの動画チャンネルだ。どうも宝探しやオカルトに興味があるらしい。撮影した動画をサイトにアップしてる。目標はチャンネル登録者数100万人。広告費で稼いで大金持ちになるって周りに話してたらしい」
画面には、数日前に星蓮海岸を襲った嵐の様子が映し出されていた。
荒れ狂う星蓮海岸の浜辺に立ち、右左津が女神を
危険を冒してまで撮影したようだが、そのわりに再生数は回っていない。
「う~ん、なんともいえませんねぇ。食堂で死体の男性が「あいつには気をつけろ」と言ってましたけど、たしかにヤバいヤツかもしれません……」
「そだな。発狂しながら死体撮ってたし」
「他にはどんなのがあります?」
迷子が別の動画を閲覧する。
コンビニで会計せずにパンを食べたり、ラーメンを頼んで食べずに帰ったり……。
そのほか迷惑系のものが多かった。
「ん? この動画だけは毛色が違いますね」
ふと、浜辺を歩く右左津の動画に注目した。
「ああ、それは『ビーチコーミング』よぉ」
ゆららが横から顔を出す。
「なんです? 『びーちこーみんぐ』って?」
「浜辺に落ちている漂着物を拾う遊びなのぉ。流木とか貝殻とか、海水浴客が落としたお金を拾うこともあるわねぇ」
「へぇ……」
「お宝を探しているのかもしれないけどぉ、そう簡単に見つかることもないわぁ」
動画の中で右左津は、数回にわたりビーチコーミングに挑戦していた。
しかしどれも拾ったのはゴミばかり。
望みのお宝には、ほど遠いようだ。
「んで話は変わるんだけどさ、もう一つ重要な情報があるぜ」
「なんですうららん?」
「右左津は少し前、死体の男に殴られたって言いふらしてるんだ」
「え、ケンカですか?」
「それはわからない。でも顔が腫れたのは事実みたいだぜ?」
「う~ん、殴るってよっぽどですよね? 二人の間でトラブルでもあったんでしょうか?」
「さぁな。でも、それなら岩礁に呼び出した可能性はあるかも。トラブルの原因はさ
ておき、ひとけのない静かな岩礁って暗殺するにはうってつけだろ?」
「たしかに、人目に触れない場所ですもんね……」
迷子は頭をひねる。
聞いた内容をカタルシス帳に書き記した。
「状況はわかりました。さっそく4人の聴取に向かいましょう」
ページを閉じた迷子は、部屋を出ようとする――が、
「でもそのまえに――」
くるりと振り返り、メイドたちに言った。
「名前をつけましょう。死体さんに名前がないと、呼びづらいです」
「名前……たしかに今後を考えると必要ねぇ」
ゆららは頬に手を当てる。
「ちなみにメイちゃんは、なにがいいのぉ?」
「『X』です。ここはシンプルに『X』さんでいきましょう!」
「えっくすぅ?」
ゆららは少し考えて、「単純すぎなぁい?」と聞き返す。
しかしその横で、うららがキラキラと目を輝かせた。
「だけどなんかカッケぇな! スパイ的な感じじゃん!?」
案外、気に入っているようだ。
「でしょ、うららん!」
「ん~……まぁ、わかりやすいから、それでいいんじゃなぁい?」
姉の顔を見て、ゆららは軽く肩をすくめる。
「じゃあ決まりです! 今後は死体さんのことを『X』さんと呼びましょう!」
こうして男性の仮名が決定した。
カタルシス帳にそれを記すと、あたらめて三人は部屋を出る。
向かうは星蓮海岸。
容疑者が待つ、その場所へ――
――――――――――――
●お読みいただきありがとうございます。
次回の更新は、10月5日の予定です。
お時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。
それではまた(^^)
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