↓第8話 ここで、水着。

「さぁ、泳ぎましょう!」


 お茶も飲んで落ちついたころ。

 部屋にもどった迷子は、海で泳ぎたいと言いだした。

 幸いトランクの中には人数分の水着も入っていたので、準備は万全だ。

 夕食まで時間もあるし、軽い運動もかねて海水浴を楽しむことにした。


「やほ~! わーい、気持ちいいですね~!」


 白い砂浜を駆け抜け、迷子が楽しそうに声を上げる。

 セパレートタイプのハイネックビキニを着用して、胴回りにはトロピカルな模様の浮き輪をはめていた。

 犬かきしかできない迷子は、万が一のときに備えてメイド二人から浮き輪を持たされている。


「くーッ! 海水浴なんて久しぶりだぜ!」


 うららが準備運動をしながら、サメのような八重歯を光らせる。

 彼女はボーイレッグタイプの水着に、頭にはレディースのサーフキャップを着用している。

 スレンダーな美脚と、引き締まった腹筋が美しい。


「日射しが強いわねぇ。うふふ、ちゃんと日焼け止めクリーム塗らないとぉ」


 ゆららが片手で日光を遮りながら、空を見上げる。

 片方の肩を大胆に見せたワンショルダータイプの水着に身を包み、豊かな胸の稜線りょうせんを太陽にさらした。

 流麗りゅうれいな長髪をさらりと手で払い、蠱惑的こわくてきな唇に人差し指を這わせる。


「それじゃあ、いっきまーす!」


 元気よく声を上げると、迷子は勢いよく青い海に駆け出す。

 それに続きうららも「ヒャッホー!」と叫びながら海面にダイブした。

 ゆららは、いつの間にか用意したビーチチェアに背中をあずけ、パラソルの下で優雅に海風を感じている。


「迷子ちゃん楽しそうですね」


 一緒にやってきた澪が、海を見つめながら呟く。

 ゆららが「澪ちゃんは泳がないのぉ?」と尋ねると、「わたしはコレがありますから」と言って背負ったカゴを見せた。

 これから海岸のゴミ拾いをするらしい。


「澪ちゃんは真面目ねぇ」


 感心するゆららに、


「宿がヒマなだけですよ。ちょうどいい時間つぶしです」


 澪はそう言って小さく笑った。


「宿は閉めてますから、部屋に戻るときはこれを使ってください」


「これは?」


「星蓮荘のカギです。お客がいない時間帯は食堂も閉めるので、わたしがいないときはこれが必要です」


「わかったわぁ」


 ゆららはカギを受け取る。


「それじゃあ、のちほど」


 小さく会釈をして、澪は人混みの多いリゾート地のほうに歩いていく。

 過ぎ去っていく彼女を見送ると、ゆららは胸の谷間にカギを仕舞い、ゆったりビーチチェアに横たわった。


「あら? そういえばメイちゃんと姉さんは――」


 ふと視線を上げる。

 すると近くの海面でなにかが破裂するような音が響いた。

 じーっと目を凝らす……。

 2メートルほどの水柱が見えた。

 海面からドッパァンと音を立てて弾けている。


「…………もしかして」


 ゆららはイヤな予感がした――





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回の更新は9月30日、21時ごろの予定です。

 お時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る