↓第4話 よくみると、なにか落ちてる。

 一同の視線は、澪の背中に集中する。

 そこには竹で編まれた大きな『カゴ』が背負われていた。


「ああ、これですか? 海岸を清掃するときにゴミを入れるんですよ」


 澪はカゴの中身を見せる。

 中には空き缶や流木などが入っていた。

 そういえば彼女は、軍手をめて右手にはステンレスの火ばさみを持っている。

 それらを見る限り、会う直前まで海のゴミ拾いをしていたことが想像できた。


「実はさっきも下を向いたまま歩いていたんです。そのせいで迷子ちゃんとぶつかって……。海岸の掃除は日課だから、今日もいつもどおりゴミを拾っていたんです」


「へぇ、このあたりはきれいだと思っていたけど、けっこう汚れてんだな」


 うららが海岸を見渡しながら呟く。

 すると澪はリゾート地のほうを見た。


「あのあたりに施設ができてからは、ゴミの量が増える一方なんです。どこも富裕層向けのビジネスを展開していて、毎日がお祭り騒ぎというか……好き勝手に騒いでるってカンジですよ」


 よく見ると白い砂浜の上には、プラスチックの容器や空き缶が転がっている。

 なんとなくだが、それを見る澪の瞳はわずかな苛立ちをはらんでいるように思えた。

 感情の機微きびを察したゆららは、さりげなく質問してみる。


「富裕層向けの施設というのは、具体的にどんなことをしているのぉ?」


「そうですね、大きく分けると『レストラン』『海の家』『ホテル』の経営です。それぞれ星蓮学園の生徒会役員が運営していて、旅行者だけでなく、学園の生徒にも絶大な人気があるんですよ」


「え、施設を生徒が運営してるのか?」


 うららがそう尋ねると、澪が頷きを返す。


「星蓮学園では、学問と併用してビジネス活動が認められているんです。ちなみにさっき言った施設を運営する三名の両親は、ビジネス界でも有名なインフルエンサーなんですよ」


 確かに施設があるリゾート地は、たくさんの人で賑わっていた。

 この海岸が富裕層に人気になったのも、生徒会が施設を運営したことによる結果だろう。


「へぇ、すげぇヤツらなんだな」


「ええ。でも、そのやり方は決して褒められたものではないんです……」


「どういうことぉ?」


 顔を覗き込むゆららの視線に、澪は周りを警戒しながら声をひそめた。


「施設の運営は、実は『生徒会選挙』のために行われているんです」


「せんきょだって?」


 うららは、きょとんとした表情を浮かべる。


「星蓮学園では、二学期から生徒会選挙の準備がはじまるんです。この準備期間に多くの生徒を味方につけた立候補者ほど、当選の確率は上がります。施設を運営する三名は、夏休みも人気取りの期間にあてます。今回も会長のイスを狙い、それぞれが活動しているというわけです」


「ふ~ん、なんか大変なんだな」と、うらら。

 少し考えてから、ゆららが口を開いた。


「やり方はさておき、それにしても選挙のためにそこまでするものなのぉ?」

 

 澪は黙って首を横に振った。


「彼らは決して崇高すうこうな目的のためにやっているわけではありません。つまりは内申点や将来……『会長』という肩書きで得られるアドバンテージが目的です」


 澪の言葉を聞いて、うららはピンときていない様子だった。


「肩書きって、そんなに役立つのか?」


「まぁ、あくまでウワサですけどね……ただ、星蓮学園は全国から各分野のエリートが集結しています。その中で会長を務めたという実績が、出世のポイントになった人がいるのも事実です」


「ふ~ん、エリートの頂点をまとめたヤツはスゲェんだな」


 ぼんやりと呟くうららに、迷子が割り込んでくる。


「ちなみにわたしは肩書きには縛られませんよ! 常に信じるのはココ、そう熱いハートです! 閃光の先にわたしの未来が待っているんです!」


「なんだよそれ」


 ドヤ顔で胸を張る迷子に、うららは白けた視線を向ける。


「とりあえず生徒会の三人は、票を集めるのに必死というわけです。まぁ、そうすれば施設も繁盛するわけですし――って、ゴメンなさい。こんな話、退屈ですよね? と、とりあえずなんか楽しい話でもしましょう!」


 気を遣う澪に、「あー大丈夫だぜ」と、うららは手を振って応えると、


「それよりみおっち、その『星蓮荘』ってのはどこにあるんだ?」


 素朴な疑問を口にした。

 一同はリゾート地と反対の方向に向かっていたからだ。

 辺りは賑やかどころか、ますます静かになってくる。


「はい。もうすぐです」


 澪はメガネの位置を直しながら、前方を見つめる。

 そこから数分歩くと、目的地に到着した。


「お待たせしました。ここが『星蓮荘』です!」


 澪の言葉を受けたうららは、


「こっ……これはっ!?」


 正面の建物を見上げたまま、意外そうな声を上げた――





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回の更新は9月26日、21時ごろの予定です。

 お時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

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