1−3 喜沙の場合
風呂から出たら向かう場所は一つ。室内運動場という、マットなどを置いた柔軟などをやるための部屋。一階にあるそこには、今日は仕事のなかった喜沙姉がいた。
「トモちゃんいらっしゃい。それじゃあ始めましょうか」
二人ともジャージを着てやることは股関節などの柔軟だ。毎日やるだけで身体は柔らかくなるし、ストレッチをキチンと行うことでケガの防止になる。
喜沙姉もやっているのは、グラビア写真などを撮る際に色々なポーズを取るため身体が硬いと取れるポーズが決まってしまいスポンサー側からクレームが来るのだとか。それとバラエティ番組でスポーツや無茶振りをされることがあるので、それで身体を痛めて次の仕事を棒に振るわないためにやっている。
こういうプロ意識が母さんから引き継がれている。母さんも怪我するよりはって機材とかにお金を使ってくれるから、頭が上がらない。
喜沙姉とは交互に柔軟をしていく。プロのトレーナーに教えてもらった柔軟方法を一個ずつ丁寧にこなしていく。
このトレーナーさんは母さんの事務所と専属契約をしている方で、喜沙姉もお世話になっている女性だ。その人に作ってもらったメニューをやっていくのだが。
「うんしょ、よいしょ」
「……喜沙姉」
「うん?なぁに?」
「……その、胸が、ですね」
今背中から押してもらっているのだけど、なぜか喜沙姉の大きな胸が当たっている。腕で押せばいいのに、どうやったら胸の感触がわかるほど密着するのか。
腕を使わずに上半身を密着させて押してくるからだよ!
「もう、トモちゃん?柔軟中なんだから、集中しないとダメだよ?怪我しちゃうんだから」
「いや、あの。腕を使ってくれればいいんだけど……」
こちとら思春期なんだよ!姉とはいえ、グラビアやるような姉が、無神経に押し付けてきたら集中できなくても仕方ないだろ!売り文句が巨乳アイドルなのに!
俺が悪いのか?柔軟に、姉に発情しかけている俺が?あー、それなら俺が悪いな。でも配慮もしてほしいというか。
中学三年生に、三つ上のグラマラスで綺麗な姉が密着していて、平常心でいろなんて地獄でしかないだろ……。
「私筋力ないからな〜。しっかりした身体つきのトモちゃんを押すには身体全体を使わないと」
「そうですか……」
本当だろうか。
いや、疑うのはダメだ。喜沙姉だって自分のためでもあるんだろうけど、俺に付き合ってくれてるんだから。煩悩退散。
本当に丁寧に、じっくりと柔軟をやった。ここで手を抜くと怪我をするからと、念を押されて。怪我したくないから従う。
「はい、終わり」
「ありがとう、喜沙姉」
「それじゃあマッサージしてあげる。そこに横になって」
「え?柔軟十分やったよね?」
マッサージなんて今までメニューに含まれてなかったぞ?喜沙姉にできるんだろうか。
「うふふ。ナギさんに教わったの。シニアお疲れ様ってことで、お姉ちゃんがやってあげるから」
「はぁ」
ナギさんというのが契約しているプロのトレーナーさんだ。ナギさんほど上手くはないだろうけど、喜沙姉がやりたがってるから受けるか。一段上のマットに乗ってうつ伏せで寝る。
どうするんだろうと思っていると、俺の上に暖かい重みが。お尻の上に、乗ってる?
「喜沙姉。乗る必要あるの?」
「さあ?ナギさんはこうしてくれたわよ?」
「そうなんだ」
じゃあ正解なんだろう。いや、正解か?ナギさんが喜沙姉にやったのは女性同士だったからとかな気がする。こういうのを外でやらないことを祈るだけだ。男性にやったら絶対勘違いされる。
喜沙姉、くびれがちゃんとあるくせに、何で全身こんなに柔らかいんだ。女性的な柔らかさを意識しちゃって心臓に悪い。
肩とか背中とかを指圧でマッサージし始める。本当に力がないから、気持ちいいというよりくすぐったい感触の方が強い。
背中が終われば腕へ。両腕も終わったら足にも。くっ、堪えろ。喜沙姉は真剣にやってるんだ。くすぐったいのが限界に来て笑いあげるなんて、必死にやっている喜沙姉に失礼だ。
いや、でもくすぐったい。足の裏とか、めっちゃ柔らかい指を感じて不味い。声を抑えるので精一杯だ……!
「はい、終わり。気持ちよかった?」
「……疲れた」
「え〜?マッサージしたのに、なんで〜?」
「喜沙姉、マッサージ禁止。疲れが癒える以上に疲れちゃう。あと、他の人にやるのも禁止だから」
「それじゃあトモちゃんに一生マッサージできないじゃない〜!」
だから禁止だと言ってるんだ。こんなの、心的ストレスマッハだから!異性がやられたら恋に落ちちゃうから!同性がやられてもくすぐったくてお腹痛くするから!
ダメ人間製造機たるこのマッサージは封印だ!姉の尊厳を守るためにも、俺たち被害者の心身を守るためにも、この封印は絶対に必要なものだから!
……いつもポヤポヤしてる喜沙姉に尊厳とかあったっけ?ああ、じゃあアレだ。アイドルとしての世間の評価を、像を崩さないためだ。
姉が魔性の女と呼ばれないための、必要な措置だ。
「喜沙姉、マッサージ禁止は喜沙姉を守るためなんだ。それをわかってくれ」
多分わかってくれないだろうから、両肩をがっしり掴んで念を押すように言う。目と目を合わせて言わないと、この天然な姉は理解してくれない。それか忘れる。
肩細っ。ジャージ着てるだけで色気があるとか、本物のアイドルって凄いな。
「智紀ー、喜沙姉ー。美沙がご飯作ってくれたよー」
「わかった。今いく」
お風呂から出たばかりの千紗姉に言われて、食卓に向かう。千紗姉が髪をちゃんと乾かさないでタオルを被っていたので、すれ違いざまにしっかり乾かして風邪を引かないように注意する。看病すんのやだし。
「喜沙姉。途中から見てたけど、あの身体を密着させた柔軟なに?」
「え〜……?あっ、ああ!私ったら、なんてはしたない……!」
「気付いてなかったんかい。智紀居なくなってから顔真っ赤にされても。もしかしてマッサージも無意識?」
「え?ナギさんに教えてもらった通りにやったけど……?」
「智紀の上に乗る必要あった?」
「…………〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎」
「やっぱり気付いてなかった。喜沙姉よくえっちぃのは禁止って言ってるけど、喜沙姉が一番えっちぃからね?」
「そんな〜!」
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