第18話 調査
会場に戻った僕は、揉みくちゃにされていたアーリーたちを救出する。
あとは王子殿下に任せ、アーリーを馬車に押し込んで屋敷に戻った。
「質問攻めにされて大変だったんだからね!」
「はいはい」
リリーたちの席に戻ったアーリーは、それまで彼女たちを囲んでいた子供たちに捕まったらしい。
公爵家と懇意になりたい家は多いからな。
僕たちは今までは全く屋敷の外に出ていないので捕まえようがなかったのだ。
やはり今日は多くの子供たちが『公爵家の双子』を見て来いと指示されたようだ。
子供だからね、様子を見るだけでは終わらない。
アーリーは次から次へと挨拶を受け、質問をされ、友人になってくれとせがまれた。
答えのほうはうまく流してくれたようだ。
さすがアーリー、ちゃんと貴族の会話のやり方を学んでいる。
「リブならどうするかなって思ってやってみた」と言われて絶句したけどね。
さすが僕?。
「あれからリリーたちとは話しも出来なくて」
プリプリと怒るアーリーを宥める。
「うん、悪かった」
さんざん文句は言われたが、彼女たちとはまた会えるからと言うと渋々納得してくれる。
アーリーも僕が王宮で何か画策していることぐらい気付いている。
しかし自分には関係がないことだということも感じているので何も言わない。
ただ、アーリーはリリーとの時間が欲しい。
「お祖父様、お願いがあります。
僕のダンスの授業にリリーたちが参加することを許可してください」
なるほど、と僕は思った。
嫌な思いをしてもそれに見合う褒美があれば、人間は頑張れる。
アーリーも七歳になって成長が見られるな、偉いぞ。
「分かった、許可しよう」
帰りの馬車の中で、僕もお祖父様もアーリーの話を苦笑しながらずっと聞いていた。
お祖父様の執務室は思ったより瘴気が少なく、王宮の中でも綺麗なほうだった。
ただし、国王陛下は真っ黒だ。
よく生きてるなって思うほど、心の奥に黒い思いを抱いている。
僕ら魔物はそれが好物なのさ。
後悔と懺悔。 よほどお祖父様に対して悔やみの念が強いんだろう。
とすれば、彼の後悔は亡くした幼馴染、宰相閣下の一人息子。
アーリーの父親だろう。
僕の姿を見て、それはそれは怖がっていた。
懐かしいではなく、恐怖。
それにしては彼自身に瘴気が纏わりついていなかったのは聖獣様のお蔭かな。
おそらくだけど、聖獣様は前国王にでも頼まれたんだろうね。
だから僕はそれを脅しに使う。
王子の友人として、国王の幼馴染の息子として。
早く会いたいよ、フェンリル様。
翌日の朝は気分良く起きられた。
「だいぶご機嫌ですね、王宮で何か良いことでも?」
スミスさんでも分かるほど体調が良い。
王宮の瘴気は美味しいからな。
摘まみ食いしただけでも身体に瘴気が染み渡る。
「うん、国王陛下にお会いしたんだ」
それがそんなに嬉しいことだったのかとスミスさんが不思議そうだ。
「とても興味深い方だったよ、真っ黒で」
「真っ黒?」
うふふ、僕の復讐も案外早く終わるかも知れない。
ニヤニヤしていたら、メガネメイドさんが入って来た。
「イーブリス様、請求書が来ております」
「ああ、お祖父様に回しておいて」
「いえ、旦那様からイーブリス様にお渡しするようにと言われまして」
げっ、そういうことか。
「ローズ、魔石ある?」
【うん、あるよ、小さいので良い?】
「うん、そう、要らないやつでいいよ」
ローズが自分の寝床からズルズルと袋を引き摺って来る。
基本的に魔獣狩りの成果はローズ自身のものだ。
僕は彼女から瘴気を回収させてもらうのみ。
最近では美味しいと評判の獣の肉だけは厨房から依頼される場合がある。
毒があるものや、あまりにも瘴気が酷い場合は厨房に渡さないように注意している。
でも、何で狩りしてることを知ってるんだ。
まあいいや、良い金額で引き取ってくれるからな。
ローズも最近オヤツが充実しているらしい。
ローズが溜め込んでいる魔獣の素材は、全て僕への貢ぎ物だと言う。
中でも特に魔獣や魔物から稀に採取される魔石は小さくても高価で取り引きされる。
魔道具の燃料になるからだ。
「ここから代金分を持って行って」
「はい、承知いたしました」
僕個人の支払いに使わせてもらっている。 ありがとう、ローズ。
メイドが部屋を出て行くとスミスさんがメモを見ながら首を傾げる。
「この金額、何かの調査費ですか?」
鋭いな。
「そうだよ。 王族の調査が出来るのは、国が雇っている情報屋しかいないから高くてさ」
「は?」
スミスさんが驚いて俺の顔を見る。
「僕はある人物を探してる。 使えるものは使うさ」
人間臭い魔物だと思うでしょ?。
あはは、前世に人間の記憶があると便利だね。
魔物の思考ではこういうことに気付かないからさ。
「それにしては高い……」
スミスさん、こーゆーのは値切らないほうが良いんですよ。
何しろ僕が使ったのはこの国一番の調査員。
つまり、僕たち二人を探し出し、僕を魔物だと結論付けた凄腕さんだ。
「調査した相手から依頼されるとは思いませんでしたよ」
お祖父様に紹介されてやって来た男は、僕を見て一瞬固まっていた。
「人間ではないと分かっていて、お引き取りになった公爵閣下も大概だけど、それに適応して人間やってる魔物も大概だな」
「褒めてもらって恐縮です」
ニコリと笑う七歳児。 普通は魔物だなんて思わない。
フードを深く被り、黒い布で顔を隠している男は魔力を纏っていた。
「僕は自分がどうやって産まれたかなんて興味はないんです。
ただ、どうして『あの場所でアーリーが産まれなければならなかった』のか、が気になりまして」
憶測でものを言うのは簡単だ。
だけど、それを本当だと断定するには証拠が要る。
状況証拠だけで他人を疑うと、後でエライ目に遭うんですよ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その男は決して顔を上げることはない。
「あの女はどうやって王子に取り入ったの?」
目の前にいるのは公爵の孫なんかではない。
それなのに自分が断定してしまったために、公爵閣下はコレを孫として国に登録した。
「あの娘は魔力持ちで、声に特徴があった」
「声?」
少年は首を傾げる。
「本人は無意識だったようだが、僅だが声に『魅了』が含まれていた」
『魅了』、バレたら即死罪とまで言われる能力だ。
「ああ、それで」
当時、成人したばかりの王子たちと娘が下町で知り合ったのは偶然以外のなにものでもなかった。
しかし、その娘は没落貴族で王族を恨んでいたらしい。
「王子は恋愛より国を選んで、娘とは縁を切った」
ただ、それを知ってしまったのが優しい宰相子息だ。
「アーリーの父親は彼女を放ってはおけなかったんだね」
「本来なら死、軽くても喉をつぶすくらいはする」
しかし。
「惚れちゃったら殺せないかー」
それが娘の能力だと分かっていても、愛してしまった。
他に被害者を出さないためには人が少ない場所に逃げるしかない。
そして子供が出来たと分かると、子供のために二人で死ぬことも出来なくなった。
「うーん、あの洞窟で僕があの女に逆らえずに魔方陣から出てしまったのもそのせいなのかなあ」
魔物さえ従わせる『魅了』使いならば、日頃から気を付けていた王族や公爵家でも無理だろう。
「しかしそれも精霊には効果がなかったみたいだね」
「精霊?」
「あ、ごめん、聞かなかったことにして」
男はもうすぐ七歳になるという少年に擬態する魔物を見る。
いや、決して目を合わせてはいけない。
あれは魔物だ。
(まさか、『魅了』を受け継いでいるのか?)
顔を上げた男は胸がドキリとするのが分かった。
まさか、自分がこんな子供に従ってしまうのはそのせいなのか!。
しかも母親と同じ無自覚ときた。
男の身体がブルッと震えた。
ううぅ、こうなったら請求を倍にしてやる!。
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