第384話 やる事たくさん!
ひとまず、レオルドは頭の中を整理してこれからの事を考える。
まずは魔王襲来に備えての準備と対策。
これは確定事項であり、最重要用案件だ。
何せ、自分だけでなくシルヴィアの安否にも関わるので今まで以上に慎重に念入りに進めなければならない。
次に行わなければならないの領地の改革だ。
これは魔王襲来に備えての一環ではあるが、今まで進めて来た事業の一つなので優先度は高い。
帝国との戦争で授かった土地も改革及びに開発を進めて行かないといけないのでやる事は多い。
そして、騎士団の強化。
当然、これも魔王襲来に備えてだ。
勿論、それだけではなく領地の警備、魔物の駆除といった多岐に渡る騎士団の仕事は多く、急激に領地を拡大したゼアトは騎士不足なのだ。
それゆえに騎士団の強化及びに人材確保をしなければならないのだが、ゼアトの騎士の基準は極めて高く、相応しい人材が中々集まらず、今も難航している。
早々に解決しなければならないのだが、他にもやる事が多すぎてレオルドはそちらに手を回せないでいる。
バルバロトに一任しているが、自分も動かなければならないと考えていた。
他にもやるべき事は多く、レオルドはあまりの多忙さに眩暈を覚える。
しかし、やらなければ待っているのは最悪の未来だ。
少しでも未来への可能性を上げる為には努力を惜しんでいられない。
たとえ、どれだけの人間に憎まれる事になろうとも死という絶望を乗り越える為には必要な事だ。
「レオルド様?」
「……今更だが自分のやる事の多さに眩暈がしてな」
「大丈夫ですか? お疲れでしたら今日はもうお戻りになられた方がよろしいのでは?」
「いや、休んではいられない。時間は有限だ。だからこそ、今出来る事を精一杯する必要があるんだ」
「だけど、それで倒れたら元も子もないでしょう~?」
「シャルお姉様の言う通りですわ。まずは英気を養う為にお休みになられた方がいいかと思います」
「問題ない。全部終わったら、長い休みを貰うと決めているんだ。今はやるべき事を終わらせよう」
そう言ってレオルドは前を向き、いつもと同じように不敵な笑みを浮かべた。
それを見たシルヴィアとシャルロットはやれやれと肩を竦め、呆れたように息を吐くとレオルドの横に並び立つ。
「でしたら、私が支えてあげますわ。それが私の役目ですから」
「しょうがないから手伝ってあげるわ~。いつか、貴方が心の底から休める日が来るまでね」
ピッタリとレオルドの傍に寄り立つシルヴィアとシャルロット。
レオルドは二人を交互に見詰めて、嬉しそうに笑みを零す。
「本当、俺には勿体ないくらいの女達だよ、二人は」
シルヴィアがいればもっと頑張る事が出来る。
シャルロットがいれば助けてもらえる。
情けない話だがレオルド一人ではとっくに限界を迎えていた事だろう。
本当に二人がいてくれて良かったとレオルドは心の底から感謝していた。
「さて、下見はこれで十分だろう。戻って工事の計画を練ろうか」
「それからミスリルの件も忘れないでくださいね」
「ああ。フリューゲル公爵から返事が来たら、また考えようか」
「そう言う事でしたら今すぐに返事をされてはいかがでしょうか?」
背後から突如現れたイザベルに三人は振り返る。
レオルドとシャルロットは気づいていたようで特に驚く事はなく何のリアクションもないが、シルヴィアだけは気づく事が出来なかったようで突然現れたイザベルに目を丸くしていた。
「返事が来たのか?」
「はい。レオルド様達が出発されてすぐに使者が参られました。こちらがフリューゲル公爵からのお手紙となっております」
「急いで届けてくれたのか。助かる」
イザベルから手紙を受け取ったレオルドは早速、開封していき手紙を読み始める。
堅苦しい挨拶から始まり、手堅い文章で是非一度お会いして話したという事が書かれていた。
それについての日程はこちらの都合に合わせるといった内容で妙にへりくだっていた書かれ方をしていた。
「……随分とこちらを持ち上げてるな」
「フリューゲル公爵からすればレオルド様と懇意に出来る絶好の機会ですから、下手に出るのは当然だと思いますわ」
「う~む。上から目線で来ると思っていたんだが当てが外れたか」
「もう何度も申しましたがレオルド様相手に粗相は出来ないのですわ。もし、嫌われでもしたら国中、下手をしたら三ヵ国全てから排除される可能性があるのですから」
「そこまでするか? 確かに、まあ、自惚れというわけではないが俺には多大な影響力があるだろう。だからといって、俺が嫌っただけで三ヵ国が動く事はないだろう? 精々、周囲の貴族が腫れ物扱いするのが関の山じゃないか?」
「いえ、王国の救世主であり、帝国との和平の使者でもあり、聖教国を救った英雄でもあるのですから、三ヵ国は動くと思いますわ」
「いつから、そんなに称号が増えてたんだ……」
レオルドが知らないだけで彼には多くの称号が付けられている。
シルヴィアが挙げた三つに加えて、伝説の転移魔法を蘇らせた偉大な魔法使い、失われた回復役を復活させた賢者、といったものもある。
自動車が完成し、普及に成功すれば産業革命の父とでも呼ばれる日が来るかもしれない。
「それでレオルド様。フリューゲル公爵にはいつ頃お訪ねになるおつもりですの?」
「そうだな~。さっきの話を聞く限り、向こうにも面子があるだろう。歓迎会とかされそうだから三日後くらいにしておくか」
「それがいいと思いますわ。三日もあればフリューゲル公爵も十分な準備が出来ると思います」
「よし。なら、さっさと帰って返事を書くとしようか。シャル、悪いが帰りは頼めるか」
「任せてちょうだい。転移で一瞬よ~」
レオルド、シルヴィア、イザベルの三人はシャルロットの傍に寄り、転移魔法で屋敷へ一瞬にして移動した。
屋敷へ戻ったレオルド達はフリューゲル公爵に返事を書く為に執務室へ向かい、いざ手紙を書こうとするのだがレオルドは何故か今も一緒にいるシャルロットが気になっていた。
「いつまでいるつもりだ?」
「いつまでっていちゃいけないの~?」
「そういう訳じゃないんだがこれから手紙を書くだけだから、お前はいても意味がないぞ。見ていても暇だろうから適当に過ごしていろ」
「なら、隣で見てるわ~」
「邪魔だからあっちに行けと言えばいいか?」
「どうしてそんな事言うの~」
椅子に座って手紙を書こうとしていたレオルドはシャルロットを追い払おうとシッシッと手を振るが、彼女は面倒くさい構ってちゃんのようにのしかかってくる。
「鬱陶しい! これじゃ手紙が書けないだろ!」
「これくらいどうって事ないじゃな~い。そんなに重くないでしょ~?」
「重い」
「あ~! 女の子に何てこと言うのかしら、この口は~!」
「はなへ。口をひっはるな!」
「アッハハハ~! 変な顔~!」
「このアマ~!」
「ひゃ~! いひゃい~!」
笑われたレオルドはやり返すようにペンを置いてからシャルロットの両頬を引っ張り始めた。
二人はお互いの両頬を引っ張り合い、子供の喧嘩のようにじゃれ合っている。
どちらが先に音を上げるのだろうかと全員が見守っていたが、シルヴィアがレオルドの耳を膨れた面で引っ張り決着がついた。
「レオルド様! お戯れもそこまでに!」
「いひゃひゃひゃ! いいかへん、ほっへをはなへ!」
「う~~~!」
シャルロットに頬を引っ張られ、シルヴィアに耳を引っ張られているレオルドは涙目である。
とはいえ、レオルドも負けず嫌いな為、シャルロットが負けを認めるまで離すつもりはない。
「レオルド様!」
グイッと耳をシルヴィアに引っ張られるレオルド。
流石に二人相手には勝てない事を悟ったレオルドはシャルロットから手を離した。
「シ、シルヴィア。それ以上はやめてくれ。耳が取れる」
「シャルお姉様と仲がいいのは構いませんが、私だっているのですよ! 少しは自重してくださいまし!」
「は、はい……」
今回ばかりは、というよりも今回もレオルドが悪いので何も言い返す事は出来ず、ただただ許してもらえるように頭を下げるだけだった。
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