第379話 ずっと黙ってるのは気が滅入るのよね
シャルロットの部屋の前で待ちぼうけているレオルドは部屋の中で何をしているのだろうかと気になったが、女性の部屋に押し入るのは流石に不味い為、ひたすらに待ち続ける。
それにシルヴィアが中にいるので待ちくたびれたからと言って中に入れば軽蔑される事は間違いない。
シルヴィアに嫌われるのは避けたいレオルドはただひたすらに耐え続けた。
それから、しばらくしてようやくシルヴィアが扉を開けて、部屋の中から顔を出してきた。
「レオルド様。大変長らくお待たせしました。もう中に入ってきてもいいですよ」
「わかった」
シルヴィアが扉を開けてレオルドを部屋の中に招き入れる。
部屋の中に入ると、そこには寝起きのシャルロットが欠伸を噛み締めていた。
しかし、寝起きの割には髪も丁寧にブラッシングされており、服装もきちんとしていたものになっている。
そこから導き出される答えは寝起きのシャルロットが酷い状態だったので、シルヴィアが一所懸命に支度を整えていたと言う事だ。
「そういう事か……」
「分かってしまいましたか」
「シルヴィアがやる必要はなかったんじゃないのか?」
「あのままレオルド様が中に入っていたら大惨事でしたわ。シャルお姉様ったら裸で寝ていらして、下着類を部屋中に散らかしていましたもの」
「そ、そうか……」
確かにレオルドが何の断りもなくシャルロットの部屋に押し入っていたら大惨事だっただろう。主にレオルドが、だ。
裸で寝ているシャルロットに当然目を奪われるレオルドにシルヴィアが怒りの制裁を食らわせ、そればかりか直近の記憶を吹き飛ばすような強烈な一撃を受けていたに違いない。
そのような事が容易に想像できてしまったレオルドは冷や汗を流しながら、渇いた笑みを浮かべるのが精一杯であった。
「(あの時、いつもみたいに入らないで正解だった……)」
レオルドとシャルロットは気の置ける友人のような関係なので基本的に部屋へ入る時はノックなどしない間柄だ。
どちらも私室で休んでいると勝手に上がり込んできて、話したい事を話し終えたら勝手に出て行くというような事をいつもしている。
今回もシルヴィアがいなければ、いつもと同じようにノックなどせずに中へ入っていただろう。
「レオルド様? どうかされまして?」
「いや、なんでもない。それよりもシャル。いい加減に目を覚ませ」
「んん~……。分かってるわよ~」
ようやく覚醒したのかシャルロットは強張った体を解すように大きく伸びをする。
ググッと腕を伸ばし、体を伸ばすシャルロットの豊満な胸部が強調されてしまい、レオルドは思わず視線が釘付けになりそうだったが、先程の醜態を思い出して咄嗟に視線を逸らした。
だが、視線を逸らした先にはシルヴィアが立っており、バッチリと目が合う。
「フフッ、レオルド様。間一髪でしたわね」
そう言って笑うシルヴィアの片手はレオルドの両目を突き刺すようにピースサインであった。
「ハ、ハハ……」
サーッと血の気が引いてレオルドは真っ青な顔で笑みを浮かべ、咄嗟に顔を逸らした自分を内心で褒め称えた。
「そ、それよりもシャルも揃った事だし、話の続きといこうじゃないか」
「話~? 何の話よ?」
露骨に話題を切り替えたレオルドにシャルロットが怪訝そうに顔を顰めている。
「魔王についてだ」
「そう。それなら真面目にしなきゃね~」
レオルドの口から出てきた言葉にシャルロットも寝惚けている場合ではないと、真剣そうな表情を浮かべ、シルヴィアへと視線を向ける。
「あ、あの私はどうして見られてるのでしょうか? それに魔王とは一体どういう事ですの?」
流石にレオルドはゲームの知識を正直に告げる事は出来ず、シャルロットと考えた適当な設定をシルヴィアに話す。
「シルヴィア。これはまだ公けにはしていないんだが、魔王は定期的に誕生している。そして、恐らくだが近い内に新たな魔王が誕生する」
「そ、それは本当ですか!?」
「本当よ~。レオルドと私しか知らない事実で、今は私が魔王を捜索してる最中なの~」
「未だに見つかってないがな……」
「ほ~んと、厄介な魔王よね~。どこに隠れ潜んでいるのやら」
やれやれといった表情で肩を竦めるシャルロットと頭痛の我慢するかのようにこめかみを押さえているレオルド。
その二人を見て、シルヴィアは非常に焦る。
「お二人でもどうにもならないのでしょうか?」
「今の所は打つ手なしだな……」
「対策はしてあるけど万全ではないわ~。まあ、私がいれば何も問題ないけどね!」
フフン、と鼻を鳴らしてドヤ顔を披露するシャルロットは自慢の胸を張り、自信満々なアピールをする。
「確かにシャルがいれば何の問題もないのだが……」
「そのシャルお姉様でも見つけられないのですね……」
「ああ。此度の魔王は非常に狡猾で臆病なのだと俺達は予測している」
「私に教えなかったのは……もしや、内部に敵が?」
「察しが早くて助かる。疑いたくはないが内部に魔王の手先がいないとも限らないのでな。俺とシャル以外には伝えてないんだ」
「ちなみにこの部屋には私が張り巡らせた結界があるから盗聴、盗撮も出来ないようになってるわ~」
それならば安心だがシルヴィアは一つ気がかりな事があった。
「私の神聖結界は魔物の侵入を拒み、魔法を防ぎ、魔に関しては最高の結界ですわ。ですので、その……」
「魔王の手先がいるはずがないと言いたいんだよな?」
「はい……」
そう、シルヴィアの持つ神聖結界は魔に対して絶対の防御を誇る最高の結界だ。
事実、シルヴィアが王都に滞在していた頃は王都に魔物が侵入してくる事は一度たりともなかった。
それゆえにシルヴィアは魔王が現れたところで問題はないはずだと、思っていたのだがレオルドとシャルロットの反応に不安を抱いたのである。
「シルヴィア。世の中にはね~、とんでもない能力を持った魔物がいるのよ」
「それは私の神聖結界でも防ぎようがないという事でしょうか?」
「正解~。だからね、私達は秘密裏に動いているわけなの」
「魔王が臆病で狡猾な為ですか……」
「そうよ~。はっきり言って今回の魔王は相当な切れ者だと言う事は確かだわ。何せ、私の目から逃げ延びてるんだから」
シャルロットは小動物から虫まで使い魔にして、かなりの範囲を監視しており、魔王を捜索しているのだが未だに見つからない。
シルヴィアも当然、シャルロットの実力は熟知しており、その彼女から今も尚逃げ延びている魔王が非常に危険であると理解した。
そして、同時にレオルドがどうして自分には話してくれなかったのかを悟ってしまい、表情を曇らせる。
「魔王の狙いは…………私なのですね」
「……そうだ。もう理解していると思うが敵の狙いはシルヴィア、君だ。魔王からすれば俺とシャルロットも脅威ではあるだろうが神聖結界を持つシルヴィアに比べれば優先度は低いだろう」
「そうでしょうね。伝承通りならば魔王は魔物を統べる王として君臨し、世界に混沌をもたらす存在。その魔王が一番厄介だと思っているのは全ての魔を拒絶する神聖結界を持つ私でしょう」
「魔王からすれば目障りな存在だからな。戦争するなら、いの一番に消される」
「私達も最大限警戒はしてるけど、完璧ではないのよ……。取りこぼしてしまう事だってあるの」
「お二人は私を守ろうとしてくれていたのですね……」
秘密にされていた事は悲しくもあるし、少しだけ嫉妬もしてしまったが全ての事情を聞いてしまったシルヴィアは深く反省した。
「すまないな。もっと早くに話せればよかったのだが」
「いえ、シャルお姉様が今も見つける事が出来ない相手なのですから、それだけ慎重にならざるをえないと思いますわ」
「そう言ってくれると心が軽くなる。ずっと黙っているのはやはり、気が滅入るからな」
とは言うものの、レオルドにとって最も重要であり、最大の秘密である転生は一切明かすつもりはない。
シャルロットには知られてしまったがレオルドはその秘密を墓場まで持っていく事を決めているのである。
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