第369話 バカヤロー! そりゃ俺だって!

 ◇◇◇◇


 王国へ帰還したレオルドはシルヴィアを伴って王城へ赴き、今回の騒動について報告を行う。

 レオルドからの報告を聞いて国王は当然ながら憤慨し、聖教国に対して文句を垂らすのであった。

 そして、鬱憤が晴れたわけではないがある程度の溜飲は下がったので、今後のことについて考えていく。

 聖教国に対して王国はどのような対応をするべきかを国王は宰相と話し合うことになり、レオルドは自身の要望を伝えてゼアトへ帰ろうとするも国王に呼び止められた。


「待て、レオルド」

「はい? なんでしょうか?」

「まだ大事な話は終わっていない」

「何かありましたでしょうか? 私は全て報告したと思うのですが?」

「お前とシルヴィアの挙式はいつするのだ?」


 先程の真剣な話し合いから、突然急転直下する。

 国王からのとんでもない発言にレオルドは思わず、横転しそうになったが落ち着きを取り戻し、どうしていきなりそのような話をするのかと尋ねた。


「陛下。あまりにも突然すぎる話ではありませんか?」

「何を言う。聖教国へ赴き、祝福を授かったのであろう? であれば、いつでも結婚は可能のはずだが?」

「それはそうですが性急すぎでは?」

「嫌なのか?」

「そういう話ではなくてですね……」

「嫌なのか?」


 壊れた機械のように同じ質問をしてくる国王にレオルドは腹を立てるが、相手は仮にも国の最高権力者であり、自身の上司でもあり、義理の父でもあるのだ。

 いくら腹が立つとはいえ、怒鳴っていい相手ではない。


「ですから、そのような話を――」

「嫌なのか?」


 流石にこうまで同じ質問をされると、いかに相手が国王であろうとレオルドは我慢ならなかった。

 隣に控えているシルヴィアに目配せをし、彼女の了承を得て、レオルドは本音をぶちまけた。


「嫌な訳ないだろう! 今すぐにでも式を挙げて初夜を迎えたいわ! 何度も何度も同じ質問ばかりしやがって! タイミングって言うものがあるだろうが! このスットコドッコイが!」


 あまりの剣幕に国王も目を丸くし、レオルドの本音を聞いて言葉を失う。

 そんな彼の隣では顔を真っ赤にし、手で顔を覆い隠しているシルヴィアの姿が見られる。

 確かに彼女はレオルドに本音を告げるよう許可は出したが、そこまで言って良いという意味ではなかった。

 レオルドのカミングアウトにシルヴィアは耐え難い羞恥心を抱くのであった。


「お、おお……。まさか、義理の父に向かってそこまで言うとは」

「大物ですな~」


 唖然とする国王と愉快そうに笑う宰相。

 本来であれば国王に対しての不敬罪とも言える態度と言動ではあるが、今回に限っては国王に非があり、宰相もそれを理解している為、お咎めはなしだ。

 そもそも、彼等がレオルドを咎めなくても隣にいる婚約者から説教を受ける事になることが確定しているので二人は何も言わなかったのだ。


 そのような事になるなど予想もしておらず、言ってやったと鼻を鳴らしているレオルド。

 フンス、フンスと鼻の穴を大きく広げている様子が可笑しくて仕方がない。

 しかし、いつまでその態度が持つか見ものである。


「レオルド様……」


 尋常ではない威圧感を感じたレオルドは隣に目を向けると、そこには満面の笑みを浮かべているが、陽炎のように怒りのオーラを発しているシルヴィアの姿があった。

 これはやってしまったとレオルドは非常に焦るが、取り返しがつくようなものではなく、どうにか殺されないようにするのが精一杯だ。


「……あの、その、これは売り言葉に買い言葉であって――」

「後でた~っぷりとお話ししましょうね? レオルド様」


 肩に手をポンと置かれたレオルドは自身の死期を悟った。

 この後、レオルドはシルヴィアの手によって死ぬ事になるのだろう。

 折角、邪神が乗り移った教皇という強敵を倒したというのに、悲しい最期である。


「して、話を戻すとしようか」

「一体誰のせいでこうなったと思ってるんですか……!」


 ガリッと恨みがましそうに奥歯を噛み締めレオルドは国王に鋭い目を向ける。

 国王はレオルドに睨まれようとも何食わぬ顔で話を再開した。


「まあ、過ぎた話はいいだろう。それよりも挙式はいつにするのだ? 数々の偉業を成し遂げたお前と今まで王都を守り続けて神格化されているシルヴィアの結婚だ。国を挙げての規模になるだろう。こちらも色々と準備をしないといけない」

「そう言われるとそうですね……」


 国王の言うとおり、レオルドとシルヴィアの結婚は簡単に済まされるものではない。

 転移魔法陣の普及、帝国戦争の立役者、聖教国の騒乱を収めた功労者であるレオルド。

 そして、神聖結界で王都を魔物の脅威からこれまで守り続け、神格化されつつあるシルヴィア。

 この二人が結婚をすれば王国の力は磐石なものとなり、国民の未来は明るいだろう。


「何か懸念する事でもあるのか?」

「……いえ、何もありません。陛下の言うとおり、式の準備を致しましょう」

「少し間があったように思えるが……本当に大丈夫なのだな?」

「何か問題があれば、その時は遠慮なく相談させて頂きますよ。もはや、我等は家族も同然なのですから」


 キランと獲物を睨みつける鷲のような目を向けるレオルドに国王は生唾を飲み込み、無茶振りだけはしないでくれと願うのであった。

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