第362話 勝った! これにて試合終了!

 レオルドは大きくを息を吸い込み、腹の底から声を張りあげた。


「バルバロト! 援護しろ!!!」

「御意!!!」


 大聖堂の床を踏み砕くほどの踏み込みでレオルドは教皇に向かって飛び出す。

 その後ろに続くようにバルバロトが床を蹴って飛び出した。

 真っ先に教皇のもとに辿り着いたレオルドは拳を繰り出し、鋭く重たい連打を浴びせる。


「るぅおおおおおお!!!」

「ふ、ふ、ふ。悪くない連打だ。しかし、勢いだけでは私は倒せんぞ」

「私もいることを忘れてもらっては困る!」

「無論。忘れてなどいないさ」


 教皇の死角から剣を振り下ろしたバルバロトであったが、その斬撃は容易く避けられる。


「何ぃッ!?」

「この程度で驚いてもらっては困るな」


 驚愕にバルバロトが怯んだ瞬間を狙って教皇は鋭い蹴りを放つ。


「ぐがッ!」


 腹部に蹴りを受けてバルバロトは後方に吹き飛んでいく。

 レオルドは余所見をしている教皇に向かってさらなる一撃を放つが、こちらを見もせずに受け止められてしまう。


「なんだと!」

「狙いが見え見えだ。これでは意味がない。もう少し、趣向を凝らすのだな」


 児戯に等しいゆえに教皇もとい戦神はレオルドを教育するかのように説いた。

 それを聞いてレオルドは憤慨するも、教皇の言っていることはもっともなので反論できず、ただ悔しそうに奥歯を噛みしめた。


「いい加減に離せッ!」

「おっと……」


 掴まれている腕を振り解くためにレオルドは蹴りを教皇の顔面に向かって放つ。

 教皇は軽く仰け反るようにして蹴りを避けると同時に掴んでいたレオルドの腕を離した。


 解放されたレオルドは一度距離を離すべく、後ろへ飛び退き、息を整えた。

 先程の連打もそうだが、やはり常に魔力を奪われ続けている状況がよろしくない。

 レオルドは常人の何倍も魔力を有しているが、それでも戦闘の際にはいつも以上に魔力を消費するのだ。

 それゆえにまるで呼吸するかのように魔力を消費している状態が続いており、疲労感をさらに増していた。


「魔法陣さえ破壊できればいいんだが……」


 恨めしそうに呟くが魔法陣は大聖堂の真上に展開されており、破壊するには外に出て空を飛ぶか、大聖堂の天辺にまで行くしかないのだが、それを目の前の教皇が許すはずがない。


 さて、愚痴を言っていても仕方がないとレオルドは再び教皇を見据え、拳を構え直した。


「考えるのは目の前のこいつを倒してからだな……」


 見据える先には教皇がゆっくりとした速度で歩ている。

 まるで散歩でもしてるかのような老人の如く、教皇は自然体でレオルドに向かって進んでいた。


「さて、次はどう楽しませてくれる?」


 実に楽しそうに、面白そうに教皇は口の端を吊り上げて笑う。

 純粋に闘争が楽しく、そして生き甲斐でもある戦神にとってレオルドとの戦いは心底楽しいのだ。

 出来る事ならば、自分を満足させて欲しい。

 そう願っているからこそ、教皇に乗り移った戦神は本気を出さず、弄んでいる。


「テメエを楽しませる為に俺は戦ってるんじゃねえんだよッ!」


 教皇の心底愉快であるという笑みを見て、レオルドは憤慨し、床を蹴って走り出す。

 こちらへ向かって歩いてきている教皇に対し、レオルドは速度を落とさず、懐へと潜入する。

 教皇の懐に潜入したレオルドは床を蹴り、内臓を抉るような拳を突き上げた。

 まるでハンマーのように迫り来る拳を教皇は涼しい顔で受け止め、レオルドをグッと引き寄せた。


「工夫がなっていないぞ? この程度の攻撃、誰にでも止める事が出来る」

「そうかよ……ッ!」


 レオルドは受け止められた拳ごと自身の身体を螺旋状に回し、遠心力を利用した回し蹴りを叩き込む。

 強烈な蹴りであったが教皇は腕を上げて防いだ。


「予想していないとでも思ったか?」

「少しは痛がる素振りとか見せろよな!」


 不満を吐くが状況は好転しない。

 レオルドは体勢を整える為に教皇から離れようとしたが、そうはさせまいと詰められる。


「どこへ行く? 離れても無駄だということは理解しているだろう」

「生憎、俺は一人で戦ってるわけじゃないんだよ!」

「む……」


 レオルドの台詞と共に飛んできたのは人の頭よりも大きな火の玉だった。

 それに気がついた教皇は火の玉に顔を向けて、レオルドから目を離した。

 その隙にレオルドは教皇の傍から離脱し、距離を離すと同時に魔法を放つ。


「ショックウェイブ!」


 広範囲に広がる波状の雷魔法ショックウェイブが教皇を捕らえる。

 抵抗レジストされるがレオルドも以前よりレベルアップし、かつてのショックウェイブよりも威力と効果は高くなっていた。

 ほんの僅かな時間だけだが教皇を麻痺させ動けなくする。

 その僅かな時間が勝負を分け、教皇は火の玉に飲み込まれた。


 火に包まれ、ゴウゴウと燃え上がる教皇をレオルドは遠くから眺める。

 このまま燃え尽きて、灰になってくれないかなとレオルドが淡い期待を抱いていると火は消え去り、服が焦げただけの教皇が口を開いた。


「見事な連携であった。しかし、火力が足りない。私を滅したいのならば努力する事だな」


 パンパンと焦げた服を手で払うと教皇は顔を上げてレオルドを見据える。

 あくまでも標的はレオルドだ。

 他の有象無象はどれだけいようと眼中にない。


「出来れば丸焦げになってて欲しかったんだが」

「言っただろう。火力が足りないと」

「なら、こいつはどうだ!」


 教皇が無傷で火を打ち消す事を想定していたレオルドは魔力を練っていた。

 気付かれないようにひっそりと魔力を練り上げており、次の攻撃に備えてレオルドは準備をしていたのだ。

 魔力を吸われているがレオルドの魔力量は世界でもトップレベルのもの。

 そう易々と底をつくことはなくなっている。

 魔力を練り、溜めに溜めた瞬間最大火力を誇る電磁砲をレオルドは教皇に向けて撃ち放った。


「ライトニングブラスターッ!!!」


 レオルドの手の平から放たれるのは極大の閃光。

 青白い閃光は真っ直ぐに教皇のもとへ伸びていく。

 触れるだけで蒸発するほどの熱量に加えて、目では捉えきれない速度。

 ぶつかれば間違いなく死に至るであろう魔法に教皇は真正面から受け止めた。


「ぬぅんッ!」

「何ッ!?」

「ククク、これはいい! 素晴らしい魔法だ! だが、この程度では私を倒すことは出来ん!」

「があああああああああああッ!」


 獣のように吼えるレオルドはさらに魔力を上乗せし、電磁砲の威力を上げた。

 電磁砲の威力がさらに上がり、極大の閃光が教皇を飲み込まんとする。

 受け止めている教皇も流石に片手では防ぎきれないと判断したようで両手に切り替えると歓喜の声を上げた。


「フハハハハハッ! やはり、私の目に狂いはなかった。お前は素晴らしい戦士だ! この闘争を楽しもうぞ!」

「お前の娯楽に付き合う暇はねえって言ってるだろうがッ!」


 レオルドも必死だ。

 余裕そうの教皇の言葉に返答しているが彼の額は汗でびっしょりしている。

 ギリギリと奥歯を噛み締め、力の限り、電磁砲に魔力を注いでいた。


「いい加減、くたばりやがれーーーッ!!!」

「ぬぅぅぅ……ッ!」


 力一杯、雄叫びを上げるとレオルドは電磁砲に魔力をさらに注ぎ込み、教皇を見事に消し去った。

 教皇を飲み込んだ電磁砲は大聖堂の壁に大きな穴を空けて、収束していき、やがて消える。

 残ったのは片膝をつき、荒々しい呼吸を繰り返しているレオルドと呆然としている者達だけであった。

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