第361話 二人掛かりでダメなら三人掛りだ!

 教皇の強烈な一撃を受けて吐血したレオルドは歯を食い縛り、気合一閃とばかりに蹴りを放つも受け止められてしまう。


「どうした? 先程よりもキレがなくなっているぞ?」


 挑発するようにレオルドを見下ろす教皇。

 その挑発を受けてレオルドはお望み通りにしてやろうと軸足で地面を蹴って跳び上がる。

 そのまま空中で身を翻し、雷魔法を足に纏わせて鷹のように教皇を猛襲した。


「稲妻落としィッ!」

「良い一撃だ。しかし、まだ届かん」

「ぬぅッ!」


 教皇の脳天に叩き落したレオルドのオリジナルかかと落としは呆気なく受け止められてしまう。

 雷魔法で強化し、なおかつ遠心力を組み合わせて破壊力を増した一撃であったが教皇の前には無意味であった。


「では、こちらの番だな」

「私を忘れるんじゃないわよ!」


 レオルドと教皇が肉薄しているところへエリナは二人共消し炭にしてやろうと特大な炎魔法を放った。

 彼女の動向に気を配っていたレオルドは教皇から飛び退いて距離を離し、エリナの魔法から逃れる。

 そしてついでと言わんばかりにレオルドは土魔法で教皇の足を固め、動けないようにしていた。


「忘れてはいないさ。ただ、眼中にないだけだ」


 レオルドの土魔法で動けない教皇は迫り来る炎を軽く腕を振るってかき消した。

 信じられない光景にエリナは目を見開き、固まっているとレオルドの土魔法から抜け出した教皇が一瞬にして彼女に詰め寄った。


「ッ!?」


 瞬きをしたら目の前に教皇が立っており、エリナは声にならない悲鳴を上げる。


「闘争の邪魔である。死ぬが良い」

「させませんッ!」


 拳を握り締めて、大きく腕を振りかぶった教皇目掛けてイザベルが高く跳び上がると風魔法で急降下し、弾丸の様に飛び蹴りを放った。


「釣れたか」


 グルンと首を回して教皇はイザベルを捉えた。

 エリナを狙ったのではなく、虎視眈々と機を伺っていたイザベルを教皇は狙っていたのだ。

 イザベルはまんまと教皇の罠に嵌ってしまい、飛び蹴りを放ってしまっている。

 今更止めることなど出来そうもない彼女はまっすぐに教皇へ突っ込んでいき、振り上げられていた拳にイザベルは強烈なカウンターを受けて壁に激突して崩れ落ちた。


「アナスタシア、シルヴィアッ! 今すぐイザベルのもとへ向かえ!!!」

「「は、はい!!!」」


 イザベルは弱くはないが彼女はレオルドの様に打たれ強いタイプではない。

 教皇のカウンターをまともに受けてしまえば、それだけで致命傷だ。

 下手をしたら絶命しているかもしれない。

 最悪の想像をしてしまったレオルドは怒鳴り声を上げて回復役のアナスタシアと補助役のシルヴィアをイザベルのもとへ向かわせた。


「ボケッとするな、エリナ! すぐにそこから離れろ!」

「ッ!」


 当然、教皇が次に狙うのはエリナだ。

 レオルドはメインデッシュであるが彼女は前菜というわけでもない。

 単に邪魔なので露払いをするようなものだ。

 教皇は後ろへ飛び退くエリナに向かって跳躍し、彼女を叩き伏せようとしたがそこをレオルドが割り込んで雷魔法を放った。


「うちの使用人の仇だ、ボケェッ!!! ライトニングブラスターッ!」


 レオルドの手から放たれたのは極太の閃光。

 放たれた閃光は教皇を包み込み、肉片一つ残さずかき消した。

 かに思われたがレオルドが放った閃光の中から手が伸びてきて、彼の首を掴み上げる。


「がッ!?」

「もう少し、魔力を練った方がいい。素晴らしい魔法ではあるがこれでは物足りない」

「ぐぅ……!」


 首を絞められ悶え苦しむレオルドは教皇の手を振り払おうと必死に足掻いているが彼の攻撃は通じない。


「どうした。このままでは死ぬぞ? 早く振り払ったらどうだ?」

「ご、ごの……!」


 酸欠状態に陥り、レオルドの顔から血の気が引いていく。

 視界が霞み始め、意識が混濁としてきた時、助っ人が現れる。


「おおおおおおおおおッ!!!」


 教皇に向かって飛び込んできたのはバルバロトであった。

 彼はブリジットを制圧し、レオルドを助ける為に駆けて来たのだ。

 そして、もう一つ理由がある。

 それは妻イザベルの仇討ちだ。

 勿論、彼女は生きているが妻を傷つけられた事実は消えない。

 バルバロトは怒りで力を増幅させ、渾身の一撃を教皇に振り下ろした。


「む……」


 いかに教皇が頑丈と言えどバルバロトの渾身の一撃は流石に危険だと判断したようでレオルドを離し、後ろへ跳ぶようにして避ける。


「ご無事ですか、レオルド様!」

「ゴホッ、ゴホッ……。バルバロトか。助かった。どうやら、ブリジットの方は片付いたようだな」

「はい。動揺していたようで本来の実力を発揮できなかったのでしょう。時間はかかりましたが、これよりレオルド様の加勢に入ります」

「助かる。正直、アイツは規格外の強さだ。俺一人じゃ抑えきれん」


 エリナに続きバルバロトが加われば、戦力はさらなる強化だ。

 遠距離のエリナに近距離のバルバロト。

 バランスは悪いが、後方には回復役のアナスタシアが控えている。

 とはいえ、上空に展開している魔法陣が魔力を吸収しているので長期戦は不利である。

 レオルドは莫大な魔力を有しているが他はそうではない。

 バルバロトはまだ余裕そうに見えるが、それは表面上だけだ。


 彼も魔力を吸収されており、身体強化もいつまで保つかは分からない。

 そして、後ろの方にいるエリナもよく見れば肩で息をしている。

 恐らくだが、疲労が溜まっているだけでなく魔力も相当減っているのだろう。

 いくら彼女が優秀とはいえ、常に魔力を吸われ続け、大規模な魔法を連発すればすぐに底をつく。


 はっきり言って分の悪い戦いだが、それでも負けられないのだ。

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