第354話 失敗した……

 細かいところを詰めていき、レオルドは儀式を阻止するにあたって一番の難敵であるブリジットをどうにかする事を考えた。


「アナスタシア様。貴女からブリジット殿を説得できませんか?」


「流石に難しいですね。確かに彼女は私の言うことならば聞いてくれるとは思いますが、今回の事は突拍子もない事ですから信じてくれるかどうか……」


「しかし、彼女が一番の障害になるのですが……」


「分かっています。ですが、どうすればいいか……」


「でしたら、手紙で伝えるのはどうですか? 読み終えたら燃やすように書いておけば情報が漏れることはないでしょう」


「それはいいかもしれませんが、ブリジットに私が手紙を渡せば他の者に伝わると思います。人払いをしても怪しまれるでしょう」


「なるほど。それならば、手紙だけアナスタシア様に書いていただきましょう。こちらの方でブリジット殿へ秘密裏に渡るように手配します」


「出来るのですか?」


「ええ、もちろん」


 ニッコリと笑みを浮かべるレオルド。しかし、どうにも胡散臭い。アナスタシアは本当に信じてもいいのかと悩んでしまう。とはいえ、レオルド以外に頼れる相手はいない。ジークフリートはこういった裏工作は得意ではない。だから、頼るとしたらレオルドしかいないのだ。


「わかりました。ブリジットに猊下の企みを知らせます。少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「構いませんとも」


 そう言ってレオルドはまたしても胡散臭い笑みを浮かべた。やはり、この笑顔はどうにも信用が出来ないと思うアナスタシアだった。

 その後、アナスタシアが手紙を書き終えるまでレオルドは優雅に紅茶を飲んで時間を潰した。


「出来ました」


「確かに受け取りました。これで、準備は完了ですね」


「成功すればいいのですが……」


「こればかりは運次第でしょうね。いや、ブリジット殿次第でしょうか。彼女がどう動くか、どう捉えるかによります」


「私が言うのもなんですが、彼女は少々頑固なところがあるので半々といったところでしょう」


「半々もあれば十分ですよ。邪魔にならなければいいのですから」


「では、私達はこれで」


「あ、お待ちください。こちらをお返しします」


 そう言ってレオルドは立ち去ろうとしていたアナスタシアに冠を返した。まさか、そんなすぐに返ってくるとは思わなかったアナスタシアは驚きのあまり固まってしまう。それから少しして、正気を取り戻したアナスタシアはレオルドヘ問いかける。


「これが欲しかったのではないのですか!?」


「ん? ああ、私が欲しかったのは冠についていた女神の涙だけですので」


「その宝石だけでよろしいのですか?」


「ええ、そうですが……?」


 何やら話が上手く嚙み合ってない気がするレオルドは少し首を傾げた。


「ハーヴェスト辺境伯。もしかして、女神の涙の伝説を信じておられるのですか?」


(え……? 何その口ぶり……。まさか、知ってるのか?)


 アナスタシアの妙な言い回しに不安になるレオルド。


「ハーヴェスト辺境伯がどこでお知りになったかは存じませんが女神の涙には伝説の力などありませんよ。もしあるのならば、すでにその宝石は砕け散って消えているでしょうから」


 言われてみれば確かにその通りなのだ。女神の涙は一回ぽっきりの復活アイテムだ。使い終わった瞬間に砕け散って消える設定になっている。もしも、アナスタシアの言う通り本物ならすでに使われていてもおかしくはない。


 つまり、アナスタシアが言いたいのは所詮眉唾物だということだ。


「……ま、まあ私は物珍しいものが好きなので」


「最初からそう言ってくださればこちらも苦労しないで済みましたのに……」


「それはなんというか申し訳ない……」


「いえ、もういいです。これを返していただけたのですから、今回の事は忘れます」


 そう言ったアナスタシアは本日最高の笑顔を見せた。これはしてやられたというよりはレオルドがやらかしただけだった。

 アナスタシアとジークフリートが去ってレオルドは部屋の中で思いっきり顔を隠した。


 盛大にやらかしたのだ。悪役ムーブをしておきながら、その実、特に何の意味もなかった。ただ恥ずかしい思いをしただけである。


「レオルド様……」


「殿下。今だけは放っておいてください」


「私はその……素敵だと思いますわ」


「そのフォローが今は辛い……」


 メソメソとしているレオルドをあやすようにシルヴィアが慰める。しかし、今のレオルドにはその優しさが辛かった。


「はあ〜〜〜。まあいい。とりあえず、欲しいものは手に入った。これでよしとしよう」


「レオルド様。その女神の涙は一体どのようなものなのですか?」


「まあ、簡単に言えば死者蘇生の秘宝です。勿論、彼女の言っていた通り伝説ですから眉唾物かもしれませんが……」


「つまり、その宝石自体にはあまり価値がないと?」


「ええ、そうです。だから彼女が心配していたのは冠の方なのです。あちらは聖女にとっては奪われてはならない秘宝ですから」


「冠はどのような効果があるのですか?」


「回復魔法の効果が倍になり、範囲も広がり一度に複数の人を回復出来ます。しかも、装備している限り常に自身に回復魔法が掛かります。勿論、魔力の消費は一切ありません」


「な、なんですか。そのとんでもない性能は……」


「ですから、彼女は手放したくなかったのですよ」


「確かにその能力なら手放したくはありませんね……」


 レオルドの説明を聞いたシルヴィアはアナスタシアが嫌そうにしていたのを思い出して納得した。確かに彼の言ったとおりの能力を持つ秘宝を渡すのは嫌だろう。

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