第355話 抜かりはない……多分
ひとまずレオルドはアナスタシアから奪い取ったもとい貰い受けた女神の涙を懐に収めて、次の作戦を決行することにした。
「ギル。この手紙をブリジットの私室に置いてきてくれ」
「は。畏まりました」
そう言ってレオルドはギルバートにアナスタシアが教皇の企みについて事細かに書いた手紙を渡した。手紙を受け取ったギルバートはレオルドに一礼すると部屋を出て行き、早速届けに向かった。
「直接お渡しする方がよかったのではないでしょうか?」
シルヴィアがどうして直接渡さず、私室に置いておくように指示を出したのか気になってレオルドに質問をする。
「直接ですと下手したら戦闘になるかもしれませんから。まあ、戦闘になってもギルに勝てはしないでしょうが……」
「ああ、確かにそうですわね。しかし、ブリジット殿はそのような怪しげな手紙を見るでしょうか?」
「見ると思いますよ。アナスタシア様の名が書いてあるのですから」
「そうかもしれませんが……警戒して読まないという事も考えられるのでは?」
「そうなっても構いませんよ。その時はアナスタシア様が多分手紙について言及するでしょうし」
「それはもう最悪のタイミングではないのですか? 儀式が始まった時などでは……?」
「ハハハ。まあ、そうです」
「大丈夫なのですか?」
不安そうにレオルドを見つめるシルヴィアに彼は大胆不敵に笑った。
「なに、ここにいる頼もしい部下達がいますから、何の問題もありませんよ」
大きく手を広げて後ろにいるバルバロトやジェックス達を頼もしそうに見つめた。
「ですが、今回の相手は邪神になるかもしれないのですよね?」
「そうですね。一番の不安材料は邪神がどれだけ強いかです」
確かにシルヴィアの言う通りだ。レオルドは一応知識として邪神の強さを知っているが、もはやその知識が当てになることの方が少ない。
(そうなんだよな〜。多分、
教皇の企みを阻止する準備は整えているが邪神への対策はほぼない。正直言うと真正面からの戦闘以外何も手がないのだ。ただ復活を阻止できれば戦闘もないはずだとレオルドは考えている。
しかし、そう上手くいくのかと一抹の不安がレオルドを蝕む。
(正直、阻止できる確率は三割がいいところだ……。ジーク達が最初から協力してくれたとしても多分変わらない。俺がもっと早くに動いていれば話は違ったんだろうが……)
たらればの話をしてもキリがない。もう起こってしまった以上は出来る限りの最善を尽くすしかないのだ。
しばらく思考の海に潜っていたレオルド。腕を組んだまま沈黙しているレオルドにシルヴィアが声を掛ける。
「レオルド様?」
「ん? どうかしましたか?」
「いえ、先程から目を瞑ったままでしたので」
「ああ、少し考え事をしていたんです」
「詳しく聞いてもいいですか?」
「う〜ん……」
特に話すようなことでもないのでレオルドは悩んだ。が、シルヴィアに話したところで問題はないだろう。
「もし、邪神が復活したら勝てるかなーって考えてたんです」
「それは……また難しい話ですわね」
「ええ。なにしろ、神と呼ばれていますからね。帝国で戦った炎帝よりも肩書きだけなら上ですよ」
渇いた笑みを浮かべるレオルドにシルヴィアは何も言えない。レオルドなら勝てるとか、そのような事を言っても気休めにもならないのだ。此度の敵は邪神。レオルドの言う通り肩書きだけなら過去最大の敵。
ただし、その全容はまだ分からない。炎帝は過去の出来事で強さを測れたが邪神は一切分からないのだ。
「まあ、最悪の場合を考えておかねばなりませんからね……」
「最悪の場合ですか……。それはつまり、邪神が復活した際の話ですね」
「そうです。もし邪神が復活してしまった場合は殿下には避難して頂きます」
「レオルド様。私には神聖結界があります。いざとなれば己の身くらいは守れます」
「これは憶測にすぎませんが、邪神が魔法ではない攻撃を放った際に殿下を守り切れる自信がありません」
そう言われるとシルヴィアも黙ってしまう。レオルドの言う通り、相手は邪神だ。シルヴィアが持つ神聖結界は魔を弾き、防ぐものだ。邪神と言えど神に違いはない。ならば、魔法以外の攻撃手段が当然あるだろう。
もし、それが自身に向けられたらシルヴィアは何も出来ないだろう。彼女は確かに
「わかりました。その時が来ましたら私は避難いたします。ですが、その時が来るまでレオルド様のお傍にいることを許してくださいますか?」
「それは勿論です。平時であれば問題ありません」
「ありがとうございます」
これで覚悟は決まった。レオルドは打てる手は全て打った。後は結果を待つだけ。教皇の暴走は止まらない。すでに儀式の準備は整っているのだ。残すは聖女と子供達の魂を供物に捧げるだけ。
レオルドは抜かりなく準備を整えるのであった。
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