第348話 あ~、やっぱり仕掛けてくるよね
祝福の儀が始まり、レオルドとシルヴィアは教皇の前で片膝を床につけて、両手を組んで祈りを捧げるかのような姿勢になる。
指示された姿勢にレオルドは文句を言いたかったが、外交問題にされても面倒なので仕方なく従った。
(く……。教皇の前に跪くなんて! まあ、流石に何もしてこないとは思うけど……)
内心で文句を言いつつも、教皇の指示に従い、レオルドとシルヴィアは教皇の前で跪き、頭を垂れる。
その二人に、教皇が近付き、聖書のようなものを取り出して、聖句を述べる。
レオルドは聖句を唱える教皇に耳を傾けるが、いまいち意味がわからないので、途中から聞き流していた。
結構、長い時間、教皇が聖句を読み上げており、レオルドはいい加減退屈に感じていた時、身に付けていたアクセサリーが壊れる音を聞いた。
(なに!? 呪いを防ぐ指輪が壊れた! こ、この狸爺め! 祝福の儀で呪いを掛けてきやがった)
身につけていたアクセサリーの内、呪いを防ぐ指輪が砕けた事を知ったレオルドは、目の前で聖句を読み上げてる教皇を睨み付ける。
まさか、何もしてこないだろうと思ったら、呪いを掛けてきたのだ。対策をしていなければ、どうなっていた事か。レオルドは、今すぐにでも掴み掛り、教皇を問い詰めたい気持ちに襲われたが、歯を食い縛って我慢した。
(くそ! 今すぐ、教皇の顔面に一発食らわせたいが、教皇の仕業だという証拠がない!)
そう、レオルドが我慢しているのは、教皇が呪いを掛けた本人だと断定出来ないからだ。確かに、レオルドからすれば、一番怪しいのは教皇で間違いないのだが、教皇が呪いを掛けた証拠がない。
なにせ、教皇は儀式の準備が始まるまでレオルド達と一緒に待っていたのだ。儀式の準備をしていたのは、別の神官達であり、普通に考えたら疑うのはそちらだろう。
予め呪いを掛ける準備を整えていたならば話は変わってくるが、何一つ怪しい点がない。祝福の間には、魔法陣のような模様もなく、床にも壁にも怪しい点は見つからない。
ならば、天井はどうかとレオルドは、上を見上げるが天窓と照明があるだけで何もない。
つまり、教皇が犯人という証拠どころか、大聖堂にいる人間が犯人という証拠がないのだ。
しかし、レオルドは教皇が犯人だと決め付けている。これは、レオルドが
邪神を復活させるなら手段は選ばない。
それが、目の前にいる教皇という人間だ。勿論、操られているということはない。教皇が、ただ神を妄信しており、狂っているせいだ。
(ちッ……。考えても仕方がない。今は、儀式が終わるのを待つしかないか。ここで仕掛けても、国際問題にされるだけだしな)
歯痒いが、何もできないレオルドは、儀式が終わるのを待つしかなかった。幸いにも、レオルドが身につけている装飾品は他にもある。無論、レオルドはシルヴィアにも同様のものを贈っている。しかも、自身のものよりも性能が良い物をだ。
それから、どれだけの時間が経ったのか分からないがレオルドの前で聖句を読み上げていた教皇が、手に持っていた聖書をパタンと閉じた。
それと同時に、教皇は二人に顔を上げるように命じて、二人は顔を上げる。すると、そこには優しそうな微笑を浮かべている教皇が、レオルドの目に映った。
ただし、レオルドからすれば、反吐が出そうなほど胡散臭い笑みであった。
「これにて、お二方の婚約祝いとさせていただきます」
『ありがとうございます。教皇猊下』
レオルドとシルヴィアは二人揃って、教皇にお礼を言う。礼を聞いた教皇は、ニッコリと微笑み、二人に結婚式について話した。
「ところで、お二方は結婚式をどうするおつもりでしょうか? もしよろしければ、聖都でいたしませんか? 盛大に祝福させていただきますよ?」
「ふふ、考えさえていただきます」
「ええ、ご検討の方、よろしくお願いします」
笑って軽くあしらうシルヴィアにレオルドは、拍手を送りたくなる。あそこで、ゼアトで行うと言えば、話が長くなるのは間違いなかっただろう。そう言う意味では、やはりシルヴィアはレオルドよりも交渉能力がある。
さて、儀式も終わったので、宿へ帰るだけになったのだが、教皇がまだ話したいことがあるということで、レオルド達は大聖堂の一角にある応接室に来ていた。
「ふう、やはり年寄りに、あの廊下は長い。少し、歩いただけで息を切らしてしまいますね」
(そんなことはどうでもええわい! さっさと用件を言え! 用件を!)
呪いを掛けられそうになったレオルドからすれば、一刻も早く帰りたかった。それが、教皇がまだ話があるからと言って引き止められたのだ。口が悪くなるのも仕方がないだろう。もっとも、レオルドの口が悪いのはいつものことだが。
「それで、教皇猊下。お話とは一体なんでしょうか?」
「実は近い内に、私が新しく作り上げた聖歌隊をお披露目するのです。そこで、お二方にもお披露目会へご参加いただけないかと思いまして」
これは困った事になったとレオルドは思う。断ることは出来るが、教皇からの心象が悪くなってしまうだろう。しかし、教皇の心象が悪くなっても今更だと思うが。
「聖歌隊! それは素晴らしいですわね。私達が、参加してもよろしいのでしょうか?」
「ええ、ええ。構いませんとも。むしろ、お二方には是非参加していただきたい。あの子達の歌声を聞いてもらいたいのです。きっと、お二方も気に入ると思いますよ」
もう、これでもかというくらい、ぐいぐい寄って来る教皇にレオルドは頬が引き攣っていた。恐らくだが、教皇は聖歌隊のお披露目会で何か良からぬ事を起こす気だとレオルドは睨んでいる。
その際に、聖女アナスタシア、偽聖女アストレア、聖女候補シルヴィアが一堂に会するはず。そうすれば、教皇の悲願が成就するのは確かだろう。
どうにかして、止めたいが今は手立てがない。教皇の企みを暴露しても、でまかせだと嘲笑われるのがオチだ。
これが
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