第347話 ワクワクするな~
大聖堂へやってきたレオルドとシルヴィアは、馬車から降りて神官の案内に従い、大聖堂の中へ入る。煌びやかな廊下を歩いている最中、レオルドは廊下の壁に掛けられている絵画を流し目で見ていた。
もっとも、レオルドには芸術的な価値など分からないので、特に感想もなかった。強いて言えば、デッカイ絵だなという子供のようなものだけ。もう少し、芸術に対してセンスを磨いた方がいいだろう。
長い廊下を歩いて、先頭にいた神官がピタリと止まる。それに合わせて、レオルドとシルヴィアも足を止めた。二人の目の前には、巨人の為に作られたかのような大きな扉が見える。
恐らく、この先に教皇が待っているのは間違いないとレオルドは気合を入れる。これから面会するのは、
「それでは、教皇猊下の元へ参りましょうか」
二人の前にいた神官が、後ろの二人を振り返り、柔和な笑みを浮かべる。傍から見れば、温厚で優しそうな神官だが、レオルドは少し警戒していた。勿論、彼がなにか企んでいることはないのだが、やはり敵の本拠地なのでレオルドとしては気が抜けないのだ。
神官が二人から扉の方へ視線を戻すと、扉へ手を当てる。そうすると、扉が開いていき、光が差し込んできた。一瞬、レオルドとシルヴィアは、その光に目を覆うが、すぐに飛び込んできた光景に息を呑む。
部屋の奥に立つ女神像に、その背後には幻想的な光景を産み出している巨大な窓ガラス。そして、天井にも同じようなガラスがある。
(これは凄いな。運命48でも見たが、実物はまた別格だ)
画面の向こう側でしか見た事がなかった光景に感動しているレオルドだが、すぐに現実へ引き戻されることになる。
「ようこそ、おいでくださいました。シルヴィア王女、レオルド辺境伯」
その声に導かれるようにレオルドは顔を向ける。そこには、案内役の神官よりも豪勢な法衣を身に纏い、頭には教皇のみが許された司祭冠を被っている教皇がいた。教皇は温和な笑みを浮かべて、両手を広げ、二人を歓迎している。
(こんな優しそうな爺さんが、邪神復活を企んでるとか誰が予想できるかね。運命48で知ってなきゃ、ほぼ無理だわ。まあ、シャルみたいに情報収集が得意ならわからんけど)
「遠くからご足労いただきまして、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそお招きいただき、ありがとうございます」
社交辞令のような挨拶を終えて、レオルド達は教皇と向き合う。
しばらく、教皇がレオルド達に聖教国の街並みや歴史について語り、時間が過ぎていく。レオルドは大して興味がないが、相手の機嫌を損ねてはいけないので、適当に相槌を打ちつつ、教皇の話に耳を傾けている。
ようやく、教皇の無駄話も終わり、本題へ移ることになった。
「いけませんな。歳を取ると、どうも話が長くなってしまう。このような老人の長話に付き合っていただき、ありがとうございます。さて、それでは、お二方の婚約を祝福させていただきたく思いますが、よろしいでしょうか?」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
レオルドとシルヴィアは一緒に頭を下げて、教皇に祝福をしてもらうことになる。祝福をする為に、まずは場所を変える必要があるとのことで、レオルドとシルヴィアは教皇の指示に従い、部屋を移動する。
辿り着いた部屋は、先程と似ているが内装に若干の違いがあった。レオルドは視線だけを動かして、部屋に何か仕掛けられていないかを確認するが、特に怪しい点は見つからない。
「こちらは、祝福の間といいます。先程の部屋は祈りの間と呼んでいます。違う点は、こちらでは女神の祝福を授かるといったところでしょうか。あちらは、女神に祈りを捧げる場所ですので」
(へえ、そうなんだ。運命48じゃ出てこなかったな。まあ、製作陣の都合かな?)
教皇の簡単な説明を聞いて、レオルドは違う事を考えていた。
「それでは、これより祝福の儀を行います。準備を致しますので、少々お待ちを」
準備をすると言われて、レオルドとシルヴィアは言われたとおりに待っていると、神官たちがやってくる。
二人の前で、神官たちが忙しなく動き回り、祭壇が作られていく。どうやら、結構時間が掛かりそうだとレオルドは顔が引き攣りそうになった。シルヴィアは、目の前の作業を見て、何を思っているのだろうかとレオルドは視線を向ける。シルヴィアの表情に変化はなく、心の内を読み取れないようになっていた。
(流石ってところですわ。結婚したら外交は任せようかな!)
やはり、王族なだけあってポーカーフェイスが得意なシルヴィアを見て、レオルドは結婚後に外交を全部丸投げにしようと画策する。
そんな事をレオルドが考えている内に、祝福の儀を行う準備が出来たようで、レオルドとシルヴィアの元へ教皇が歩み寄る。
「では、準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
そう言われて二人は、教皇の後についていき、祝福の儀が始まる。
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