第346話 いざ、本拠地へ

 回復薬のことについては、特に何も考えてはいないレオルドだが、教皇の邪神復活については対策を考えていた。


 とは言っても、非常に厄介なことがある。邪神が戦神だと判明したが、やはり邪な神には違いない。そんな神を倒すには、聖教国が保有している神器が必要となってくる。


 さて、これが問題なのだが、この神器は聖女アナスタシアが保管場所を知っており、ジークフリートが手に入れることになっている。勿論、それは運命48ゲームの話なのだが、今回に限ってはどうすることも出来ない。


 まず、神器が保管されている場所は、聖教国が聖地として崇めている場所、霊峰エールデン。その山頂ではなく最奥に神器、聖剣ジオソレイルが眠っている。


 聖剣は選ばれた者にしか使えず、その選ばれた者こそジークフリートなのだ。だから、レオルドでは使うことが出来ない。もっとも、それは運命48ゲームの話であって、現実では分からない。


 試せば分かるのだが、最奥に進むには聖女の存在が必要不可欠となっている。シルヴィアでも可能性はあるが、霊峰エールデンまで行く時間がない。なので、諦める他なかった。


(はあ……。明日はシルヴィアと一緒に教皇の所へ祝福を受けに行くのか……)


 情報は集めたが、結局、何の対策も立てることが出来なかったと、レオルドは憂鬱そうに溜息を吐く。


「あの、レオルド様?」


 先程までは、上機嫌だったレオルドが、またもや憂鬱そうに溜息を吐くものだから、シルヴィアは心配そうに声を掛ける。


「あ、申し訳ありません、殿下」


 流石に何度も溜息を吐いているレオルドは、申し訳なさそうに眉を八の字にしながら、シルヴィアに謝る。


「何か気になることでもあるのですか?」


 どうしてもレオルドの事が心配なシルヴィアは、レオルドの顔を覗きこむように尋ねるが、レオルドは難しい顔をして沈黙している。

 答えたくないのではなく、答えられないといった様子で、シルヴィアも深く聞くことが出来ない。人には誰しも聞かれたくない事はある。恐らく、今のレオルドがそうなのだろうとシルヴィアは察した。


 レオルドの方もシルヴィアが、気を遣っている事に気がついており、どうしたものかと頭を悩ませている。

 しかし、いくら悩んだ所で解決するはずもなく、レオルドは切り替える事にした。


(ひとまず、邪神の復活については措いておこう。明日の教皇との面会に備えておくか)


 とりあえず、レオルドは明日の予定である教皇との面会に備える事にした。


「殿下。明日のことについて、少しお話をしませんか?」


「明日の事ですか? それは、教皇猊下との面会についてですの?」


「ええ。そうです。明日は、私達の婚約を祝福する為の話し合いでしょうから」


「そうですわね。ですが、よろしいのですか? 儀式の方は考えなくても?」


「そちらの方は、ある程度準備はしてますから。向こうが、なにか仕掛けてきても大丈夫ですよ。それに、いくらなんでも正面から襲ってくる事はないでしょう」


「それはそうかもしれませんが……。いえ、わかりました。レオルド様がそう仰るなら、私も信じましょう」


 シルヴィアの部屋に集まっていたレオルド達は、話し合いを終えて、それぞれの部屋へ戻る。

 レオルドはベッドに寝転んで天井を見つめながら、明日の事を考えている内に眠っていた。


 ◇◇◇◇


 翌朝、レオルドは教皇と面会するための正装へ着替えて、シルヴィアの部屋へ向かう。そこには、レオルドと同じく、教皇と面会するための正装に身を包んだシルヴィアがいた。


「おはようございます、殿下」


「おはようございます、レオルド様。昨日はよく眠れましたか?」


「はは、まあ、意外と」


「まあ」


 意外と図太い神経をしているレオルドに、シルヴィアは面白そうにクスクスと笑う。


「お二人とも、そろそろお時間です」


 そこへイザベルが割り込み、二人を迎えに来る使者の来訪が近いことを知らせる。二人は、その知らせを聞いて、身だしなみをチェックしてから宿を出る。


 レオルド達が宿を出ると、タイミングよく教皇が派遣した聖騎士と神官がやってきた。簡単な挨拶を済ませると、レオルドとシルヴィアの二人は馬車に乗り込んだ。二人の世話係として、ギルバートとリンスが一緒の馬車に乗る。

 迎えに来た神官を含めて、五人が馬車に乗った。五人を乗せた馬車と、護衛の聖騎士が大聖堂へ向かう。


 いよいよ教皇と対面する時が来たと、レオルドは緊張していた。万全とは言えないが、出来る限りの準備は整えたレオルドは、ただその時が来るのを待つだけだった。


(ふう……。もう少ししたら、大聖堂か。ついに教皇と対面する時が来た。多分、何もされないとは思うけど、いつでも迎撃できる準備だけはしておこう)


 レオルドは懐に仕舞ってある魔道具や身に着けているアクセサリーを触る。もしもの時は、これらを総動員して教皇の元から逃げる為にだ。これから向かう先は大聖堂。

 つまり、敵の本拠地である。最悪の場合、罠に嵌められてしまうかもしれない。だからこそ、魔法だけに頼るのではなく、道具を使う準備をしたのだ。


 出来ることなら、これらの道具を使う時が訪れないことをレオルドは祈るばかりだった。

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