第327話 安心して、死なないよう調整するから
兎に角、命最優先でレオルドは物陰から物陰に隠れながら移動する。出来るだけ姿を隠しているが、果たしてレッドドラゴンに通用するかどうか。
レオルドは
そのおかげでレオルドも詳しいことは分からず、ただ強いという認識でしかない。
当然、竜はそのようなものではない。知能が高いので人語も理解する上に文化も知っている。だから、竜の中には人間と友好的な個体もいる。
ただし、人間にも善悪があるように、竜にも善悪がある。だから、人間を殺すことが好きな竜もいたりする。
(くそ……! 今は兎に角、ここから急いで離れないと!)
先のレッドドラゴンが人間をどう思っているかなど、レオルドには見当もつかないので、今は逃げる事しか出来ない。
勿論、見つかればどうなるかは分からない。運よく、先程のレッドドラゴンが人間に対して友好的な個体ならば対話は可能だが、好戦的な個体であれば戦闘待ったなしだ。
(遠くに逃げるしかねえ! ちくしょう! シャルめ! 確かに調子に乗ってたのは悪かったけど、ここまですることはないだろ!!!)
胸の内でシャルロットに文句を言いつつ、レオルドはコソコソと物陰を隠れながら移動していた。しかし、隠れていても意味はなかった。
竜は特別な目を持っており、魔力を見ることが出来る。大なり小なり様々な魔力を見分ける事が出来る竜は、レオルドの存在に気がついていた。
しかも、割と警戒している。なにせ、レオルドは魔力の量ならばシャルロットにも負けないくらいあるのだ。
魔力の多さで強さが決まるわけではないが、やはり多いに越したことはない。竜もそのことを理解しているので、レオルドの魔力に気がつき、警戒していた。
しかし、レオルドがコソコソと移動しているので、警戒心は薄れており、今では興味津々である。一体、何があそこにあるのだろうかと気になっている。
そんな事になっているとは知らずに、レオルドは息を潜め、腰を低くして、出来るだけ姿が見えないように物陰を移動している。竜からすれば、実に滑稽な姿だが、レオルドは至って真剣である。
(よし、もう少しで溶岩地帯は抜けられそうだ!)
ゴールまであと少しと、レオルドは内心ガッツポーズをする。だが、悲しい事に、レオルドがゴールする事はない。
なぜならば、ゴール手前にレッドドラゴンが降り立ったのだ。しかも、物陰に隠れているレオルドに顔を向けている。
レオルドも完全に居場所が知られている事に気がつき、泡吹いて倒れそうになった。しかし、なんとか持ち堪えるが膝は笑っている。
「そこにいるのは分かっている。出て来い」
(あわわわわわわ……ッ!!!)
人語で語りかけてくるレッドドラゴンの言葉に従ってレオルドは物陰から、震える身体を必死に抑え込んで出てきた。
「ほう? 人の子か」
(笑ってるのか? ちくしょう! 表情から察する事ができねえ!)
レッドドラゴンの声色からして機嫌が良さそうに感じるレオルドだが、ドラゴンの表情が読めないので、本当に機嫌がいいのか分からない。
「何故、黙っている? なにか喋ったらどうだ? それとも、疚しい事があるから何も言えないのか?」
「いえいえ、そのようなことは決してございません! 私はただ、迷った身であるだけで、貴方様を害そうなどとは思ってもおりません!」
「不愉快だ、その口調」
(じゃあ、どないしろって言うんじゃ!)
「人の子は立場が上の者に媚び
(知らんがな! 俺に言われても返答に困るわ!)
「しかし、今は許そう」
圧倒的強者であるゆえに尊大な態度であるレッドドラゴンに、レオルドは怒り心頭である。レッドドラゴンは気がついていないが、レオルドは青筋を立てていた。
「それで、何故、このような場所にいる。人の子よ」
「いえ、先程も言いましたが迷った身でございまして」
「嘘をつくでない。ここは人里から離れた孤島。船でもここへは来られまい。それに、その身なり。迷ったというがまだ新しい。ならば、貴様は迷ったわけではないだろう?」
(あらー、賢いのね~!)
これは誤魔化せないとレオルドは判断する。しかし、このレッドドラゴンは対話が可能だという事も判明した。もしかしたら、事情を話せば分かってくれるかもしれないと思ったレオルドは、一から説明することにした。
「えーっと、実はですね」
「ふむ、なるほど。つまり、レオルド。お主はここで反省をしろということだな?」
「はい。そういうことになります」
「魔女の意図は理解した。ならば、やることは一つだ」
小さく畳んでいた両翼を大きく広げたレッドドラゴンに、レオルドは首を傾げる。先程の説明で彼か彼女か分からないが、一体何を理解したのだろうかと。
「死ぬ気で生き残るがいい。これから貴様を殺す」
「ふぁっ!?」
空へ羽ばたくレッドドラゴンはレオルドを見下ろして、殺害予告をした。突然の殺害予告に混乱するレオルドだが、次の瞬間に本気だと理解することになる。
「ガアアアアアアアアッ!!!」
レッドドラゴンの咆哮と同時に放たれたのは、巨大な火の玉だ。その灼熱の火球は真っ直ぐにレオルドへ飛んでいく。
「なっ!? は! うおおおおおおおおおお!?」
自分の置かれた状況を理解するのに戸惑ってしまったが、命の危機が迫っていることは確かなので、レオルドは全力で障壁を張り、火の玉を防いだ。
「まだまだ、行くぞ!!!」
レッドドラゴンはレオルドの師匠でもなんでもないのだが、シャルロットの考えに同意したのか、やる気に満ち溢れていた。
「死は常に隣り合わせだと、その身に刻むがいい!」
「うおおおおおああああああ!!!」
レッドドラゴンは調子に乗っていたレオルドに、お灸をすえるように容赦なく火を吐きながら追いかけ回す。絶叫するレオルドは島を走り回ることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます