第315話 破廉恥な!

 現在、レオルドはシルヴィアの目の前で正座をしている。理由は言わずもがな、シャルロットとの浮気騒動が原因である。ゼアトに勤めているイザベルからレオルドがシャルロットと同衾どうきんしていたとシルヴィアに報告があったのだ。


「はあ……レオルド様。酔っていたとはいえシャルお姉様と一夜を過ごすなんて……」


「誠に申し訳ありません……」


 ちなみにレオルドの隣にはシャルロットも正座をしている。レオルドが捕まえて一緒に連れてきたのだ。


「レオルド様。私、そこまで怒っていませんわ」


「え……!」


 てっきり死刑宣告を覚悟していたレオルドは呆気に取られる。同時になぜシルヴィアはそこまで怒っていないのかと疑問が浮かぶ。


「だって、私はレオルド様が間違いを犯すなど思っておりませんもの」


「で、殿下……!」


 とんでもない信頼だ。レオルドは傍から見れば完全に黒と言える浮気をしたにも関わらずシルヴィアはレオルドが浮気をしていないと信じているのだ。


「それにシャルお姉様ですから故意犯でしょうし。酔ったフリをしてそのままレオルド様と一緒に寝ただけでしょう? 恐らく、私の反応を見るために」


「ギクリッ!」


 シルヴィアの推察にわざとらしく動揺するシャルロットに隣で見ていたレオルドは何も言えなくなる。シャルロットならやりかねないと。


「まあ、これが他の女性であったなら容赦はしませんでしたわ」


「ヒュッ……」


 悪寒に襲われたレオルドは身震いした。シルヴィアから放たれる殺気がかつて見せた以上のものだったから。


(まあ、相手の方ですが。レオルド様には勘違いをしていてもらいましょう)


 シルヴィアが容赦しないといったのはレオルドではなく浮気相手のことを指していた。人の物に手を出すとは、どれだけ愚かなことかと懇切丁寧に教えるつもりだ。その方法を披露する日が来ないことを天に祈るしかレオルドにはできないだろう。もっとも、レオルドは勘違いをしているので知る由もないが。


「しかし、レオルド様。確かに浮気ではなかったとしてもシャルお姉様、つまり私の婚約者でありながら他の女性と一夜を共にしたのは覆しようのない事実です」


「は、はい」


「ですから、罰を与えます」


 ゴクリと生唾を飲み込むレオルドはシルヴィアの言葉を待つだけとなる。ついに死刑宣告でもされるのだろうかと覚悟を決めるレオルドにシルヴィアは意を決して口を開いた。


「わ、私と……デートしてください」


「へ……?」


 勇気を振り絞って言ったのにレオルドが惚けた声で聞き返すものだからシルヴィアはキッと睨みつける。


「聞こえませんでしたか! 私とデートして欲しいと言ったのです!」


 物凄い剣幕で迫ってくるものだからレオルドは思わず仰け反ってしまう。


「聞こえております。しかし、その……それが罰になるのですか?」


 はっきり言って罰とは到底言えないだろう。レオルドもそのことに疑問を感じており、思わずシルヴィアに聞き返してしまうほどだ。


「当然、罰ですからレオルド様には私とデートをしている際には一切の拒否権がありませんわ!」


 それでいいのかと問いたくなるがシルヴィアが罰だと言っているのでレオルドには拒否権はない。つまり、単なるデートではないというわけだ。


 そのやりとりを見ていた元凶のシャルロットはニマニマと笑っている。それを見たシルヴィアはそっぽを向いた。シャルロットの視線に耐えられなくなったのだ。なにせ、罰とはいえレオルドをデートに誘ったのだから。


「うふふ、可愛いわね。シルヴィアは〜」


 シルヴィアの気持ちをある程度理解したシャルロットは立ち上がり、シルヴィアを抱きしめる。


「むぅ……元はと言えばシャルお姉様のせいですわ」


「ごめんね〜。ちょっとからかいたくなっちゃったの」


「限度がありますわ! 私、レオルド様が浮気したと聞いて血の気が引きましたのよ。ですが、相手がシャルお姉様だと聞いて安心しましたわ」


「あははは。ほんとにごめんね。もう二度としないわ」


「そうしてください。心臓がいくつあっても持ちませんわ」


「ふふ、それより、レオルドの腕枕って思った以上に心地よかったわ。貴女も今度してもらいなさいよ」


「ええっ!? そ、それはまだ早いというか、その、あの……」


「まあ、貴女はもっとすごいことをしてもらうものね。心の準備をしておきなさいよ〜」


「もっとすごいこと……!」


 妄想するシルヴィアの脳内はピンク色だ。二人は婚約者であり、いずれは結婚するので当然そういうことをするだろう。今から脳内シミュレーションをしていてもなんらおかしくはない。むしろ、しておくべきだろう。知識としては知っていても実践となると話は違うのだから。


「シルヴィア。妄想はそこまでにしておきなさい」


「はっ……私は何を……!」


 いずれ来たるであろう妄想でトリップしていたシルヴィアをシャルロットが連れ戻した。正気に戻ったシルヴィアは見る見る内に顔を赤くしていく。


「ち、ちがうのです! わ、私はその……破廉恥ではありませんわ!」


「ええ……」


 盛大に自爆しているシルヴィアにシャルロットも引いている。その中でレオルドは一体何が起きているんだろうと眺めていることしか出来なかった。

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