第314話 今宵は無礼講じゃ~

 後日、休暇を終えたレオルド達はシルヴィアから得たヒントを元に結界魔法を完成させた。


「諸君! ついに神聖結界に代わる結界魔法の開発に成功した! 紆余曲折あったが、それも全てここにいる同志のおかげだ。感謝する。ありがとう!!!」


 レオルドが集まった研究者達にお礼を述べると、大きな歓声が沸いた。まあ、完成するまでに何度も爆発が起こり、何回死にかけたか。それを思い出すと、研究者達は地獄のような日々から解放されることに喜んだ。やっと、平穏な日々が帰ってくると考えれば当然であろう。


 それから、レオルドは国王へ報告に向かい、研究者達はレオルドの帰還を待つだけとなる。レオルドが国王へ報告に行っている間、彼らは日々の苦労を涙ながらに語っていた。しかしながら、あの地獄の日々は決して無駄ではなかったと言う。具体的には危機回避能力がすこぶる成長したので。


 その頃、レオルドは国王と対談していた。結界魔法の完成報告に国王は大層喜んだ。その喜びようを見てレオルドも頑張ってよかったと思っている。だが、国王が喜んだのは別の意味だ。レオルドが毎度のように起こしていた研究所爆破騒動が無くなるという事実についてだ。


「よくやってくれた……ッ! 本当によくやってくれた……ッ!!!」


 感極まった様子でレオルドの手を握り、褒める国王にレオルドは決め顔で返事をする。


「当然のことです!」


 国王が喜んでいる理由を盛大に勘違いしているが、両人にとって知る必要のないことだ。これで上手く話が進むなら黙っておくのがベストだろうと側で見ていた宰相は沈黙を決めるのであった。


 報告を済ませたレオルドは研究所へ戻ることになる。本来ならシルヴィアにも報告する必要があったのだが、彼女はまだ学園に通っているので平日は授業に出ているのだ。なので、シルヴィアに報告するのは後になる。


 研究所へ戻ったレオルドはメンバーを集めて夜にパーティを開くことにした。労いは必要である。彼等は文字通り命懸けで新たな結界魔法の開発に貢献したのだ。そんな彼等を労うのは当然のことであろう。


 夜になりレオルドは予約してあった酒場へ向かう。研究者の中には平民がいるので、彼等の希望を聞いたレオルドは大衆が利用する酒場を予約したのだ。勿論、貸し切りである。研究所を何度も爆破して、その度に自身の懐から修繕費を出していたレオルドだが、未だに財源が尽きることはない。


 予約していた酒場へ向かうと、すでにレオルド以外のメンバーは来ていた。一番最後になってしまったレオルドは一言謝ってから、新たな結界魔法の完成を記念して宴を始めた。


「今宵は俺の奢りだ。好きに飲め、好きに食え! さあ、楽しもうじゃないか!」


 その言葉に集まった人達は大いに湧いた。レオルドが辺境伯で高位貴族であることを知っているが、同時にレオルドという人間を知っている研究者達は遠慮なく飲み食いを始める。公の場では許されないが、今宵だけは無礼講であった。


 飲んで食って、楽しくなって踊って歌って愉快な時間は過ぎていく。あの地獄の日々は今日このためにあった糧とさえ思える程に楽しい時間を過ごした研究者たちだった。


 やがて、床に転んで眠り始める始末だ。それでも彼等の表情は幸せそうに緩んでいる。ルドルフやフローラも同じように床へ転がって寝ている。起きているのはレオルドとシャルロットの二人だけだ。酒場の店員もレオルドが貸し切りにしていたので一緒にどんちゃん騒ぎに便乗していたので床に転がって寝ている。


「ふっ……随分苦労をかけてしまったな」


「そうね〜。みんな毎日のように死にかけたんだもの。羽目を外すのもわかるわ」


「そうだな。彼等には助けられた。出来ればゼアトに来てほしいくらいだ」


「あら、随分気に入ったのね? そんなに良かったの?」


「まあ、ルドルフを見ての通り、研究者というのは己の欲に素直だ。だからこそ、俺に対しても物怖じしない。そこが気にいっている。それに分別もついているからな。公の場ではきちんと弁える事もできる」


「まあそうね。フローラなんかも私のことを知っても態度は変えなかったし」


「だろう? ただ、少々暴走しがちなところがキズだがな」


「それは私達も当てはまるでしょ?」


「ははっ、そうだな。確かに俺達もだった」


 そう言って笑いながらレオルドはグラスに酒を注ぎ、ちびちびと飲んでいく。それを見ていたシャルロットはレオルドにグラスを突き出した。その意図を理解したレオルドはシャルロットのグラスに酒を注いでいく。


「ありがと」


「ん」


「ねえ、これで王都での用事は済んだけど、次はなにするの?」


「前から言ってるが領地の改革だ。今は領土も増えて人口も増えた。しかも、海に面する領土もある。やりたいことは沢山あるんだ」


「それはいいんだけど、貴方の本来の目的はどうしたのよ?」


「無論、そちらも抜かりはない。戦力の増強、自身の鍛錬も欠かさないさ」


「そう。まあ、忘れてないならいいんだけど」


「忘れるわけがないだろう。まあ、最近は確かに遊んでばかりに見えるがな」


「ホントよ。呆気なく殺されるんじゃない?」


「怖いことを言うな。まあ、今後どうなるかは俺にも予想がつかん。ある程度の予測はできても対処は難しくなるだろう」


「不安ね〜」


「ああ。だが、できることは全部やるさ」


 グイッとレオルドは残っていた酒を飲み干した。そして、立ち上がると外へ向かって歩いていく。


「どこ行くの〜?」


「帰るんだよ」


「え? 放っておくつもり?」


「ん? 朝になったら各々解散するだろう。研究所に寝泊まりしていた時もそうだっただろう?」


「あー、それもそうね。なら、私も帰ろうかしら」


「なら、転移魔法で家まで運んでくれ」


「仕方ないわね〜」


 シャルロットは肩を竦めるが上機嫌である。レオルドを連れてシャルロットはゼアトの屋敷へと転移する。レオルドの部屋に転移した二人はそのままベッドへ潜り込んで眠りについた。翌朝、レオルドに腕枕をされているシャルロットが見つかってちょっとした騒動になったりした。

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