第313話 素人質問で恐縮なのですが
レオルドは自身を責めて落ち込んでいるシルヴィアを励ますべく優しい言葉をかける。
「殿下。先程も言いましたが自分を責めるのはお止めください。貴女がこれまでどれだけの国民を救ってきたか。殿下が神聖結界を発動してから十年以上も魔物の脅威から王都を守ってきたのです。そんな貴女を讃えることはあっても責めることなどありえないことです。たとえ、それが貴女自身であっても」
「レオルド様……」
「それに国は殿下の神聖結界に頼りすぎなんですよ。殿下とて一人の人間です。ならば、自身の幸福を優先しても咎められる筋合いはありません」
「それはそうなのでしょうが……私は王族ですから」
「今はです。私の元へ来てくだされば……いえ、これ以上は言葉が過ぎますね」
レオルドは自分の元へ来てくれれば、王都の守護を担っているシルヴィアの役目から解き放つことが出来る。だが、それは国民を見捨てると言ってもおかしくはない。流石にレオルドもそれがわかっているから口には出来なかった。
(ままならないもんだな……)
一息吐いてレオルドは上を見上げる。今のままではシルヴィアとの結婚は難しい。どちらもお互いの立場があるから、それが足を引っ張っている。その事実が今はどうしようもないくらいに煩わしく感じるレオルドだった。
レオルドは一旦思考を切り替えて暗い話題から明るい話題へ移る。具体的には研究の内容であり、研究所を爆発させていることも面白おかしく話す。そして、シャルロット、ルドルフ以外にも面白い人材がいたことを教える。フローラのことを話すとシルヴィアの目は鋭くなったが、ジークフリートのハーレムメンバーと知って手の平を返す。
「レオルド様。今度見学に行ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。シャルも久しぶりに殿下と会えるとなれば喜ぶでしょうし」
というわけでレオルドはシルヴィアを研究所に招くことになった。
後日、レオルドはシルヴィアと侍女のリンス、護衛のレベッカの三人を研究所へ案内した。休暇中なので警備の騎士しかいないがレオルドはシャルロットを呼んでいるので、五人で行動することになる。
「いつもここで研究を行っているのですか?」
「ええ、そうよ〜。まあ、いつも失敗して爆発ばっかりだけどね〜!」
シルヴィアが興味心に質問をしてシャルロットが答える。レオルドはその様子を後ろから見ているだけ。
「レオルド辺境伯。なぜ、いつも爆発するのです?」
一緒に研究所を見学しているレベッカがずっと疑問に思っていたことをレオルドに尋ねた。レオルドはその問いに対して考える素振りを見せてから答えた。
「そうだな。単純に術式が暴発するからだ。本来なら繋いでは駄目な術式を一部組み替えて繋ぐんだが、どうも上手くいかなくてな」
「なるほど。好きで爆発させてるわけではなかったのですね」
「爆弾魔ではないからな。まあ、そう思われても仕方ないくらい研究所を吹き飛ばしてるが」
「しかし、レオルド辺境伯にも出来ないことはあるのですね」
「まあ、俺も人間だ。苦手なことや出来ないことは多々ある」
「そうみたいですね。私はゼアト防衛戦を聞いてレオルド辺境伯ならば実現できるのではと思ったのですが」
「買いかぶりすぎだな。そもそもゼアト防衛戦で使用した魔法の数々は俺一人で考えたわけじゃない。シャルやルドルフといった協力者がいてこそ実現できたんだ」
そうやって話していると、いつの間にか研究所を一周していた。もう見るものはないので帰ろうと考えるレオルドにシルヴィアが話しかける。
「レオルド様。現状、開発が滞ってるとお聞きしましたが、どのような感じなのでしょうか?」
「ふむ。そうですね」
レオルドはシルヴィアからの質問に一つ一つ丁寧に答えていく。時折、答えに困るとシャルロットが助け舟を出してくれたりして、シルヴィアの質問を全て答えてみせた。
「そうなのですね……。その素人の意見なのですが神聖結界のようにしなければいいのではないでしょうか? わざわざ複雑な術式を一つにまとめるのではなく、単一の能力に特化した簡単な魔法陣を構築すればいいのではありませんか?」
「……そうか。その手があったか!」
「そうね! 言われてみれば私達は神聖結界に拘りすぎていたのよ! 神聖結界は複数の結界を持ち合わせた能力を持つから、それと同等のものを作ろうとしていたのが悪かったのね!」
「ああ、そうだ。別に一つにこだわる必要はなかったんだ。既存の結界魔法を改良するのは間違いではなかった。だが、その後がいけなかったんだ。俺達は結局神聖結界に囚われていた。簡単なことだったんだ。一つじゃなく複数の魔法陣を用意すればいい!」
「ええ! レオルド! 出来るわ! 一つじゃなく複数の魔法陣を構築すれば神聖結界に負けず劣らずの結界は完成するわ。既に私達が作ってきた魔法陣を分解すればいけるわよ!」
「おお! ようやく糸口が見えてきたな!」
まさに天啓が降りてきたようにレオルドとシャルロットは大盛りあがりだ。二人のハイテンションについていけないシルヴィアはオロオロしている。素人の意見だったのに、まさかこれほどまでに二人がはしゃぐとは思いもしなかったことだろう。
「あの、では、完成するのでしょうか?」
「勿論です、殿下! 既に私達が作り上げた魔法陣を分解し、複数に分けてしまえばいいだけですので、時間はかかりません!」
「そうなのですね。お役に立ててよかったです」
「最高よ、シルヴィア! ありがとう!!!」
シャルロットは感極まってシルヴィアに抱きついた。シルヴィアはシャルロットの豊満な胸に顔を埋める。
「あ、あのシャルお姉様! その少々息苦しいのですが!」
と、シャルロットの胸元で叫ぶように言うシルヴィアの言葉は届かない。シャルロットは嬉しさが爆発しているのでシルヴィアを抱きしめて飛び跳ねている。それからしばらくして落ち着いたシャルロットがシルヴィアを解放した時には軽く酸欠であった。
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