第305話 彼も成長しているんや
シルヴィアに引っ張られてパーティ会場へ戻ったレオルドはなんとか会場へ戻る前に緩んでいた顔を元に戻す事が出来た。
これで変な質問をされずに済むと安心したレオルドは一息つくのだった。
それから、二人は会場へ戻り、多くの貴族と話す事になる。基本はお祝いの言葉をいくつか貰うだけであるが、中にはレオルドの懐に入ろうとしていた。妙に媚びへつらうのでレオルドは適当に受け流して、そういった貴族は追い払った。
「ふう……」
「大変ですわね」
「まあ、仕方がありません。少々、私は目立ちすぎてしまいましたので」
レオルドはこれまでに転移魔法の復活、闘技大会準優勝、そして戦争を勝利に導いた英雄。知力、財力、武力とまさに八面六臂の活躍。目立たないはずがない。
そして、これがまだ弱冠十九歳の若者だという事。今の内に仲良くなっておけば将来更なる利益を生んだ場合、お裾分けがあるかもしれないと多くの貴族はレオルドに媚を売るのだ。
そう、レオルドと縁を結ぶことが出来れば損をすることはないのだ。レオルドと仲がいいというだけで他の貴族を圧倒できる。それほどまでにレオルドのネームバリューは強い。
「しばらくは多くの貴族が私の下を訪れるでしょう。考えるだけで憂鬱です」
「大丈夫ですわ。レオルド様。私がお支えしますので、レオルド様はどうかいつも通りに振舞ってくださいませ」
「殿下……。ははっ、頼もしい限りです。これからよろしくお願いしますね」
「はい! お任せください!」
シルヴィアはレオルドの為に自ら防波堤になることを決める。少し前は自信がなくてシャルロットにお願いしようと考えていたが、今は違う。シルヴィアは自分に出来る事は全力でやろうと誓った。それがレオルドの為、自分の為になるのだからと分かったからだ。
そして、ついに祝賀会も時間が来てしまい終了となる。貴族達は解散して、各々の屋敷へと戻っていく。レオルドも同様に屋敷へ戻るのだが、婚約者であるシルヴィアへ帰る前に挨拶をする。
「それでは殿下。良い夢を」
「……まだレオルド様と離れたくはありませんわ」
珍しく我が侭を言うシルヴィアにレオルドは驚くと同時に愛おしさが溢れてくる。可愛らしい我が侭にレオルドはつい返事をしてしまいそうになるが、まだ婚約したばかり。
ならば、ここは我慢するしかない。レオルドは溢れ出る煩悩を抑え込んでシルヴィアの手を取る。
「たとえ、どれだけ離れていようとも私は殿下のことを想っております。ですから、どうか今宵はこれでお許しを」
気障ったらしい台詞を吐きながらレオルドはシルヴィアの手の甲へ唇を落とす。普段のレオルドからは考えられない行動だが、酒も入っている上にシルヴィアと両思いということもあって羞恥心など吹き飛んでいる。
つまり、今宵のレオルドは精神的に無敵だ。まあ、このことを後から他人にからかわれでもした日には悶絶しながら大爆発を起こして死ぬ。
「レオルド様……」
当然、シルヴィアも酒を飲んでいるのでレオルドの行動にドキドキしている。心地の良い胸の鼓動にシルヴィアは満足してレオルドへ微笑む。
「私もです。レオルド様」
そして、ようやく離れる二人。だが、忘れてはいけない。レオルドもシルヴィアも高貴な身分であるので使用人や執事、そして護衛が二人を見ていたのだ。もちろん、彼らの役目は護衛や身の回りのお世話なので二人をからかうことはない。が、プライベートになれば、もしかしたらからかわれるかもしれない。
レオルドはギルバートと共に馬車へ乗り込み、シルヴィアはリンスとレベッカに連れられて王城へ戻っていく。
屋敷へ戻ったレオルドは自室へ帰ると、そこにはシャルロットが待っていた。珍しいこともあるものだなと思いながらレオルドは椅子へ座る。
「どうした? シャルが俺を待っているなんて」
「特に大した用事はないわ。ただ、暇だったから」
「そうか。なにか飲むか?」
「じゃあ、なにか貰おうかしら」
「わかった。少し待っていろ」
レオルドは使用人を呼んで酒とつまみを持ってこさせる。使用人が持ってきたつまみはマグロの刺身であった。どうやら、レオルドが取ってきたマグロが大量に余っているらしい。
「ふむ。まさか、この世界でもマグロの刺身を食べられるとはな」
「貴方の世界にもいるの?」
「ああ。高級魚でな、最高で三億ほどにもなっていた」
「凄いわね。私、あんまり魚は食べたことなかったから驚きだわ」
「そうか。なら、この機会に食べておけ。損はないさ」
「そうさせてもらうわ」
他愛もない話を続けながら二人は酒を飲み、刺身を食べる。このくらいの距離感が二人には丁度よかった。
「ねえ、レオルド。祝賀会も終わったんだからゼアトに帰るんでしょ?」
「あー、そのことなんだが、少し王都に滞在することになったんだ」
「え? どういうこと?」
「まあ、ほら、アレだ。俺と殿下は婚約しただろう? それで陛下から一つお願いを聞くことにしてな」
「どんなお願い?」
「今、この王都は殿下の神聖結界で守られている事は知っているな? 今回、お願いされたのは殿下の神聖結界に代わるものを作って欲しいということだ。そうすれば殿下も自由に王都から離れる事が出来る」
「あー、そういうことね。確かに貴方と結婚したらシルヴィアはゼアトに来なければいけない。でも、そうしたら今まで守っていた王都の守りが無くなるから、その代わりが必要ってわけね」
「そういうことだ。だから、転移魔法でゼアトに顔を出しに戻るが、しばらくは王都で神聖結界の代わりになるものを開発する」
「ふーん。それを私に聞かせたって事は手伝って欲しいって事?」
「まあ、そうだ。無理なら別にいい。ルドルフをゼアトから呼び寄せるだけだから」
シャルロットは国家に関わらない事を信条としているので今回の話は完全にアウトだ。手を貸せば王国に貢献することになる。だから、手を貸せない。
しかし、シャルロットは迷う。今回の話は確かに王国に旨みがある話ではあるが、シルヴィアの幸せにも直結する。好きな人の側にはずっといたいはずだとシャルロットは思っている。そこでシャルロットは決断する。
「手伝ってあげる。ただし、あくまでも貴方とシルヴィアのためよ?」
「そうか! お前には本当に助けてもらってばかりだな。ありがとう」
「気にしなくていいわ。可愛い妹分のためだもの。それに……」
途中で喋るのやめてシャルロットは酒を飲み、レオルドをチラ見する。
「ん? どうした?」
「んふふ。なんでもないわ。なんでも」
「そうか? まあ、なんにせよ、今後ともよろしくな、シャル」
「ええ。よろしくね、レオルド」
そうして、夜は更けていき、レオルドはシャルロットとの話し合いを終えて眠りに就いた。
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