第303話 ツンデレは需要がなければならないんや
何も言えなくなったエリナは呆然と立ち尽くす。そんなエリナをどうこう言うわけもなくレオルドはシルヴィアを連れてパーティ会場へ戻ろうとするが、シルヴィアはレオルドから離れてエリナの元へ向かう。
「殿下?」
「レオルド様。申し訳ありません。エリナ様とお話がしたいので防音結界を張っていただけないでしょうか?」
「そうですか。わかりました」
レオルドはシルヴィアがなにを話すのかを聞くこともなく、ただ願いを叶えて二人の周りに防音結界を張った。
「殿下……?」
茫然自失だったエリナはシルヴィアと防音結界に包まれて困惑する。レオルドとの話し合いは終わった。ならば、なぜシルヴィアは自分の元へ来たのだろうかと。
「本当は言いたくありませんでしたが、貴女が哀れに思えたので教えましょう。レオルド様はかつて自身が犯した罪で傷つけた人達に謝罪しているのです」
「え……? でも、彼はそのようなこと一言も」
「レオルド様が言った所で貴女は信じましたか? 頭ごなしに否定するのではありませんか?」
「そ、それは……」
「信じませんよね? ですが、信じなくても信じてもレオルド様は自らそのようなことを吹聴するお方ではありません。事実、レオルド様が被害者の方々に頭を下げて回った事は一部の者しか知りませんから」
「どうして、殿下は知っているのですか? 彼から直接聞いたのですか?」
「いいえ。私も報告で聞くまでは知りませんでしたわ。レオルド様は今や国の重要人物。ですから、その動向を把握する為に監視をつけているのです。監視の際にレオルド様は被害者の方々に頭を下げていたのです。勿論、謝った所で許してくれる方はごく僅か。ほとんどの方は恨み辛みをレオルド様に吐いておられました。中には暴力を振るわれる方もいましたわ」
「そんな……嘘……」
「嘘ではありません。全て事実です。それからレオルド様は金銭的な援助などを惜しむことなくしていますわ」
「では、ヴァネッサ伯爵にも?」
信じられないといった様子のエリナは、一番被害の大きかったクラリスのことについてシルヴィアに尋ねる。
「残念ながらヴァネッサ伯爵とは確執がありますのでレオルド様は間接的に援助をしているだけです。それしか自分には出来ないからと……」
レオルドがクラリスを襲った時の事は既にハーヴェスト公爵家が謝罪をしている。慰謝料などの金銭も支払っており、クラリスが今後困らない為に色々としているのだ。
しかし、問題が発生した。それはレオルドが改心して華々しい功績を挙げたこと。そのせいでヴァネッサ伯爵はあらぬ勘違いをされることになる。
レオルドはクラリスと結婚したくないが為に金色の豚と言われるまで堕落して自分を偽っていたのではないかと噂されてしまい、ヴァネッサ伯爵のほうに問題があるのではと。
それは違うと公爵家が否定しても火に油を注ぐように噂は広がり、ヴァネッサ伯爵の立場が追い詰められていく事になった。
しかし、それを止めたのがレオルドだ。クラリスが自身のせいで苦しめられている事を知ったレオルドは早急に手を打った。噂の火消しに走り、出所を突き止めて真実を伝えるように仕向けた。
そのおかげでヴァネッサ伯爵は落ちぶれることがなかったのだ。
(あ……。クラリスの悪口がいつの間にか無くなっていたのはレオルドのおかげだったってこと? それじゃあ、私は何も知らずに……!)
思い返せば闘技大会が終わった頃から、クラリスへの陰口は消えていた。エリナはそれを自分達が噂なのだと否定していたからだと思っていたが真実は違う。闘技大会でレオルドがクラリスの現状を聞いて手を回した結果だ。
そうとは知らずにレオルドが悪いのだと決め付けていたエリナは今更ながら後悔する。
「私は……わたしは……」
知らなかったとはいえ、レオルドを責めて正義感に浸っていたエリナは真実に辿り着き、涙を流した。
結界内で何を話しているか全くわからないレオルドは突然泣き出したエリナを見て驚く。まさか、エリナが人前で涙を流すとは思ってもいなかったから。それもエリナが嫌いなレオルドがいる前でだ。エリナが涙を流したことでレオルドは一体なにを話しているのか気になってしまう。
だが、防音結界を張ってほしいとシルヴィアに頼まれたので追求はしないことにした。聞かれたくないからシルヴィアは防音結界を頼んだのだから、無理に聞く必要はない。それに誰にだって聞かれたくない話の一つや二つはあって当然だ。
「どうして涙を流しているのかは聞きませんわ。ですが、これで分かったと思います。レオルド様は罪を犯しましたが決してそれを忘れているわけではないと」
「そうですね。殿下のおかげで思い至ることができました」
「それはなによりです」
話し合いは終わり、シルヴィアはレオルドの方へ振り返る。レオルドはシルヴィアが振り返ってきたので話し合いは終わったと気がつき防音結界を解除する。
「殿下、話し合いは終わりましたか?」
「ええ。終わりましたわ」
シルヴィアはレオルドの手を握り、パーティ会場へ戻ろうと歩き出す。釣られるようにレオルドも歩き出したら、エリナが声を掛けてくる。
「待って」
「……もう話すことはないと思うのだが」
「最後に一つだけ聞かせて。貴方はこれからも前を向き続けるの?」
「いつかは立ち止まり、振り返るときも来るだろう。だが、その時までは止まることなく俺は前に進む」
「そう……」
これで完全に会話は終わり、レオルドは歩き出そうとした時、最後の最後に意地悪をする。
「そうだ。エリナ。ジークフリートと結ばれたいならお前自身も努力することだな」
「なっ、はあっ!? よ、余計なお世話よ!!!」
顔を真赤にして怒鳴り声を上げるエリナを鼻で笑いレオルドはシルヴィアと一緒にパーティ会場へ戻っていった。そして、一人残されたエリナは悔しそうに呟く。
「やっぱり、嫌いよ。あんなヤツ」
本心から出た言葉であった。エリナはレオルドのことは多少認めても嫌いなのは間違いなかった。
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