第301話 甘い汁はちゅうちゅう吸いたくなるもん
シルヴィアと婚約してから数日が経ち、式典の準備が整ったのでレオルドは王城へ向かうことになった。今日は戦争での功績について国王から正式に通達が行われる。勿論、レオルドだけでなく多くの貴族が参加することになっている。
午前は式典で午後からは祝賀会となっている。その際にレオルドとシルヴィアの二人が婚約したことを正式に発表することになっている。レオルドは正装に身を包み、欠伸をしながら馬車で王城へ向かっていた。かつては緊張に身体が石のように固まっていたレオルドだが、多くの経験を経て心身共に成長したらしい。自然体のレオルドはむしろ様になっていた。
だが、やはり欠伸をするのはあまりにも緊張感がない。だから、一緒に馬車へ乗っていたギルバートが
「坊ちゃま。これから大事な式典だと言うのに気を抜きすぎですぞ」
「許せ、ギル。王城に着けば切り替えるから今はな」
「やれやれ、今だけですぞ?」
「ああ。すまんな」
そう言って気楽そうにレオルドは馬車の外を眺める。緊張感の欠片もないが、その自然体な姿にギルバートは感慨深いものを感じていた。昔とは違い、立派な人間になったと。かつて金色の豚と
それから、しばらくして王城へ馬車が到着する。レオルドはギルバートを引き連れて王城へ入り、用意された部屋へ向かう。そこでしばらく待機することになる。そして、部屋に騎士が訪れて式典の始まりだということでレオルドは玉座の間へ向かうことになる。今回の主役はレオルドなのだ。最後に登場するのは当然のことであった。
「では、扉が開きますので、しばしお待ちを」
「ああ。ご苦労だったな。下がっていいぞ」
「は!」
騎士に先導されてレオルドは玉座の前にたどり着く。相変わらずバカでかい扉を見上げてレオルドは鼻で笑う。何度見ても意味のない扉だろうと。
(まあ、形は大事だよな。うんうん。見栄を張らなきゃね)
レオルドが一人うんうんと頷いていると、玉座の間に続く大きな扉がゆっくりと開かれる。レオルドは気を引き締めて、真面目な顔をして、扉が完全に開かれるまで待つ。そして、扉が完全に開かれるとレオルドの名前が聞こえてくる。それを聞いたレオルドはゆっくりとレッドカーペットの上を歩いて国王の前まで進む。
国王の前まで進んだレオルドは片膝を床につけると片手を胸に添えて頭を下げる。忠義を示す姿勢をとったレオルドを確認してから式典は始まる。まずは一人の文官がレオルドの成した功績を一つ一つ読み上げていく。それから、間違いがないかをレオルドに確認を取る。
それから順調に式典は進み、国王がレオルドを褒め称えて、褒賞として爵位、金銭、領地、そしてシルヴィアとの婚姻を発表して式典は終わる。流石に今回は文句を言う貴族は一人もいなかった。むしろ、若干畏怖していた。
まだ成人して間もない若手貴族が常人には成し遂げられない功績を上げ続け、尚且つ王家の血筋まで分けてもらえることに誰もが恐れ慄いた。敵に回してはならないと。だが、味方になればこれほどまでに心強いのかと。そこで多くの貴族が画策する。どうにかレオルドと仲良くなる方法はないかと。
しかし、既にレオルドはシルヴィアと婚約を結んでおり、娘を宛てがうことも出来ない。レオルドがよほどの女好きであれば話は違ったのだが、残念ながらレオルドは普通の感性をしていてシルヴィアだけいればいいと考えているので貴族達の目論見は失敗する。そもそも。転移魔法を復活させた時でさえ失敗しているのだから過去を学ぶべきであろう。
ならば、どうするか。方法は一つしかない。レオルドが興味のありそうなことを片っ端から交渉で試すしかない。女が駄目なら金、金が駄目なら人材や特産品などだ。そういったものをレオルドに持ちかけるしか方法はないだろう。
(何か寒気がするな……)
玉座の間を後にするレオルドは絡みつく視線に背筋を振るわせる。チラリと肩越しから玉座の間に目を向けるレオルドは多くの貴族から目を向けられていることを知った。
(ちっ……どうやって俺に取り入ろうかと考えてんのかよ。くだらん)
レオルドは貴族達の思惑を見抜き嫌気がさす。レオルドは足早に玉座の間を後にして、部屋へ戻る。部屋に戻ったレオルドはドカッと椅子に勢いよく座り不機嫌だということをギルバートに見抜かれてしまう。
「なにかあったのですか?」
「くだらんことだ。言葉にこそしていなかったが多くの貴族が俺に取り入ろうと画策していた」
「それは仕方がないことかと。今の坊ちゃまは王国で間違いなく一番勢いのある者でしょうから」
「そうだな。誰だって甘い汁を吸いたいはずだ。だが、気に食わん」
そう、レオルドが気に食わないのは楽をして甘い汁を啜ろうかと考えている連中のことだ。レオルドは運命に抗うために必死に努力をしてきた。勿論、異世界の知識を用いた反則な行いではあったものの、その全てが楽だったことはない。その苦労を全く知らない連中にレオルドはいいようにされたくないのだ。
「ふん。命を賭けたこともない連中に甘い蜜をやるほど俺はお人好しではない」
これが騎士であったならレオルドは報いただろう。モンスターパニックから戦争に至るまで命を賭けた者達だ。それ相応の報酬があっても罰は当たらない。レオルドはゼアトに帰ったら戦争に参加した騎士へ褒美を与えようと考えるのであった。
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