第300話 勿論、フラグやで
シルヴィアが夕食を取り始めた頃、レオルドとシャルロットも夕食を取ろうとしたが問題が発生していた。レオルドが持ち込んだマグロをどうするかということだ。なにせ、マグロ丸々一匹だ。どう解体すれば良いかもわからない。
「レオルド。お前が持ち込んだのだからどうにかしなさい」
突然ベルーガに無理難題を突きつけられて呆けた声を出してしまうレオルド。
「……え?」
確かにレオルドは知識が豊富だがマグロの解体などした試しがない。精々、家庭科の授業でやったアジの三枚おろしがいいところだ。後は加工された魚しか調理したことしかない。だから、レオルドにマグロの解体など不可能である。
「専門家はいないのですか?」
「うちの料理人もお手上げだ。今から呼び寄せようにも時間が遅い」
「う〜む……」
腕を組んで考えるがいい案は浮かばない。誰かマグロを解体できる人間がいないかとレオルドは必死に思い出そうとする。そして、一人だけ出来そうな人間を思い出す。
「ギルなら可能なのではないでしょうか?」
「む? ギルか……。確かにギルなら出来るかもしれんな」
暗殺から家事までこなす最強の執事だ。ある意味完璧超人に近いギルバートならば可能かもしれないと考えた二人はギルバートを呼び寄せることにした。転移魔法を使ってゼアトの屋敷へと向かい、ギルバートを連れてレオルドは公爵邸に戻った。
「連れてきました」
「お久しぶりでございます。旦那様」
「ああ。久しぶりだな。元気にしていたか?」
「ええ、もちろんにございます」
少しだけ世間話に花を咲かせて本題のマグロ解体へ移る。レオルドがギルバートにマグロの解体は可能かと問い掛けた。
「ギル。つかぬことを聞くがお前はマグロの解体が出来るか?」
「マグロですか? どの程度のものか見せてもらうことは出来ますか?」
「ああ。ついてきてくれ」
レオルドはギルバートを連れて調理室へ向かい、そこでシャルロットによって冷凍保存されているマグロを見せる。それを見てギルバートはほうと息を吐き、全体を見るように歩き回る。
「これは立派なものですね。どちらでこれを?」
「俺が取ってきた」
「なんと坊ちゃまが! さぞ苦労されたことでしょう」
「ああ。激闘だった」
遠い目をしてレオルドは数時間前の戦いを思い出す。海中で繰り広げられたマグロとの激闘は今でも鮮明に思い出せる。レオルドはしばらく思い出に浸っていたが、肝心のマグロ解体が出来るのかどうかをギルバートに訊いてみた。
「それで解体は可能か?」
「ええ、もちろんです。久しぶりに腕がなりますね」
「お、おお、そうか。じゃあ、任せてもいいか?」
「もちろんにございます」
レオルドはギルバートに後を任せて調理場を出ていく。そのままレオルドはベルーガの元へ向かい、ギルバートがマグロの解体作業を始めたことを報告する。
「ほう。それは楽しみだな」
「まあ、私達は待たせていただきましょうか」
「そうだな」
それからレオルドはベルーガの元から公爵邸にある自分の部屋に戻る。しかし、その途中でシャルロットに遭遇してしまう。
「む、シャルか。なにをしている?」
「別に暇だから歩いてただけよ〜。レオルドはなにしてたの?」
「俺はマグロの解体でギルをゼアトから呼び寄せていたんだ。それでマグロの解体をギルに任せて、これから部屋に戻るところだったんだ」
「そう。じゃあ、私もついていくわ」
「好きにしろ」
そう言ってレオルドはシャルロットと一緒に自室へと戻る。そして、レオルドは椅子に座り、窓から差し込む月を見上げた。
「今日は色々とあったな」
「そうね〜。シルヴィアと婚約したんでしょ。これからどうするの?」
「そうだな。しばらくは領地の改革だ。もう俺の知っている歴史と同じかどうかは不明だが、もし同じ歴史を辿るならほんの少しだけだが俺には平穏が訪れる」
「へ? でも、貴方って確か絶対に死ぬ運命なんでしょ? しばらく平穏って次はなにが起こるの?」
「聖教国狂乱事件だ。正確に言えば教皇がある騒動を起こすんだが、まあ俺には関係ない」
「関係ないって……。じゃあ、誰が関係しているの?」
「ジークと聖女だ。二人が聖都に行くことになって物語は動くんだ」
「事前にどうにか出来ないの?」
「……出来るかもしれんが、下手をして俺に矛先を向けられたくない。そうなれば、また命賭けの戦いだ」
「いったいなにが起こるのよ……?」
「知りたいか?」
「勿体ぶらずに教えなさいよ」
レオルドは月を見上げながら話していたが、シャルロットがどうしても教えてほしいと言う風に言うのでそちらへ顔を向ける。
「邪神の復活だ。まあ、儀式は成功するが邪神の欠片というか思念みたいなもんでな。それが教皇の身体を乗っ取って暴れるのさ」
「そんなことが起きるの……」
「ああ。だから、聖教国に行かなければどうということはない」
レオルドの言う通りで、
だが、レオルドは知らなかった。運命の女神は悪戯好きであることを。まさか、レオルドは自分が聖都に向かうことになるなど、この時は思いもしなかったことであろう。
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