第298話 言う事聞かん奴は殴って聞かせるのが俺流や

「亡命すればいいんじゃない?」


「その手があったか!」


「レオルド様。亡命と簡単に言いますけど、もしも帝国が彼を見たらどう思うと思いますか?」


「……良くは思われませんね」


「そうでしょう? なら、捕まえて帝国に突き出すのが一番です」


「でも、シルヴィア。レオルドは今回の戦争で大活躍したじゃない? それに加えて王国は勝利した側なんだから多少は融通が効くんじゃない?」


「それは……わかりません。確かにレオルド様の功績をもってすればお父様、いえ、陛下は納得はすると思いますが帝国が納得するかは怪しいです。もちろん、表立って文句は言ってこないでしょうが何かしらの手は打ってくるとは思います」


「だったら、もう残された手は一つしかないわね」


 自信満々なシャルロットは腕を組んで、しばらく溜めてから残された最後の手段を三人に教える。


「私と同じように世捨て人になるしかないわ!」


「あー、その手があったか。しかし、それはお前の圧倒的な強さがあってこそ成り立つもんだぞ?」


 レオルドの言う通りだが、別にシャルロットのような強さは必要ない。一人でも生きていく力があればいいのだ。その点でいえばゼファーは合格だ。ほんの少しの期間ではあるが、この無人島で暮らしていたのだから。


「バカね、レオルド。強ければいいってことじゃないの。一人でも生きていけるかが重要なのよ」


「む……そう言われればそうだな」


「どう? シルヴィア。これなら文句はないはずよ」


「そうですね。確かにそれならば文句はないと思います。ただ、レオルド様はどうお考えなのですか?」


「……まあ、ぶっちゃけいざという時に体よく利用する形で!」


「いや、結局それかよ!」


 あれこれと言っておきながら、結局レオルドはゼファーを利用したいと答えた。それを聞いて盛大にツッコミを入れるゼファーは精神的に疲れてしまう。


「はははっ。まあ、色々と言ったが俺はお前が仲間になってくれると嬉しい。この数時間だけではあるがお前の為人ひととなりを知った。だから、何度でも言おう。俺の元へ来い、ゼファー」


 これまでの全てを吹き飛ばすようにレオルドは満面の笑みを浮かべてゼファーへ手を差し伸べる。それを見たシャルロットはやれやれと肩を竦めて、シルヴィアはクスリと笑う。気を許した相手が元敵であろうと関係ない。とことん甘い対応をするのがレオルドなのだ。


「……君は不思議な人だ。うん。僕でよければ君に忠誠を誓おう」


「いや、お前みたいな裏切り者の忠誠はいらん」


「ねえ! さっきまでいい雰囲気だったよね!!!」


「ふはははははっ! いや〜、すまん。でも、事実だろ?」


「うっ……まあそうだけどさ」


「ふっ。だがそれでいい。お前は禍津風のゼファー。ならば、自由であれ」


「……いいのかい? そんなこと言っても」


「なに、お前がもし俺を裏切っても恨みはせんよ。ただし、その時は容赦なく叩き潰すがな」


「っ! ふふっ、そうか。随分と自信のある主人だ。なら、僕の自由にさせてもらうよ」


「ああ、構わん。これからよろしくな!」


 ニカッと白い歯を見せるレオルドはゼファーと固い握手を交わした。こうしてレオルドの元に新たなる戦力が加わることとなった。その戦力の名は禍津風のゼファー。元帝国守護神でレオルドが知る中で最強の風使いだ。


「はあ〜。レオルド様は本当にお優しいことで」


「まあいいんじゃない? 今のレオルドならゼファーが相手でも十分戦えるし。それに、そんなレオルドが好きなんでしょ?」


「……はい」


 消え入りそうな声でシルヴィアはシャルロットの言葉を肯定する。なんだかんだ言ってもシルヴィアはレオルドが選択したことなら文句を言うつもりはなかった。


「さて、話はまとまったことだし、帰るか」


「そうね〜。もうここにいる必要はないし」


「では、シャルお姉様、帰りもお願いしてもよろしいですか?」


「まっかせて〜!」


 ゼファーを除いた三人は転移魔法で帰る準備をする。シャルロットへレオルドとシルヴィアは近寄り、シャルロットが転移魔法を発動させる。


「ちょっと! この魚どうするつもりだ!?」


 転移魔法で帰ろうとした時、ゼファーが声を荒げてレオルドが仕留めたマグロを指差した。話に夢中になっていて忘れていたレオルドはシャルロットにマグロを冷凍してもらい持って帰る。


「じゃあ、今度こそ帰るか! ゼファー、次に来る時は必要なものを持ってこよう! それまで生きていろよ!」


「ああ。よろしく! それじゃあ、また!」


 マグロを担いで手を振るレオルドはシャルロットの転移魔法で自宅へ帰っていく。そして、レオルド達が消えるまで手振っていたゼファーは、レオルド達が消えてからしばらく手を振っていたが、ゆっくりと下ろして水平線に沈んでいく夕日を眺めながら呟く。


「今夜のご飯どうしようか……」


 レオルドがマグロを全部持ち帰ってしまったのでゼファーの晩御飯は山菜しかない。兎はどうしたのかというと供養してしまった。二人だと物足りないからと言って。残しておけばよかったと後悔するゼファーはレオルドを見習って海に飛び込み、魚を捕獲していくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る