第293話 難しく考える必要はないんやで
「私はいつかレオルド様がどこか遠くへ行ってしまうのではないかと思ってしまい、怖いんです」
「それは……」
シャルロットはシルヴィアの言葉を否定する事が出来ない。なぜならば、レオルドがそう遠くない未来で死ぬと知っているからだ。もちろん、確定しているわけではないが、今のところレオルドが話してくれた
「もちろん、なんの根拠もありません。私の考えすぎに過ぎませんが、どうしても思ってしまうのです。レオルド様はいずれ私の手の届かない遠くへ行ってしまわれるのではないかと……」
シルヴィアはどうしても不安が拭い切れない。考えすぎだと自分で分かっていても、一度考えてしまった以上意識せざるを得ない。それに加えてシルヴィアは他にも不安を抱えている。
「それにレオルド様は今や時の人。レオルド様と繋がりを持とうと国中から、いえ、世界中から多くの人が押し寄せてくるでしょう。その中には私などよりも魅力的な女性がいてもおかしくありませんわ」
「まあ、そうよね〜。正式に発表したとしてもレオルドと近付きたいって人間は沢山出てくるでしょうね。それこそ、貴方一人じゃ捌ききれないくらいね」
「はい。そのとおりです」
「だから、私をレオルドと結婚させて防波堤にしようって魂胆だったわけ?」
「……卑怯だとは思いますが、それが最善だと思ったのです。シャルロット様もレオルド様のことを憎からず思っていると思っていましたから」
「そうね〜。確かに私はレオルドのことが好きよ。もちろん、人としてじゃなく男として。でも、レオルドが国家に所属している以上、私はレオルドと結婚する気はないわ」
「っ……! それはどうしてですか?」
「国にこき使われるようになるのが嫌だからよ。それに私はね、レオルドの最後の逃げ場所になってあげたいの。レオルドが何もかも嫌になってどうしようもなくなって逃げるしかなくなった時、私が助けてあげられるようにね」
「それでいいのですか?」
「いいのよ。それで」
「私には……そのような考えできません」
「そうね。私だからこそ出来る考えで、私にしか出来ない方法だと思うわ」
自分の力に絶対な自信を持つシャルロットだからこそ至った答え。他の誰にも真似できないような愛情表現にシルヴィアは言葉を失う。
「……私はどうすればいいのでしょうか?」
「貴女にしか出来ない事を見つけるべきなんじゃないかしら?」
「私にだけ出来る事ですか?」
「そうよ。たとえば、そうね〜。貴女が持つ神聖結界でレオルドを守るとか?」
「ですが、それだと多くの方を守れないのではないでしょうか」
「何言ってるの。貴女はレオルドと国民を天秤にかけたとき、どっちを取るつもり?」
「そ、それは……」
一国の王女として守るべき国民を選ばなければならないシルヴィアだが。今この場にはシャルロットしかいない。ならば、本音を出したところで誰かに咎められることもない。シルヴィアは少しうろたえてしまったが、自分の気持ちを正直に答えた。
「レオルド様ですわ」
「ほら、もう答えなんて分かってるじゃない。シルヴィア、難しく考える必要なんてないの。ただ貴女が思ったことをやればいいの」
「私の思ったことをですか……」
「そう。それに自信を持ちなさい。他の誰でもないレオルドが貴方を選んだんでしょ? 選ばれたんでしょ? だったら、もっと自分に自信を持って胸を張りなさい。自分はレオルドに選ばれたんだって」
「あ……」
そう、その通りだ。結局、シルヴィアは今のレオルドに対して自分では相応しくないと考えていた。華々しい功績を挙げるレオルドに比べてシルヴィアは神聖結界で王都を守護しているだけに過ぎない。しかし、それでも王都に住む人々の安全をシルヴィア一人が守っているのだから充分である。
「私でもいいのでしょうか?」
「今更、それを私に聞く? レオルドが貴女を選んだんだからいいのよ。さっきも言ったけど、もっと自分に自信を持ちなさい。そうしたら、不安なんてどこかに吹き飛ぶわ」
「シャルロット様……」
「でも、もし心が折れそうになったら私に頼りなさい。同じ男を愛するもの同士、必ず助けてあげる」
とても心強い発言にシルヴィアは瞳が潤んでいく。涙を流すのを堪えながらシルヴィアはシャルロットへ歩み寄る。
「シャルロット様。これからはお姉様とお呼びしてもいいでしょうか?」
「ええ。いいわよ。シャルお姉さまと呼ぶならね」
「シャルお姉様!」
感極まりシルヴィアはシャルロットの胸に飛び込む。シャルロットは優しくシルヴィアを受け止めて頭を撫でた。
「ふふっ。世話の焼ける妹が増えちゃったわ」
「ごめんなさい。でも、我慢できなくて」
「いいのよ。今だけは王女としての立場も役目も忘れて存分に甘えなさい」
結局の所、シルヴィアは不安に押しつぶされてしまい、考えすぎた結果焦りすぎてしまったのがいけなかった。もっと、シャルロットのように自分に自信を持つことが出来れば今後シルヴィアは不安を抱く事はなくなるだろう。
ところで忘れてはいないだろうか。レオルドの事を。二人は完全にレオルドの事を忘れてしまい、その後も仲良く談笑を続ける。
その忘れられているレオルドはというと、無人島で意外な人物と対面していた。
「貴様……なぜここにいる?」
「……君は誰だい?」
驚愕するレオルドの前にいるのは帝国守護神の一人であった禍津風のゼファーであった。
(俺を知らない……? 言われてみれば、この世界って日本人が考えたなんちゃって中世ヨーロッパ風だから写真なんてなかったな。俺はゼファーを
落ち着いて考えてみた結果、レオルドはゼファーが自分のことを知らないと考える。だから、危険ではあるが一応訊いてみることにした。
「お前が知っているかどうかは分からないが、俺の名前はレオルド・ハーヴェストだ」
「君がレオルド……!? なるほど。だから、この島に来たというわけか」
「俺の名前を聞いてもなんとも思わないのか? 一応敵だぞ?」
「ん? ああ、確かにそうだね。一つ聞きたいんだけど、戦争はどうなった?」
「王国の勝利だ」
「そっか……。やっぱり帝国は負けたか」
「やっぱりって……分かってたのか?」
「いいや。予想してただけだよ。ゼアトで戦った時に王国には勝てないって思ったからね」
「そうか。それよりも俺も聞きたいことがあるんだが」
「なんだい?」
「どうしてお前はここにいる?」
最初の質問へ戻ったレオルドはゼファーがどう答えるかと待つのであった。
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