第294話 さあ、これからサバイバルですわ!

「僕がどうしてここにいるか、か。そうだね。僕はシャルロット・グリンデに勝負を挑み敗北した。結果、ここにいるってわけだよ」


「全く分からんわ」


「まあ、きちんと説明すると僕はシャルロット・グリンデに転移魔法でここに飛ばされて戦い、敗北したってことだよ。最初はどうしようかと悩んだけど、僕は私情で皇帝を裏切った大罪人だから帰っても死刑は免れないと思ってどこかに隠れようって思いついたんだ。そこで丁度いいからここに住んじゃえばいいやってなったんだよ」


「……なるほどな。理由はわかった」


「よかった。これで追い出されたらどうしようかと思ったよ」


「もし追い出そうとしたらどうしてた?」


「抵抗するつもりだったけど君強そうだし、それにシャルロット・グリンデが怖いから大人しく言う事を聞いて島から出て行ったよ」


「そうか。まあ、俺としてはお前が敵にならないならここに住んでも構わん」


「そう? そう言ってくれるとありがたいな。ついでに我が侭も聞いてもらえればもっとありがたいんだけど」


「厚かましい奴だな。まあいい。多少の頼みなら聞いてやらん事もない。言ってみろ」


「本当かい? いやー、言ってみるもんだね」


 レオルドの意外な対応にゼファーは目を丸くした後、愉快に笑い声を上げた。


「まあ、頼みって言うのは簡単で、畑を作ろうと思うんだけど道具もなにもなくてね。魔法だけじゃどうにも出来ないからどうしようかなって思ってたんだ。そこで君にお願いしたいのが道具をわけてもらいたいんだ」


「そんなことでいいなら分けてやる。ついでだから野菜の種もくれてやろう」


「え! 種までくれるの? 嬉しいな。ありがとう!」


「そういえばお前はこんな言葉があるのを知っているか? 無料タダより高いものはないって言葉を」


「な、なんだい、その不気味な笑顔は……」


 元帝国守護神という強力な戦力にレオルドは貸しを作り、いずれ利用しようと考えた。流石は悪徳貴族だった男だ。悪巧みはお手のもの。もうゼファーはレオルドから逃げられはしない。


「はははっ。気にするな。なにかあれば俺に言え。そうすれば可能な限り応えてやろう」


「あ、ありがとう。でも、なんだか凄い不安なんだけど?」


「なに、気のせいだ。ふはははははははっ!」


 新たなる戦力を手に入れることが出来たレオルドは高らかに笑うのであった。


 しかし、レオルドは肝心な事を忘れている。ゼファーがなぜ皇帝を裏切ったのかを。私情で仕えている主を裏切るような人間に貸しを作ったところで返してもらえるかどうかは分からない。


 それから、数時間が経過して太陽が沈み始め、黄昏時となった。


「ねえ、君はいつまでここにいるんだい?」


「……」


 木の下で体育座りをして遠くを眺めているレオルドにゼファーは恐る恐る話しかける。しかし、返事はない。まるで屍のように沈黙している。


「あのさ……もしかして迎えが来ないのかな?」


「……」


「まあ、元気出してよ。たとえ忘れられていたとしても僕もいるし寂しくはないさ!」


 どうにか元気付けようと励ましているゼファーだがレオルドは一向に反応を示さない。流石にゼファーも察したのか、それ以上レオルドに話しかけなくなった。


(マジで俺のこと忘れてるのかな?)


 否定したい考えではあるが現状が物語っているので否定できない。シャルロットとシルヴィアは二人きりで話があると言っていたが、まさか忘れられるとは思いもしなかっただろう。


「はあ〜……」


 いくら待っても来ないのならば仕方がないと諦めたレオルドは立ち上がり背を伸ばす。


「んん〜〜〜! さて、どうしますかね」


 とりあえずレオルドは食料を調達する為に森へ向かう事にした。ゼファーもそちらに向かったのを見たのでレオルドは今から追えば追いつくだろうと考えての事だった。


「ん? あれ、もう動けるようになったのかい?」


「ああ。すまんな。少し現実逃避していた」


「はは。まあ仕方ないよ。忘れられたら悲しいもんね」


 そう言って笑うゼファーの手には多くの山菜が握られていた。どうやら、レオルドが来る前に見つけていたらしい。


(なるほど。意外とサバイバルに慣れているのか)


 食べられる植物を見分けられる知識は役に立つ。まあ、世捨て人になることはないレオルドにはあまり必要ないかもしれないが覚えておいて損はない。


「さて、山菜はこれくらいでいいかな。次は肉を取りに行こうか」


「ほう。どこかに罠を仕掛けているのか?」


「うん。猪でも捕まってたらいいんだけどね」


「そうだな」


 その後も適当に雑談をしながらゼファーが仕掛けた罠の場所へ向かう。

 辿り着いた場所にはお粗末な落とし穴があり、その中にはウサギが一羽死んでいた。


「まあ、こんなものか」


「もっとマシな罠を作れなかったのか?」


「本職じゃないんだから無理だよ」


「しかし、山菜の知識を持ってるんだから罠だって作れそうな気がするのだが」


「知識と技術は別物だよ。知ってても作れるかどうかはわからないでしょ」


「そうだな。そのとおりだ」


「しかし、どうするかな。僕と君の二人分には足りそうにないな」


「狩りにでも行くか?」


「使える属性は?」


「雷、水、土の三種だ」


「凄いね。流石は金獅子と呼ばれてただけはある」


「知っているのか。その呼び名を」


「まあね。一応君の事は帝国が調べていたから、僕もある程度は知っているよ」


「そうか。有名人は辛いな」


「ははは。そうだね。それじゃ、狩りに行こうか」


 二人は笑い合った後、身体強化魔法を施して森の奥へ今晩の食材を調達する為に向かうのだった。

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