第289話 祝砲だ! 祝砲の用意をしろ!

 晴れて結ばれる事になったのだが、まずやるべき事がある。それは婚約したという報告だ。レオルドは国王から自由に結婚してもいいというお墨付きを貰っているが、報告はしなければならない。たとえ、相手が平民だろうと王族だろうとも。


 レオルドは国王に報告に行かなければならないと思いつつ、泣いているシルヴィアが泣き止むまで待ち続けた。

 ようやく泣き止んだシルヴィアだが、化粧が崩れてしまったので国王へ会う前に直す必要がある。シルヴィアも化粧が崩れている事を自覚しているのでレオルドに見られるのが恥ずかしくて顔を隠すように手で覆う。


 すると咄嗟にレオルドは立ち上がり、大きな声で人を呼んだ。


「すまない。誰か来てくれ!」


 その声を聞いた侍女とレベッカが二人の下へ戻ってくる。二人はシルヴィアが顔を隠していることに気が付くと、レオルドの方へ顔を向けて事情を訊いた。


「なにがあったのですか?」


「詳しい事は後で説明する。今は殿下を」


 なにも教えてはくれなかったがレオルドの言うとおり、まずはシルヴィアの方が優先である。


「殿下。一先ずこちらへ」


「ごめんなさい。手間を掛けさせてしまって」


「お気になさらず」


「私の部屋にまで連れて行ってくれるかしら?」


「仰せのままに」


 レベッカと侍女がシルヴィアを連れて部屋へ城の中へ戻っていく。一人残ったレオルドはすぐに追いに行かず、椅子に座りなおして大きく息を吐いた。


「ぶはーっ! 緊張した……」


 先程までの毅然としたレオルドから一変して普段のレオルドに戻る。見るからに無理をしていたのかレオルドの額から汗が滲み出ていた。


「やっば……!」


 額から汗が滲み出ている事に気が付いたレオルドは汗を拭うと襟を緩めてだらしない格好をする。まるで窮屈な世界から解放されるようにレオルドはだらけた。


「ふう…………」


 物思いに耽るレオルドはぼんやりと中庭に植えられている花を見詰める。しばらく、じっと見詰めていたレオルドはみっともないくらいに顔がニヤける。


「可愛かったな……」


 思わずポツリと心の内を零すレオルド。可愛かったというのは恐らく、いや、十中八九シルヴィアのことであろう。

 運命48ゲームでも屈指の人気を誇っており、この現実世界でも類を見ないほどの美少女であるシルヴィアだ。しかも、自分レオルドに好意を抱いているのだから嬉しくないわけがない。


「さて、殿下の所へ行って陛下に報告しますかね」


 一世一代のプロポーズも終わり、緊張も完全に解けたレオルドは陽気に立ち上がりシルヴィアの元へ向かうのだった。


 そして、シルヴィアはというと侍女に化粧を直してもらっている最中だった。その際シルヴィアが一切喋らないので部屋の空気は重苦しいものだった。

 そして化粧も直し終わり、ようやくシルヴィアが口を開いたのだった。


「ねえ、聞いて、聞いて! 私、レオルド様にプロポーズされてしまったの!」


 過去最高にテンションの高いシルヴィアを見てレベッカと侍女の二人はお互いに顔を見合わせて、もう一度シルヴィアの方に顔を向ける。やはり、そこにはキラキラとエフェクトがかかったように歓喜の表情を浮かべているシルヴィアしかいない。


「はあ〜〜〜っ! 今日はなんて素晴らしい日なのかしら! 人生で一番嬉しいわ!」


「え〜っと、殿下?」


「な〜に、レベッカ?」


「その中庭ではレオルド閣下となにを話していたのですか?」


 分かりきったことではあるが、一応念のために確認を取るレベッカは恐る恐るといった感じでシルヴィアに質問をした。


「ふふっ。さっき言ったじゃない。レオルド様にプロポーズされたって」


「それはおめでとうございます。殿下。それにしても良かったですね。一時はどうなることかと思いましたが、まさか交際を飛ばして結婚とは。レオルド閣下も思い切ったことをしますね〜」


「ええ、そうね。私も最初は自分の耳を疑いましたもの。レオルド様は一体なにを仰っているのだろうと。思わず聞き返してしまいましたわ」


「でも、幻聴でもなかったのですね」


「ええ! 本当にレオルド様からプロポーズされたの! 妄想でも夢でもない現実で! 今なら理解わかりますわ。御伽噺で白馬の王子様に憧れる子達の気持ちが。これほどまでに嬉しいものなのですね」


「どうか、そのお気持ちを大事にしてください」


「わかっていますわ。この気持ちはずっと忘れません」


 大事に大事そうに自身の胸を抱えるシルヴィア。慈しむように微笑むシルヴィアの神々しい雰囲気にレベッカと侍女は言葉を失うほどであった。


 ちょうど、その時部屋の扉がノックされる。コンコンという音を耳にして我に返った侍女が対応に向かう。


「はい。どちら様でしょうか?」


「失礼。レオルド・ハーヴェストです。そちらにシルヴィア殿下はおられますか?」


「少々お待ち下さい」


 侍女はドアから離れてシルヴィアの方へ向かう。


「殿下。レオルド伯爵閣下がお見えになられました」


「レオルド様が!? すぐに中へお通しして」


「はい」


 シルヴィアにレオルドを部屋の中へ通すように命じられた侍女はドアを開けてレオルドを部屋の中へと招き入れた。

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