第290話 イチャイチャしやがって……

 部屋の中へ案内されたレオルドは、化粧を直したシルヴィアへ顔を向ける。目が合うシルヴィアは先程の事を思い出したのか、恥ずかしそうに顔を赤く染める。


「殿下。先程の事は二人に話したのですか?」


「え、ええ? もしかしてダメだったのでしょうか?」


「いえ、そのようなことはありません。いずれ知ることになりますから。それが早まっただけでしょう」


 勝手に喋ってしまったことを怒られるかと思ってしまったが、レオルドは特に気にしていないのが分かりシルヴィアはホッとする。


「それでは殿下。陛下へご報告に行こうと思うのですが準備はよろしいですか?」


「は、はい! いつでも行けますわ!」


 まるで戦にでも臨むかのように気合十分のシルヴィアを見てレオルドはクスリと小さく笑ってしまう。それを見たシルヴィアがどうして笑ったのかと訊いた。


「な、なにがおかしいのですか?」


「いえ、これは勘違いさせて申し訳ありません。おかしいから笑ったのではなく可愛らしい反応に笑ってしまいました」


「なっ!?」


 カアッと顔を赤く染めるシルヴィアは怒ってそっぽを向いてしまう。


「もうっ! レオルド様なんて知りませんわ!」


 プンプンと可愛らしい幼子のように不機嫌なシルヴィアにレオルドは頭を下げて機嫌を直してもらおうとしている。

 そんな光景を見せつけられているレベッカと侍女の二人は一体どうしたものかと頭を悩ませる。二人が仲睦まじいのは良いことなのだが、いつまでも見せつけられるのは独り身の女として辛いものがある。


 それにレオルドは先程陛下に報告に行くと言っていたので、そろそろ止めに入るべきだろう。レベッカがワザとらしく咳払いをして二人に陛下へ報告に向かわないのかと尋ねる。


「ゴホン。仲睦まじいのは大変よろしいのですが、そろそろ陛下の元へご報告に向かわれてはどうですか?」


 レベッカに言われてから二人は思い出した。二人に見られていたということを。気障なところを見られたレオルドは顔を赤く染めてしまう。それを見たシルヴィアは好機と捉えて反撃に移る。


「あらあら、レオルド様。顔を赤くしてどうしたのですか? どこか具合でも悪いのでしょうか?」


 我、勝機を得たり。とばかりにシルヴィアはレオルドをからかう。先程までとは立場が逆転したシルヴィアはまるで水を得た魚のようだ。


「お二人とも。お戯れはそこまでにしてください」


『は、はい』


 圧の強いレベッカの発言に二人は素直に従った。反省した二人は気を取り直して国王の元へ向かうことにした。


 護衛であるレベッカと世話役の侍女を引き連れてレオルドとシルヴィアは国王の元へ向かう。道中、言葉を交わすことなくただ無言でゆっくりと歩いていた。


 そして、ついに国王がいる部屋の前に着いた。後は報告するだけなのだが、ここに来てレオルドが緊張で動けなくなる。ドアノブに手を掛けようとしている手が震えており、中々動かない。


「レオルド様」


 その時、シルヴィアが安心させるようにレオルドの手を握り優しく名前を呼びかける。手を握られたレオルドはシルヴィアの方に顔を向ける。目が合うシルヴィアはレオルドに笑顔を見せる。その笑顔を見てレオルドは緊張が解けて落ち着きを取り戻す。


(ふう……。別に戦いに行くわけじゃないんだ。ただ一言伝えるだけでいいんだ。何も難しいことはない)


 落ち着きを取り戻したレオルドは深呼吸をしてドアを叩く。数秒して中から声を掛けられる。


「どちら様でしょうか?」


 女性の声が聞こえてくる。恐らく侍女が対応しているのだろう。レオルドは冷静に中の侍女へ返答する。


「レオルド・ハーヴェストです。国王陛下にご用件があって参りました」


「少々お待ちください」


 足音が遠のいていくのがわかったのでレオルドは言われたとおり、しばらく待った。すると、今度は足音が近付いてきた。どうやら侍女が戻ってきたらしく、部屋の扉が開かれる。


「どうぞ、お入りください」


「失礼します」


 先にレオルドが挨拶をして中に入り、後に続くようにシルヴィアとレベッカ、それから侍女が部屋へ入る。


「む? レオルドだけではないのか?」


「ええ。少々陛下にご報告がございまして」


 レオルドの隣にいるシルヴィアを見て国王は、どうやら付き合い始めたのだろうと察した。そんな微笑ましい二人に笑みを浮かべながら国王は座るように促す。


「ふふ、なるほどな。私に話があるのだろう? まあ、座りなさい。お茶でも飲みながらゆっくり話そうではないか」


 機嫌良さそうに国王は二人と対面するように座り、侍女にお茶を持ってこさせる。シルヴィアの侍女と国王の侍女が二人でお茶を用意している中、護衛であるレベッカとリヒトーは壁際に立って国王とレオルドとシルヴィアの三人を見守っている。


 二人に見られていることを知りながらもレオルドはシルヴィアとの婚約を認めてもらおうと国王に向かって頭を下げる。


「陛下。この度は私、レオルド・ハーヴェストとシルヴィア・アルガベイン第四王女殿下との婚姻を認めて頂きたく存じます」


「うむ。良かろう」


「やはり、一度断った手前、都合が良いと存じておりますが……はえ?」


 一度断っていたので説得しなければいけないと思っていたレオルドはすんなり承諾されたことに驚いてしまい、呆けた声を出してしまう。


「なんだ? 私がダメと言うと思ったか?」


「ええ、その、はい……」


「はははっ! まあ、確かにそう思うのは仕方ないことだろう。だが、言ったはずだぞ。私はお前の意志に委ねると。ならば、お前が出した答えを私が否定するはずがなかろう」


「陛下……! 感謝いたします!」


「ふふ。まあ、そう堅苦しくなることはない。これからは家族になるのだからな!」


「え、あ、それはそうなのですが……」


 少しだけ笑った国王はレオルドからシルヴィアへ目を向けると嬉しそうに微笑んだ。


「よかったな。シルヴィア」


「は、はいっ!」


 国王である父親アルベリオンから祝福の言葉を貰ったシルヴィアは満面の笑みを浮かべるのであった。

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