第287話 大丈夫、いつも通りにすればいいんだ

 王城へ辿り着いたレオルドはベルーガと別れる。どうやら、ベルーガは別の案件があって王城に来たらしい。ベルーガと別れたレオルドは国王の元へ向かい、褒賞についての話し合いを行う。


「良く来てくれた、レオルド。さあ、座ってくれ」


 言われた通りにレオルドは国王の前に座る。お互い椅子に腰掛けながら向かい合う形になる。


「それで陛下。この度は何のご用件でしょうか?」


「うむ。恐らくお前も予想していると思うが、今回お前を呼んだのは戦争でお前が成した功績についてだ」


「はあ。やはりそうですか」


 予想というよりはベルーガに言われていた通りなのでレオルドは特に驚くようなこともなかった。


「それでレオルドよ。私はお前の功績に対して爵位と領地と金銭を考えている。まず、爵位についてだが辺境伯に命じようと思っている。そして領地だが、今回の戦争で帝国からゼアトに面している領地を譲ってもらう事ができたから、そこをお前に任せよう。そして、金銭だが戦争で捕らえた帝国軍兵士の身代金から一部をお前に渡そうと考えている」


「なるほど。かなりのものですね。しかし、若輩者である私にそこまで与えてもよろしいのでしょうか?」


「他の者から反感を買うと思っているのだろうが、心配する事はない。今回の戦争に参加した貴族はお前を敵に回してはいけないと肝に銘じているだろうからな」


「そうですか……。それなら安心ですかね」


「ああ。それと後一つあるのだが……」


「王家との婚姻でしょうか?」


「これも予想していたか……。その通りだ。お前には我が娘と婚姻を結んでもらいたい。とはいっても強制ではない。この際だからはっきりと言うが私としてはお前の意思に委ねようと思っている。それだけの事を成したのだからな。それに好きでもない相手と結婚するのは嫌だろう?」


「……陛下」


「なにか物足りないなら付け足そう。なにが望みだ? 私が叶えられる範囲でならなんでも聞いてやろう」


 破格の条件であったがレオルドにとっては大した魅力ではない。すでにレオルドはある程度のことならば自力でどうにかできるからだ。


「特に望みはありません。充分な報酬を頂けるので、それ以上は望みすぎでしょう」


「殊勝な事を言うな、お前は。だが、それが今のお前なのだな」


「はい」


「では、これで終わりとしよう。宰相と纏めておくのでお前はもう帰ってもいいぞ」


 そう言われたのでレオルドは立ち上がり、部屋を後にしようとしたのだが、どうしても気になってしまう事があり国王へ問い掛けた。


「陛下……。その、シルヴィア殿下は今回の件について何か言ってなかったのでしょうか?」


 突然、おかしなことを聞かれるものだから国王は鳩が豆鉄砲を食らったように固まってしまう。しばらく国王は思考が停止していたが、ようやくレオルドの言葉を理解して思考を再開する。


「はっ……。今、シルヴィアの事を言ったのか?」


「ええ、はい……」


「どうして、そのような事を訊く? お前は以前シルヴィアとの婚姻は断っただろう」


「それはそうなのですが……」


「心変わりでもしたか?」


「……わかりません。ただ、シルヴィア殿下のことは嫌いではありません」


「つまり嫌いではないが好きでもないと?」


「申し訳ございません」


「いや、なに。責めているわけではない。ただ、なんだ。どうしてかと気になってな」


 国王はレオルドの心変わりに困惑していた。以前、シルヴィアとの婚約を持ちかけた際にレオルドの心情を聞いているので、レオルドがシルヴィアに好意を抱く事はないと思っていた。

 しかし、今回レオルドの口から出てきたのはシルヴィアのことについて。しかも、恥ずかしそうに顔を赤く染めているので、今は好意を抱いているのではないかと睨んでいる。


「いつの間にか私の大切な人たちの中に殿下がいたのです。臣下だとか王家だとか抜きで私は殿下をお守りしたいと思いました」


「そうか……。だが、レオルドよ。シルヴィアと結婚するという事はどちらかが我慢をしなければいけないのだぞ?」


「それは……」


「……レオルド。一度ゆっくりシルヴィアと話すといい。どのような結果になろうとも私はお前を責める事はない」


「陛下……。感謝します。それでは」


「ああ。答えが出たら私の元へ来い」


「はっ!」


 パタンと扉が閉まる音を聞いて国王は、ふうと一息吐く。


「やれやれ、困ったものだ。あとは若い二人に任せよう」


 困ったと言う割には、国王の顔は笑っていた。どこか楽しそうに鼻歌を鳴らせながら国王は宰相を呼び寄せてレオルドの褒賞について纏める。その際、ご機嫌だった国王を不気味に思っていた宰相はどうして機嫌が良いのかと聞くことはなかった。下手に刺激すると話が長くなりそうだと長年の経験から確信していた宰相である。


 さて、シルヴィアと話し合うことを決めたレオルドは王城の中にいるシルヴィアの元へ向かう。使用人にシルヴィアの居場所を尋ねてレオルドは中庭へ向かう。天気がいい日には今の時間帯シルヴィアは中庭のガゼボでお茶を飲んでいるというのでレオルドは中庭へ急ぐ。


 中庭にあるガゼボでシルヴィアとレベッカ。それから侍女の三人を見つけたレオルドは一度息を整えてから三人に歩み寄る。


「こんにちわ。シルヴィア殿下、レベッカ殿」


「あら、レオルド様? どうされたのです? 確か、陛下と話しているはずでは?」


「そちらについては既に終わりました。今は殿下と話したいことがございまして……」


 そう言いながらレオルドはレベッカと侍女に目配せをする。レオルドの意図に気がついた二人はシルヴィアに一言告げて、その場を去る。その時、レベッカはレオルドに小さな声で語りかけた。


「レオルド閣下。貴方がどのような決断を下そうとも私はその決断を尊重します。どうか、後悔なきよう」


「ありがとう。私の気持ちを汲んでくれて」


「いえ。それではごゆっくり」


 去っていくレベッカの背中をしばらく見詰めた後

 レオルドはシルヴィアと向き合う。


「殿下。座っても?」


「ええ。どうぞ」


 目の前に座るレオルドの表情は真剣そのもの。シルヴィアはいつもの雰囲気とは違うレオルドに思わず緊張してしまう。


(な、なんでしょうか。いつものレオルド様とは雰囲気が違うようですが……)


 いよいよ二人の関係も大詰めである。果たして、レオルドはどのような答えを出すのか。

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