第286話 がハハハ! これから俺の時代じゃ!

 感動の再会と言えなくはないがレオルドは家族との再会を済ませた後、オリビアに説教をされた。小一時間ほど母親に叱られたレオルドは父親のベルーガに呼ばれる。


「なんでしょうか、父上」


「これから王城へ向かう。お前も付いて来い」


「あー、戦争の件ですか?」


「理解が早くて助かる。その通りだ。今回の戦争でお前が成した功績を称えるのだが、事前に打ち合わせをしておこうという訳だ」


「なるほど。わかりました」


「では、準備をして来てくれ。私は先に外の馬車で待っている」


「早急に済ませます」


 頭を下げてレオルドは部屋を出て行こうとドアノブに手を伸ばしたとき、ある事を思い出してベルーガの方に振り返る。


「そういえば、母上たちはこのことを知っているのですか?」


「うむ。既に知っている。だから、お前の説教はほんの少しで終わったんだぞ」


 ほんの少しが小一時間というのは流石に頭がおかしい。レオルドはそれならばどうして助けてくれなかったのかとベルーガにジト目で問い掛ける。


「それなら少しくらいは庇ってくれても良かったのでは?」


 それを聞いたベルーガはフッと鼻で笑い、レオルドへ逆に問い掛けた。


「私が怒っているオリビアを止められるとでも?」


「……それもそうですね」


「だいたい、お前が無事だという一報を怠ったのが悪いのだから甘んじて受け入れろ」


「…………チッ」


「あっ! おい! 今舌打ちしただろ!」


 捕まる前にレオルドはそそくさと逃げる。扉が閉まり、レオルドの姿もなくなった部屋にはベルーガが一人残された。最後にレオルドが舌打ちをしたので思わず立ち上がっていたベルーガは溜息を吐きながら椅子に腰を下ろす。


「はあ〜〜〜。全く、レオルドめ。昔と変わっておらんではないか……」


 愚痴を吐いているがベルーガの顔は笑っている。先程のレオルドは明らかにダメな態度ではあったが、酷く懐かしいものを感じた。かつて金色の豚と揶揄されていた時と同じ態度であったが、そこまで不愉快ではない。


「ふっ……。随分と懐かしく感じるな」


 子供の成長とは早いものだとしみじみ思うベルーガであった。


 その後レオルドは王城へ向かう支度を済ませて、ベルーガが待っている馬車へ向かう。その道中にシャルロットと遭遇する。


「あら、どこか行くの?」


「ああ。王城の方にな」


「あー、戦争の件ね」


「そうだ。まあ、褒賞についてだろう」


「なにをくれるのかしらね〜?」


「さあな。無難に爵位と領地と金銭あたりだろう」


「領地ってどこがあるのよ?」


「ほら、俺が証拠を集めて王国を裏切った連中のところだよ。ゼアトの周辺だから取り込もうと思えば取り込めるんだ」


「あ〜、そういうことね。じゃあ、また領地改革で大変な事になりそうね」


「そうなるな。だが、俺としては有り難い。まだやりたい事があるからな!」


「そう。まあ、その時は私も手伝ってあげるわ」


「いつも助かる。ありがとな」


「いいわよ、別に。見ていて楽しいもの」


 ヒラヒラと手を振りながらシャルロットはレオルドと別れる。レオルドは少しだけ歩く速度を上げてベルーガの元へと向かった。


「遅かったな、レオルド」


「申し訳ありません。少々、シャルロットと話していたので」


「そうか。まあ、シャルロット殿が相手なら仕方がないか。では、行くぞ」


「はい」


 二人は馬車に乗り込み、王城へ向かう。王城へ向かう途中、馬車の中でベルーガはレオルドに尋ねた。


「ところでレオルドよ。お前、結婚する意志はあるのか?」


「急になんです?」


「いや、聞いておかねばならんと思ってな」


「はあ。そうですか。まあ、人並み程度にはあると思いますよ」


「そうか。なら、言っておくが今回お前には王家から婚姻の話を持ちかけられる事になるぞ」


「え? それはなぜです?」


「お前の功績があまりにも大きいからだ。爵位、領地、金銭。これらを以ってしてもお前に報いる事は出来ない。ならば、どうするか。答えは簡単だ。尊き血である王家との婚姻だ」


「わ〜お……」


「まあ、予想だがな。で、だ。レオルドよ。お前はもし王家との婚姻を持ちかけられたらどうするつもりだ?」


「それは……」


「断れば王家の顔に泥を塗ると考えているだろうが、そのような心配はない」


「えっ!? 父上。流石にそれは不敬では?」


「通常ならばそうなのだが、お前は特殊すぎる。今回の戦争でお前が示したものはあまりにも大きいのだ。お前はまだ報告書を読んでないから知らないと思うが、ゼアト防衛戦は圧勝だ。被害もほとんどなくな。その結果が生まれたのはお前のおかげという事は周知の事実になっている」


「そ、そうなのですか? 全然知らなかった……」


「武力、知力を示した救国の英雄であるお前は王家と対等とまではいかないがある程度のことは見逃されるはずだ。だから、もしお前が好きでもない相手との結婚が嫌なら断っても構わない。王家もお前に反感を買われたくないだろうからな」


「へえ〜……」


「だから、よく考えておくんだ。今後の事を」


「は、はい。わかりました……」


 そう言われても現実味が湧かないレオルドはぼんやりとしながら馬車の窓から外を眺める。

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