第284話 安心してお眠り

 レオルドが国王やシルヴィアの元へ歩み寄ると、国王は顔を引き攣らせながら口を開いた。


「レオルドよ。先程のやり取りはいったい何だったんだ?」


「ああ、先程のは約束を違えた結果です。ご安心ください。帝国側も了承済みなので国際問題にはなりませんよ」


「それなら安心してもいいのか……? いや、それよりもお前は相手が皇族であるのに物怖じしなかったのか?」


「おかしなことを言いますね。相手が誰であろうと約束を破るのは許されませんよ」


「それは私に対しても同じことが言えるか?」


「ええ。私は確かに陛下へ忠義を捧げている身ではありますが不義理に対してはそれ相応の対応をするまでです」


 国王に対してもはっきりと告げるレオルドは堂々としていた。国王はその態度を見てゴクリと喉を鳴らす。どうやら、レオルドは今回の戦いで一皮むけたようだ。頼もしい反面、不安でもあるが誠実に対応すればいいだけの話だ。


「そうか……。私も気を付けるとしよう」


 皮肉に笑うと国王は馬車に乗り込む。その後を追うようにリヒトーが乗り込もうとするが、レオルドの方に顔を向ける。


「強くなったね。レオルド」


「まだまだですよ。リヒトー殿」


 もしかしたらレオルドと戦う日が来るかもしれないという予感を抱きながらリヒトーは馬車に乗り込んだ。


 次にレオルドはシルヴィアの元へ向かい言葉を交わす。


「シルヴィア殿下。この度はご迷惑をお掛けしました。本来であれば、もう少し早く帰国出来たものを。私のせいで遅れさせてしまったことをお詫びします」


「ふふ、構いませんわ。レオルド様は救国の英雄。多少の遅れなど些細なことに過ぎません。どうか、頭を上げてくださいまし」


「寛大な御心に感謝を」


「それでは帰りましょう。私達の国へ」


「はい!」


 二人は別の馬車で帰ることになるが、レオルドがシルヴィアをエスコートして馬車に乗せる。シルヴィアを馬車に乗せたレオルドは自分が乗る馬車の方へ帰ろうとした時、シルヴィアの護衛であるレベッカに話しかけられる。


「レオルド伯爵。王国では答えを出してくださいね」


「んぶふぅ!」


「ふふっ、では、後ほど!」


 必死に考えないようにしていたのに、不意打ちを食らってしまいレオルドは吹き出してしまった。


「く……わかってる。わかってるよ、それくらい……」


 誰にも聞こえないよう小さな声でレオルドは心の内を零した。

 レオルドは馬車の方へ行くとカレンとシャルロットが楽しそうに話をしていた。


「随分と楽しそうだな」


「あら、レオルド。戻ってきたの?」


「戻ってくるにきまってるだろう」


「レオルド様。おかえりなさい!」


「ああ、ただいま。それじゃ、帰ろうか」


 二人と一緒に馬車へ乗り込んでレオルドは王国へ帰ることになる。思った以上に滞在してしまったが、これでようやく我が家へ帰ることになるのだ。馬車が動き出して、しばらくするとレオルドは眠気が襲ってきたのかうつらうつらとしている。


「眠たいなら寝ればいいじゃない」


「いや、そういうわけには……」


「ほら、いいから黙って寝てなさい」


「うおっ……!」


「光栄に思いなさい。私の膝枕は一国の王ですら手に入らないんだから」


「そうか……。それは光栄なことだな……」


 強引にシャルロットはレオルドの頭を自分の太ももに乗せた。それから少ししてレオルドは穏やかな寝息を立て始める。


「わあ……。すぐ寝ちゃいましたね」


「ええ、そうね。まあ、仕方ないでしょう。レオルドはずっと張りつめていたんだから」


「え? でも、結構楽しそうにしてましたよ?」


「表面上はね。でも、馬車に乗ってすぐに眠気が襲ってきたのはようやく心の底から安心した証拠だと思うの」


「でも、帝国でも眠ってましたけど……」


「多分、まともに寝れなかったんじゃないかしら。友好的な関係は修復できたけど、心の底から安心できる環境じゃなかったでしょうから」


 シャルロットの言うことは当たっていた。レオルドは帝国で満足いく睡眠が取れていなかったのだ。いくら友好的な関係を修復できたからと言っても戦争していた相手なのだ。兵士の中にはレオルドに恨みを持っている者がいてもおかしくはない。

 まあ、流石にグレンやセツナがいる中でレオルドに危害を加えるような者はいないと思うが、それでも不安はある。


 だから、レオルドは気を抜くことなく常に気を張り詰めていたのだ。そのおかげで知らぬ内にストレスを抱えていたのだが。


「まあ、ようやく安心出来たんでしょ」


 膝の上で寝ているレオルドの頭を優しく撫でるシャルロットの姿は聖母のように優しく微笑んでいた。それを間近で見ていたカレンは思わず見入ってしまう。


「ふふ。可愛らしく寝ちゃって」


 レオルドの髪を優しく撫でながらシャルロットは喜びの笑みを浮かべている。こうも無防備に身を預けているということは、レオルドはシャルロットに対して全幅の信頼を寄せている証である。それが分かっているからシャルロットも嬉しくなり微笑んでいる。


「今だけは全ての悪意から貴方を守ってあげるわ」


 必死に戦い、運命に抗い続けているレオルドを知っているシャルロットは、この穏やかな時間だけでも守り通すことを決めた。

 世界最強の魔法使いに守られているならばレオルドも今だけはゆっくりと休むことが出来るだろう。

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