第283話 やっとお家に帰れる

 ようやくレオルドの身体も万全となり、いよいよ退院となる。既にグレンの方は退院しており、仕事場に復帰していた。レオルドとグレンは入院した日は同じであったのにレオルドの方が遅いのは、色々とあったからだ。そう色々とあったのだ。


「ようやく王国に帰れるな」


「そうね〜。私も観光は終わったし、お土産も買ったからいつでも帰れるわよ」


 完全復活したレオルドの横にはシャルロットがいる。そのシャルロットの傍らには大量の買い物袋が置いてある。レオルドはそれを見て呆れたように溜息を吐いた。


「はあ〜。お前はお見舞いにきたのか遊びにきたのかどっちなんだ……」


「どっちもよ〜。大体、私が来た頃にはもう治りかけてたじゃない」


「まあ、そうなんだが……」


「な〜に〜? もしかして心配して欲しかったのかしら〜ん?」


 意地悪そうに笑うシャルロットはしかめっ面になっているレオルドのほっぺをツンツンする。


「ええい、鬱陶しい! からかうのは止めろ!」


「え〜〜〜? ホントは心配して欲しかったくせに〜」


「誰がだ! ふん!」


 図星だったのかレオルドは怒りながらシャルロットの元を離れていく。そして、レオルドが向かった先は外だ。既にカレンやジークフリートなどが帰る準備を進めていた。帝国へ来る時は徒歩であったが帰りは馬車である。国王、そしてシルヴィアと一緒にレオルド達は王国へ帰るのだ。


「あっ、レオルド様!」


 馬車に荷物を積み込んでいたカレンがレオルドに気が付き手を振る。名前を呼ばれたレオルドは手を振り返して、カレンに近付く。


「お土産は充分に買ったか?」


「はい! 子供達の分も沢山!」


「そうか。ご苦労だった」


「いえ! むしろ、これだけ良くしてもらっていいのかなって感じで……」


「はは、構わんさ。これはお前が頑張った褒美なんだ。遠慮することはない」


「レオルド様……! ありがとうございます」


「礼を言われることじゃないさ。さあ、帰る準備をするぞ」


「はい!」


 元気良く返事をするカレンと一緒にレオルドは馬車へ荷物を積み込んでいく。荷物を積み終えたレオルドのところにジークフリートがやってくる。レオルドは近付いてきたジークフリートに顔を向けて、何か用かと尋ねる。


「なんだ? 何か用事でもあるのか?」


「あ、ああ。もう身体は大丈夫なのか?」


「見ての通りだ。それよりもお前はいいのか? ローゼリンデ殿下の方に行かなくて」


「え、ああ。ローゼとは会えなくなるわけじゃないからな」


「そうか。まあ、お前がそう言うならいいさ」


「ああ。ところでレオルドは帰ったらどうするつもりなんだ?」


「ん? あー、色々とやるつもりだ」


「そっか……」


「お前は?」


「え?」


「だから、お前はなにするつもりなんだ?」


「え、あ、あー……考えてない」


「そうか。まあ、身の振り方は考えておけよ。俺もお前も帰ったら今回の件で褒賞を受け取る事になるだろうからな」


「あっ、そっか。でも、俺はレオルドに比べたら大したことしてないし……」


「アホ。ローゼリンデ殿下が口添えしてたんだし、お前も充分頑張ったんだ。それなりに貰えるはずさ」


「そうなのか……。なんかずるい気が……」


「運も実力の一つだ。黙ってもらっておけ」


「そういうことなら分かった」


「後一つ言っておくが陛下の前では言葉遣いに気をつけろよ」


「それくらい俺だって分かってるよ!」


「なら、一応上司であり伯爵の俺にも敬語を使えよ」


「それは……わかりました」


「ふっ。慣れなさそうだな」


「いや、だってレオルドにはいつも普通に喋ってたし……それに同級生だし……」


「まあ俺は別に気にせんが、もう学生じゃないんだ。いい加減、貴族としての礼儀を覚えておいた方がいいぞ。そうしないと敵を増やすだけだ」


「っ……! ああ、わかった」


「じゃあ、俺は挨拶する奴がいるから」


 軽く注意喚起をしてあげてレオルドは別れの挨拶をする為に城の方へ戻る。すると、その途中でグレンやセツナといったレオルドと深く関わった人物がレオルド達の元へ向かってきた。どうやら、お別れの挨拶をしに来たらしい。


「レオルド!」


 セツナはレオルドの姿を見かけると、一目散に走ってレオルドに抱き着く。たまたまその光景を目にしていたシルヴィアは嫉妬の炎を燃やすが、今日でお別れなので目を瞑る事にした。


「うおっと! いきなり抱きついてくるな。勘違いされるだろう!」


「だって、寂しくなるから……」


「寂しいって……。まあ、一緒に死線を潜り抜けた仲だからな。分からなくもないが、俺には帰る場所があるんだ」


「わかってる。ねえ、レオルド」


「なんだ?」


「そっちに遊びに行ったときは遊んでくれる?」


「ああ。時間を作ろう」


「やった。じゃあ、もう大丈夫。またね、レオルド」


「またな、セツナ」


 長年連れ添った友のように仲睦まじい二人。その様子を見ていた周囲の者達は二人の仲の良さに驚いていた。そして、セツナが離れてグレンがレオルドの元へ歩み寄る。


「元気そうでなによりだ。レオルド伯爵」


「こちらこそ。炎帝グレン殿」


「ふっ。貴公とはいずれ別の形で戦ってみたいものだ」


「ははは。そうですね。私も操られてない炎帝と戦ってみたくはあります」


「レオルド伯爵。改めて礼を述べよう。貴公のおかげで私は救われた。ありがとう」


「お気になさらず。私も必死だっただけですので。それでは、またいずれお会いしましょう」


「うむ。なにかあれば遠慮なく訪ねてきてくれ。いつでも力を貸そう」


 グレンとの挨拶を終えたレオルドのところへ最後にやってきたのはアークライトだ。その彼の横には美女が佇んでいる。恐らくは人質に取られていた婚約者であろう。レオルドはチラリと彼女を見てからアークライトに顔を向ける。


「お久しゅうございますね、アークライト殿下」


「そうですね。貴方と会うのはいつぶりでしょうか」


「ところで殿下。私との約束覚えてます?」


「勿論。遠慮なくやってくれ」


「では!」


 身体強化などの魔法は施さず、レオルドは純粋な力のみでアークライトの横っ面を殴り飛ばした。メキッと奥歯がかけた様な音が鳴るのが聞こえて、アークライトは数メートルほど吹き飛んだ。


「まだ物足りませんが、そちらの女性に免じて許して上げます」


 誰よりも先に殴り飛ばされたアークライトの元へ駆けつけ、レオルドから守るように両手を広げている女性を見ながらレオルドは手の平を振る。流石になんの強化もせずに全力で殴ったのでレオルドも痛かったようだ。ただ、心の方はすっきりしている。


「ぐ……寛大なお心に感謝します」


「俺ではなく彼女に礼を言うべきですね。誰よりも先に貴方の事を守ろうとしたのですから。それでは、いつかまた会う日があれば会いましょう」


 言いたい事は言えたのでレオルドもそれ以上は追及せず、別れの言葉を残してシルヴィア達が待っている馬車の方へ向かう。

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