第279話 君を追いかけてきた
医務室を飛び出してレオルドはシルヴィアを追いかけたが、出るのが少し遅かったため、どこに行ったか分からない。
いきなり出鼻をくじかれてしまうレオルドだったが、運良く廊下を歩いている兵士を見つける。彼ならばシルヴィアを見たかもしれないと兵士にレオルドは声を掛けた。
「そこの君、すまないが少し聞きたいことがあるんだが今いいか?」
「これはレオルド伯爵! お体の方はもうよろしいので?」
突然、声を掛けてきたレオルドに兵士は礼儀正しく敬礼をする。現在帝国でレオルドは客人として扱われており、兵士にも周知の事実である。
「ああ。動けるくらいには回復しているさ。それよりも、ここをシルヴィア殿下が通ったと思うのだが見ていないか?」
「シルヴィア第四王女殿下ですか? それならばあちらの曲がり角を曲がって行きましたよ」
「そうか。教えてくれてありがとう」
「いえ、礼を言われるほどではありませんので!」
「仕事頑張れよ。ではな」
兵士に礼を言って軽く労いの言葉を掛けるとレオルドはシルヴィアが曲がったという曲がり角の方へ小走りで向かう。
曲がり角を曲がったレオルドは視界の先にシルヴィアと護衛の騎士と思われる女性が歩いているのを見つける。しかし、シルヴィアと護衛の騎士はすぐに廊下の曲がり角を曲がってしまい姿を消してしまう。
慌てて追いかけるレオルドは、シルヴィアと護衛の騎士が曲がった方に向かうとシルヴィアと護衛の騎士がどこかの部屋に入っていくのを捉える。
ひとまず、シルヴィアの居場所が分かったレオルドは息を整えて乱れた服装を直す。ばっちりと決まったレオルドは大きく深呼吸をして扉をノックし、中にいるシルヴィアへ声を掛けた。
「シルヴィア殿下。レオルド・ハーヴェストです」
当然、中にいたシルヴィアはまさかいきなりレオルドが来るなど予想もしていなかったので驚いてしまう。
「えっ!? レオルド様!?」
中から聞こえてくるシルヴィアの驚いた声にレオルドも流石に急すぎたかと躊躇ってしまうが、既に声を掛けてしまったので後戻りはできない。
「はい。レオルドです。その、今お時間よろしいでしょうか?」
つい先ほど話していたのに今お時間よろしいというのはおかしな話であるが一応確認するのが礼儀というもの。それにシルヴィアはこの後用事があるかもしれないからというのも含めてだ。まあ、特にはないのだがレオルドは知らない。
「えっと…………」
シルヴィアの方はレオルドの突然の訪問に困惑しており、招き入れるか入れないかで悩んでいた。そもそもレオルドが何をしに来たのかも皆目見当がつかないので判断が難しい。そして、散々悩んだ末にシルヴィアはレオルドを部屋へ通した。
「失礼します」
部屋の中へ入ったレオルドの視界にまず入ったのが護衛の騎士レベッカ。彼女はシルヴィアの近衛騎士である。戦時中はリヒトーがシルヴィアの護衛を務めていたが戦争も終わり本来の立ち位置に戻っていた。
「殿下。私は外に出ていましょうか?」
レベッカは二人に気を使って外へ出ようとする。しかし、彼女は護衛であるので出る必要はない。普通ならだが。
「ええ。ごめんなさい。少しだけ席を外してくれるかしら?」
「仰せのままに」
軽くお辞儀をして部屋を出ていくレベッカは、部屋を出る際にレオルドに小さな声で話しかける。
「レオルド伯爵。殿下を泣かせないでくださいね」
「え?」
「それでは、ごゆっくり」
訳のわからぬまま二人きりにされてしまったレオルドはどうしたものかと頭を悩ませる。そもそもレオルドはセツナとカレンに言われて来ただけだから、何を話せばいいのかよくわからなかった。
しばらく沈黙に固まっているとシルヴィアの方からレオルドへ話しかけた。
「あのレオルド様? 何か用事があったのでは?」
「あ、そうですね。あははは〜」
特に話題も浮かばないレオルドは苦笑いである。二人の勢いに負けてここまで来たが、さて何を話せばいいとやらであった。
そのおかしな様子を見てシルヴィアは首を傾げる。一体レオルドは何をしに来たのだろうかと。
「で、殿下。その……あっ、私が献上した遺物は役に立ちましたでしょうか?」
咄嗟に思いついたのは以前自分がシルヴィアに渡した古代の遺物についてだ。
「あ……それは……」
「どうかしたのですか?」
軽い気持ちで聞いただけなのに、シルヴィアは悲しい顔をして俯くものだからレオルドも焦る。もしかして、聞いてはいけないことだったのかと。
「その……レオルド様から頂いた首飾りは……失くしてしまいました」
失くしてしまったとはどういうことなのかとレオルドは考える。純粋に失くしてしまった、もしくは効果を発揮したかだ。後者ならば役立って良かったと思うが前者だったら少々悲しい。折角役立つ遺物を失くされたとあってはレオルドも悲しみを隠せないであろう。
「あ、その、失くしたというよりは失くなってしまったというのが正しくて……」
「そうですか。では、私が献上した遺物は役に立ったのですね」
「え、あの……怒ってはいないのですか? とても貴重なものでしたのに」
「ははっ。なにを言いますか。殿下の命と比べたら遺物の一つや二つ安いものですよ」
古代の遺物はそれこそ国宝に匹敵するほどの価値を秘めている。当然、レオルドがシルヴィアに献上した身代わりの首飾りは一度きりであるが、死から身を守ってくれるのだ。立場ある人間からすれば喉から手が出るほどに欲しい代物だろう。
それほどまでの代物を安いと笑って語るレオルドにシルヴィアは胸が高鳴るのを感じた。
意図して言ったわけではないが間違いなくレオルドの発言はシルヴィアの好感度を上げた。
「殿下?」
「レオルド様。貴方はどうしてそこまでしてくれるのですか?」
「へ?」
なんのことだかさっぱり分からないレオルドは間の抜けた声を出す。一体、シルヴィアは何のことを言っているのだろうかとレオルドは考える。その様子を眺めるシルヴィアはレオルドの真意がどうしても知りたくて堪らなかった。
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