第270話 悪党は高笑いをするものなり

 皇帝を追いかけていたジークフリート達は、部屋の奥にある檻の中に見たこともない魔物を見て思わず足を止めてしまう。一体、あの魔物はなんなのだろうかと一行は考えたが、それよりも先に皇帝を捕まえるべきだと考えが一致した。


「確かこの部屋に入ったはずだけど……。どこにいるんだ?」


 先頭にいるジークフリートが部屋の中を見回すが、皇帝の姿は見当たらない。しかし、一行は確かにこの部屋に皇帝が入っていくのを見た。

 ずっと追いかけていたのだから見間違えるはずもないし、途中で皇帝が影武者と変わったような形跡もなかった。


 だとしたら、どこへ消えたのだろうかと一行が頭を悩ませていたら、皇帝の高笑いする声が聞こえてくる。


「はーっはっはっはっは! 間抜けどもめ! まんまと罠に引っかかったな!」


 どこから聞こえてくるのだろうかと一行が部屋の中を見回すと、部屋の二階から一行を見下ろして高笑いをしている皇帝を見つけた。


「貴様らはここで死ぬのだ! 行け、キマイラ!」


 高笑いをしていた皇帝は部屋の中にあるレバーを下げると、キマイラと呼ばれる巨大な魔物を閉じ込めていた檻が開かれる。

 低い唸り声を上げながらキマイラがゆっくりと檻の中から出てくる。獅子の頭を持ち、背中には山羊の頭。そして、羽が生えており尻尾は毒蛇という禍々しい姿をしている。


「ふふふ! さあ、行け! 殺せ! 愚かな奴らを血祭りにあげろ!」


 皇帝の言う事を聞いているのかは分からないが、キマイラはジークフリート達目掛けて跳躍した。


「全員避けろ!!!」


 固まっていたジークフリート達は全員バラバラに避けて散らばってしまう。

 その中でカレンはキマイラから皇帝に視線を切り替えて跳躍する。皇帝さえ押さえれば、キマイラと戦う必要などないと瞬時に判断した結果だ。


「攻撃は当たらなくても拘束することが出来れば!」


 しかし、二階にいる皇帝に向かって跳んだカレンだが、皇帝の前には見えない壁があり、辿り着くことが出来なかった。


「え……?」


「ははははははっ! そうだよな! キマイラを相手にするより俺を捕まえた方が効率的だろう! だがな、今俺がいる場所は実験体を観察するモニタールームという部屋だ。実験体が暴れても大丈夫なように頑丈に作られているのだ! だから、貴様らがどんなに攻撃しようとも傷一つ付かないのだよ! 本当ならお前達が食われる所をじっくりと見ていたかったが、今は逃げる事が優先なのでな。存分に楽しんでくれたまえ」


 落下していくカレンを見て満面の笑みを浮かべながら皇帝は逃げていく。ただそれを見ていることしか出来なかったカレンは着地して悔しさに拳を握り締めていた。


 その間、ジークフリート達はキマイラを相手に戦っていた。


「くそ! なんなんだよ、このキマイラって魔物は!」


「多分、研究されてた人工的に作られた魔物なんだと思う! でも、檻の中に入れられてたって事は失敗作のはずよ! 本来なら失敗作は処分されるはずなんだけど、このキマイラだけは別だったみたいね!」


「つまり、いつか使える日が来るかもしれないってことで残してたわけか!」


「多分そう!」


 逃げながら自分の考えを述べているローゼリンデと同じくキマイラから逃げているジークフリート。

 キマイラは巨大な見た目によらず俊敏な動きでジークフリート達を翻弄している。それに加えて口から火を吐き、山羊の角から雷撃が放たれ、毒蛇の尻尾まで注意を払わなければならない。極めて厄介な魔物である。


「く! この扉開かないわ!」


「閉じ込められたわけね!」


「でも、皇帝はこの部屋に入って、二階にいたって事はどこかに二階へ通じる道があるのでは!?」


「そうだけど、この状況じゃ探すのは厳しいわね!」


 モニカ、マリン、ミナミの三人は隙を見て出入り口の扉を開けようとしたが開かない。どうやら閉じ込められてしまったようだ。

 閉じ込められたが出口はある。それは皇帝が逃げた二階の部屋だ。そこへ通じる道がどこかに必ずあるはずだと三人は言う。


 しかし、キマイラを相手にしながら二階へと通じる道を探すのは難しい。今はジークフリートが狙われているおかげで扉の前まで来れたが、この広い部屋から二階へと通じる道を探さねばならない。


 その結果、彼女達が選んだ選択はジークフリートに協力してキマイラを倒す事だった。


「ジークフリート様! この部屋は閉ざされています。恐らくこの部屋のどこかに皇帝が使った二階へと繋がる道があるはずです! ですが、それを探そうにもキマイラが邪魔で探せません!」


「つまり、キマイラを倒さなきゃいけないってことだな!?」


「はい!」


「だったら、話は早い!」


 キマイラに追いかけられていたジークフリートは方向転換してキマイラへ向かって走る。


「うおおおおおおおおおお!!!」


 腰に差していた剣を抜いてジークフリートは飛び上がり、キマイラの胴体に向かって剣を振り下ろす。しかし、尻尾の毒蛇がそれを止めようとするが横から魔法が飛んで来て尻尾の毒蛇はジークフリートを止めることが出来なかった。


「ジークに手出しはさせないわ!」


 尻尾の毒蛇を魔法で弾き飛ばしたのはローゼリンデだ。ジークフリートはローゼリンデの援護のおかげでキマイラを斬る事に成功した。


「よしっ! 行けるぞ!」


 みんなの力を合わせればキマイラを倒せると確信したジークフリートは果敢に攻めていく。

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