第269話 空は青いんだ
玉座の間に空いた大穴から覗く景色を見ながらレオルドはその場に倒れた。大の字に寝転ぶレオルドは荒い呼吸を続けながら手の平を天井に向かって突き出した。
「勝ったぞ……!」
勝利したという実感を掴むようにギュッと拳を握り締めるレオルドは天井に向かって突き出していた手をゆっくりと地面に下ろした。
「やったね……!」
そこへセツナが歩み寄りレオルドの勝利に喜んだ。
「ああ。俺たちの勝利だ。ありがとう、セツナ。お前がいなかったら、きっと勝てなかった」
「そんなことない。きっと貴方だけでもなんとかなってたよ」
「いいや。断言する。俺一人じゃ勝てなかった。それは間違いない」
お互いに譲らないといった風であったが、やがて二人同時に笑い合う。
「これ以上言い合っても意味がないな」
「だね。それよりこれからどうするの?」
「ん? あー、皇帝がどうなったか気になるからそっちに向かおうか」
「そうだね。そうしようか」
疲労困憊である二人だが幸いにも魔力共有をしているので、まだ魔力には余裕があった。とは言っても、もう一度グレンと戦えと言われたら即座に逃げるほどしか残っていないが。
「ところでグレン様は……やっぱり死んだの?」
「さあな。無我夢中だったからよくわからん。まあ、生きていたとしても流石の炎帝も戦える状態ではないだろう」
「それなら、生きてて欲しい。戦いだから死ぬのは当たり前だけど、グレン様は皇帝に操られてたから……」
セツナの言うとおりグレンは人質を取られていた上に隷属の首輪で操られていた。本人がなにを思っていたかは不明だが、不毛な最期であることは間違いないだろう。
だからと言ってレオルドは同情も哀れみもない。最後の場面で情けでもかけていれば死んだのは自分かもしれないのだ。ならば、情けをかけないのは当然の事であった。
沈黙するレオルドとグレンの安否を心配するセツナは玉座の間を後にする。二人は皇帝を追いかけていったジークフリート達と合流しようと歩き出した。
時は少し遡り、レオルドとセツナがグレンと戦っている時、逃げる皇帝をジークフリート達が追いかけていた。道中、皇帝を守ろうと騎士達が道を阻んだが大したことはなくジークフリート達に倒された。
たったの六人。しかも、まだ成人して間もない相手に長年帝国に仕えている兵士があっさりと負けるものだから皇帝は余計に腹を立てた。
そもそもグレンが最初から侵入者を片付けておけば、自分が逃げる羽目にはならなかった。それなのに、どうして自分が惨めに逃げなければならないのだと皇帝は腸が煮えくり返る思いであった。
(くそ! どうして俺がこんな目に!)
胸の内で悪態を吐くが身から出た錆である。侵入者がいることを察知しておきながら、自らの加虐心を満たす為にグレンを一人で侵入者の討伐に行かせた事が失敗である。
万全を期してグレンに数十名の精鋭を付けるべきであった。そうすれば、レオルド達を確実に全滅させる事が出来ていた。
そうしていれば今頃皇帝は高笑いをしていただろうに。まあ、レオルドが死んだとしてもレオルドが残したものが非常に厄介極まりないので王国と本格的に戦おうとしたら多大な犠牲が出ることは間違いない。下手をすれば圧倒的戦力差を覆されて敗北も有り得る。
それはさておき、逃げる皇帝はある場所へと向かう。兵士達が役に立たないのであれば、別の方法を考えた。それは、帝国が秘密裏に開発していた軍用の魔物をぶつける事であった。
地下水路でレオルド達を襲ったソルジャーシアンを開発している研究棟に逃げ込んだ皇帝は、後ろから追いかけてくるジークフリート達をチラリと肩越しに見た。
(ふん。追いかけてくるがいい。貴様らの命運もここまでだ!)
誘導するように皇帝は奥へと逃げていく。その後ろをジークフリート達は追いかける。
「あのこれってどこかに誘導されてませんか?」
どうにも怪しいと思ったカレンがモニカへ話しかける。
「多分、罠を仕掛けてるんだと思う」
「だったら、教えた方が良くないですか?」
「無理ね。教えたとしても止まらないし、罠だと見抜いて引き返したら皇帝に逃げられる。だから、追いかけるしか手はないわ」
「そんな……」
モニカの言葉は正しい。皇帝が先ほどジークフリート達の方に振り返ったのも、ちゃんとついて来ているかの確認だった。
勘のいい者なら誘導されている事に気が付くだろう。そうすれば足を止めるに違いない。そうなれば自分は無事に逃げ出せる事が出来ると皇帝は分かっていた。
「どうするんですか?」
「どうもこうもないわ。さっき言った通りよ」
結局、皇帝の思惑通りにジークフリート達は逃げていく皇帝を追いかける。辿り着く場所がどのような場所であろうとも皇帝を逃がす事は出来ないので、罠だと知りながらも皇帝を追いかけた。
そうして追いかけていると、皇帝が大きな扉の向こうへと入っていく。それを見たジークフリート達が追いかけて部屋に入ると、見たこともない巨大な魔物が檻に閉じ込められていた。
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