第271話 主役はいない

 ジークフリートを中心にキマイラを攻略する六人はそれぞれ攻撃を仕掛ける。ジークフリートは剣と魔法を駆使してなるべくキマイラの注意を引き付けながら戦い、それをローゼリンデが魔法で援護する。残った四人はそれぞれの持ち味を生かし、死角からキマイラを狙う。


「おらあああああああっ!!!」


 キマイラの注意を引き付けるようにジークフリートは雄叫びを上げながら剣を振り下ろす。キマイラの前足を斬りつけるジークフリートにキマイラが噛み砕かんとばかりに大きく口を広げた。

 そこへローゼリンデがキマイラの顔に魔法をぶつけて阻止する。それに怒ったキマイラがローゼリンデに向かおうとすると、モニカがキマイラの後ろ足を削いで動きを止める。


 後ろ足を削がれてしまいキマイラは動きが鈍ってしまう。その隙にローゼリンデは距離を取り、キマイラから離れる。

 そして、ジークフリートが跳躍してキマイラの顔を切り裂いた。その痛みにキマイラが咆哮を上げて暴れだす。


「グゥルオオオオオオオオッッッ!!!」


 暴れ回るキマイラは自分を斬ったジークフリートを睨み付けて飛び掛る。飛び掛ってくるキマイラの下に滑り込むように避けたジークフリートは火属性魔法をキマイラの腹に向けて撃ちこんだ。


「ファイアボール!!!」


 火の玉を手の平から発射した。ドンッドンッと二発の魔法が炸裂する。これには堪らずキマイラも逃げるようにジークフリートから距離を取った。


「グルルル……」


 しばらく唸るだけで動かないキマイラ。それを見たジークフリート達は不思議に思う。


「なんで動かないんだ? 足を切られても平然と動いていたのに」


「きっとジークに恐れをなしたんだわ!」


「いや、違うだろ? アレはビビッて動けないって感じじゃないぞ」


「じゃ、じゃあ、どうしてかしら?」


 動かないキマイラを見て疑問を浮かべる二人。その傍らでキマイラをジッと見詰めて観察していた四人が驚きの声を上げた。


「あ、あれを見てください!!!」


 カレンが指を差したのはモニカが削いだ後ろ足。そこを良く見てみると、傷が治っていたのだ。そして、ジークフリートが斬ったはずの顔面の傷も塞がっていた。

 それを見た六人は、キマイラが動かなかったのは傷を治す為だということが分かった。それと同時に再生能力も持っていることが判明する。


「再生能力持ち……。幸い傷の治りはそんなに早くないのが救いって所かしら」


「そうね。つまり、再生される前に倒さないといけないわ」


「厄介な相手ね……」


 再生能力を持っていることが分かって三人は歯噛みする。ただでさえ強いのに、再生という厄介な能力を持っているので更に苦戦を強いられる事は間違いない。

 とは言っても、再生する速度はゆっくりなので倒せない事はない。傷つけた瞬間に再生するようであれば勝ち目はないのだろうが、再生する前に倒せるのだからまだマシというべきだ。


「グルゥゥゥアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 部屋全体が震えるほどの大音量で咆哮を上げるキマイラ。その咆哮を受けた六人は思わず耳を塞いだ。


「ぐっ……なんて音だ!」


 ジークフリートは耳を塞いだままキマイラに目を向けると、既にキマイラはいない。一体どこへ行ったのだろうかとジークフリートは視線を左右に振るとローゼリンデが叫んだ。


「ジークッッッ!!!」


 ローゼリンデの呼ぶ声に反応したジークフリートが振り返ろうとした時、巨大な影が覆う。影に覆われたジークフリートは瞬時に防御の体勢を取る。すると、次の瞬間ジークフリートは背後に現れたキマイラによって大きく吹き飛ばされた。


「ぐはっ……!」


 ピンボールのように跳ねてジークフリートは壁に激突する。防御していたおかげで、深手は負わなかったが壁に激突したせいで意識を失う。


「ジークッ!」


 ズルリと壁から崩れ落ちるジークフリートの側へ駆け寄ろうとするローゼリンデは周りが見えていない。キマイラは気絶しているジークフリートではなく、ローゼリンデに目をつけていた。


「殿下! お下がりを!!!」


 モニカが手を伸ばしてローゼリンデを止めようとしたが間に合わない。ジークフリートの元まで駆けるローゼリンデ目掛けてキマイラは跳んだ。

 そのままローゼリンデを引き裂いてやろうとキマイラが爪を振り下ろそうとした瞬間、キマイラの横っ腹にカレンの強烈な飛び蹴りが炸裂する。


「ゴアッ……!?」


 吹き飛ぶキマイラ。それを見て目を丸くするモニカたち。そして、飛び蹴りを華麗に決めたカレンは綺麗に着地してふんすと鼻を鳴らした。


「師匠直伝の飛び蹴りです!」


 ギルバートから教えられた格闘術に加えて風魔法による強化ブースト。二つが掛け合わさって放たれた飛び蹴りは大砲の如き威力を秘めていた。

 それをまともに受けたのだからキマイラもただではすまない。吹き飛んだキマイラは低い唸り声を出しながら立ち上がり、カレンを睨みつけた。


「グルルゥ……!」


「殿下、今の内です! ジークフリートさんを!」


「え、ええ! ありがとう!」


 あまりの衝撃に固まっていたローゼリンデはモニカの一言で我を取り戻し、倒れているジークフリートの元へ駆け寄る。


 気絶しているジークフリートに声を掛けるローゼリンデを横目にカレンとキマイラが睨みあっている。キマイラはカレンを脅威と認識したのか、先程よりも動きが慎重になっていた。

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