第257話 相手にとって不足なし!

 睨みあっていた二人だが、グレンが先に動いた。真っ直ぐにレオルドへ向かって駆ける。

 レオルドは真っ直ぐに突っ込んでくるグレンに剣を構えて迎撃態勢を取る。


 グレンがレオルドの間合いに侵入した瞬間、レオルドがグレンに向かって一閃する。しかし、グレンは紙一重で避けてレオルドに拳を叩き込む。が、レオルドも負けずグレンの拳を避けてみせた。


 すかさず剣を返してもう一閃するがグレンは屈んで剣を避けるとレオルドの足を蹴り飛ばす。軸足を蹴られてバランスを崩したレオルドにグレンは追撃の拳をぶつけようとするが、レオルドは崩れた体勢から斬撃を放った。


 予想外の斬撃にグレンも驚いたが対応できない速度ではない。グレンは後ろに飛んで斬撃を避けた。そこへレオルドが猛追して剣を振り下ろすがグレンに真剣白刃取りされてしまう。


「っ! 見事!」


 思わず敵であるグレンを賞賛してしまうレオルド。


 だからと言って手を抜きはしない。レオルドはそのまま力任せに押し切ろうとするが、グレンが蹴りを放った。

 レオルドは咄嗟に剣を手放し、後ろへと飛んだことで蹴りを避ける事ができた。


 唯一、アドバンテージとなっていた剣を手放してしまったレオルドは小さく舌打ちをする。


「……ちっ」


 徒手空拳が苦手というわけではないのだが、やはり接近戦をするならばリーチのある剣を持っていた方が有利である。


(剣を失ったのは辛いな……)


 レオルドの目の前でグレンは剣を燃やした。少なくともレオルドの剣は高名な鍛冶師に作られたもので、そう簡単に壊れるものではない。

 それを簡単に燃やしてしまうグレンの強さが異常なだけである。


 剣を燃やし尽くしたグレンは先程と同じように正面からレオルドへ突っ込む。格下だからと甘く見ているのかとレオルドはピクリと眉を吊り上げた。


(くそ! 舐められてるのか!?)


 正面から突っ込んでくるグレンに対してレオルドは土魔法で壁を作る。一旦、距離を置こうと考えたレオルドは後ろへと飛ぶ。

 しかし、後ろへと飛んだ先にはグレンが待ち構えていた。レオルドがそのことに気が付いた時は既に遅かった。

 レオルドが飛ぶ方向に待ち構えていたグレンは回し蹴りでレオルドを吹き飛ばす。


「がっ、はぁ……!」


 壁に激突したレオルドは大量の息を吐きながら崩れ落ちる。


(グレンめ……! 俺の動きを予想したのか!)


 痛みを堪えながら立ち上がるレオルドの眼前に炎の塊が迫る。咄嗟に横へ飛んで炎を避けるレオルド。そこへグレンが回り込み炎を避けたレオルドを殴り飛ばす。


「ぐぅっ!」


 頬を思い切り殴られたレオルドは大きく吹き飛び、ゴロゴロと地下牢を転がる。倒れたレオルドは口から血をペッと吐き出しながら立ち上がる。


(なんつー重たい一撃だ。ギルに殴られ慣れてなかったら意識飛んでたぞ。帰ったら感謝しておくか)


 日頃の鍛錬のおかげでレオルドは意識を保てていた。帰ったら感謝しなければならないなと心の中で笑いながらグレンに顔を向ける。

 グレンの方は隷属の首輪をされているせいで感情が読めないので無表情である。そんな不気味な姿にレオルドは悲しくなっていた。


(ほんとなら、会話とか出来たんだろうに……。残念だ。まあ、会話を楽しめるかと言われたら微妙なんだけどな)


 思考を切り替えてレオルドはグレンへ向かって走り出す。グレンは向かって来るレオルドに炎を放つ。迫り来る炎をレオルドは避けると、お返しと言わんばかりに水魔法アクアスピアを五発撃った。


 真っ直ぐにアクアスピアはグレンに向かっていく。グレンは飛んでくるアクアスピアを見て、レオルドと同じように土魔法で壁を作りアクアスピアを防ごうとする。

 しかし、レオルドも簡単に防がれる事は分かっている。だから、グレンが土の壁を作り、自らの視界を塞いだ所へレオルドはアクアスピアを操作して軌道を変えた。


 土の壁にぶつかるはずだったアクアスピアは土の壁を避けるようにグレンへと向かう。グレンは土の壁の向こう側から軌道を変えて飛んでくるアクアスピアに驚くが顔には出ない。

 両手を交差させて障壁でアクアスピアを防いだグレンは次の攻撃を警戒する。しかし、一向に来る気配がないのでグレンは両腕を下ろして土の壁を解除する。


「ほんの少し痺れてろ! ショックウェイブ!」


 土の壁を解除したグレンの先にいたのは魔法を放つレオルドだった。放たれたショックウェイブをグレンは避ける事が出来ずに直撃してしまう。

 そして、レオルドの言う通り、グレンはほんの少しではあるが麻痺で動けなくなってしまう。


 この隙にレオルドは首輪を破壊したかったが、グレンが麻痺している時間はあまりにも短い。だから、レオルドは戦略的撤退を選んだ。


 逃げる事は恥ではない。むしろ、レオルドにとってグレンは勝ち目の無い相手。ならば、逃げる事こそが正解なのだ。


「ダメ押しだ!!!」


 出口へと猛ダッシュするレオルドは土魔法で地下牢を塞いだ。これで少なくとも数秒から数十秒はグレンを引き離せる事ができる。


「今の内にカレンたちと合流してセツナを味方にしなきゃ勝てんぞ、あんな奴!」


 勝てないことが分かったレオルドはなんとかセツナを味方にしなければと地下牢を脱出した。

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