第255話 一度嘘ついた奴は信じられねえんだ
シルヴィアの暗殺もリヒトーの活躍により防がれた。残すはレオルド達が皇帝を取り押さえる事だけとなった。ただ、戦争自体は勝利しているのでもう意味のないことなのだが、残念な事にレオルド達は帝都にいる為知らないので作戦を続行していた。
地下水路を抜けて帝都にある城へと無事に潜り込んだレオルド達はローゼリンデの協力者に力を借りる事となったのだが、その協力者が問題だった。
「お久しぶりです。レオルド伯爵」
「ええ。お元気そうで何よりです。アークライト第五皇子殿下」
笑顔で握手をしている二人だが、レオルドの方は頬がピクピクと痙攣している。それもそのはず。アークライトは一度レオルドと対面しており、その時の印象は最悪であったからだ。
王国とレオルドを引き裂こうとアークライトは嘘をシルヴィアに吹き込んだのだ。幸い、シャルロットのおかげで有耶無耶になったがレオルドはその時のことを忘れてはいない。
握手を終えた後、アークライトは妹であるローゼリンデに顔を向ける。
「よく無事に戻ってきました。ローゼリンデ」
「お兄様。お聞きしたいのですがセツナは今も地下牢に幽閉されているのでしょうか?」
「ええ。彼女はまだ地下牢に繋がれています。私が監視を引き付けますので、彼女を解放してください」
「わかりました。では、私達は先に行きます」
そう言ってローゼリンデが地下牢へと向かおうとした時、レオルドがアークライトに声を掛ける。
「ローゼリンデ殿下。申し訳ありませんが私はアークライト殿下を信用する事が出来ません」
「なにを言っているの。私達が誰にも気付かれずに城へ入れたのもお兄様の協力があったからよ。それを忘れたわけではないでしょう?」
ローゼリンデの言うとおり、レオルド達が地下水路から城へと入る際にアークライトが協力してくれたおかげで誰にも気付かれる事なく城へと入ることが出来た。
しかし、レオルドにとってはそれとこれとは別だ。前にされた事を根に持っているレオルドはどうしてもアークライトの事が信用出来ない。
「まあ、貴方ならそう言うと思いました。ですが、どうか今だけは信じて頂けないでしょうか? 私にも助けたい人がいるのです」
「殿下。貴方が私になにをしたのか覚えておいでで?」
「ええ。勿論です。しかし、どうか今だけは信じて欲しい。望むならばこの命、貴方にあげましょう」
そう言って、膝を付き頭を下げようとするアークライトにローゼリンデが止めに入る。
「お兄様! お止めください! レオルド伯爵! お兄様と過去に何があったかは知らないけど、今だけは怒りを静めて頂戴!」
必死に説得するローゼリンデを見てジークフリートもレオルドの怒りを静めようと口を開く。
「レオルド。あの人も頭を下げてるんだし、今は抑えたらどうだ?」
「……殿下。全て片付いた時はお覚悟を」
レオルドは一先ず感情を押さえ込み、皇帝を取り押さえる為にアークライトを信じる事にした。
(くそ。後で絶対ぶん殴る)
信じる事にしたレオルドだが許してはいなかった。この戦争が終わった暁には、その端整な顔が変形するまで殴る事を決めたのだった。
それからレオルド達はローゼリンデの案内に従い地下牢へと向かう。地下牢には監視がいたが、後から来たアークライトが監視を引き付けてくれたのでレオルド達はその隙にセツナを救出する為に地下牢へと侵入する。
セツナが囚われているのは最奥だとローゼリンデが言うので最奥を目指す。
最奥へと辿り着いたレオルド達は手分けして牢屋の中を覗くがセツナと思われる人物はどこにもいない。これは騙されたのでは思ったレオルドがローゼリンデに問い掛けようとしたとき、ローゼリンデが頭を抱えて喚き出す。
「嘘! なんで!? ここにいるはずなのに! どうしてどこにもいないの!」
これが演技なら彼女はなにかしらの称号を送られるほどの大女優にでもなれるだろう。しかし、どう見ても本気で戸惑っているようにしか見えない。
頭を抱えて戸惑っているローゼリンデにレオルドではなくジークフリートが優しく問い掛けた。
「ロゼ。本当にここで間違いないのか?」
「間違いないわ! 嘘じゃないの! ジーク、貴方は信じてくれる?」
「ああ。ロゼが嘘を付いてないってことは分かるよ」
「ジーク、ありがとう」
(ふむ……。確かにあれだけ取り乱していたら嘘には見えない。それに好きな男を騙すような事はしないはずだ)
二人のやり取りを見ていたレオルドもローゼリンデが嘘は付いていないと判断した。
だが、別の問題が出てくる。セツナを救出して味方に加える事が出来なくなったので皇帝の側に控えているであろう炎帝に対しての切り札が無くなってしまった事だ。
(さて、どうするか。セツナがいないんじゃいつまでもここにいるわけにはいかないし……。さっさとここを出て……。待て。なんでアークライトは知らなかったんだ? セツナがここにいないことを)
疑問を浮かべるレオルドだったがすぐに移動しなかった事を後悔する。
「ッ……!」
ゾワリと背筋に悪寒が走る。それはレオルドだけでなくその場にいた全員にも悪寒が走った。
悪寒が背筋を駆け抜けたレオルドはバッと来た方向に顔を向ける。
コツコツと誰かが歩いて来る音が聞こえる。ゆっくりと何者かがレオルド達に近づいていた。
その音を静かに聴いていたレオルド達は緊張にゴクリと喉を鳴らす。
(このプレッシャー……! 最悪だ。最悪の事態だ! くそったれが!)
徐々に近付いて来る音と共に圧倒的な存在感を感知したレオルドはギリっと歯軋りを鳴らす。
やがて、音の主が近付いてきて、その全貌が露わになるとレオルド以外は驚愕に目を見開いた。
「炎帝グレン……。どうして貴方がここにっ!」
叫ぶローゼリンデの目の前には帝国最強と名高い炎帝グレンが立っていた。
騙されたのかは分からないが、レオルド達にとって絶体絶命の危機という事だけは確かであった。
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